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ランチボックス同盟  作者: ORCAT
第2章 信頼
31/41

信頼とアップルパイ

「ごちそうさまでした」


 部屋を出た後、ホテルに着いた時に集会をしたホールで俺たちは夕食をとっていた。

 料理は全てバイキング形式で、生徒自ら好きなように料理を自分の皿に盛っていた。

 スーツ姿のホテルマンたちがせわしなく料理を追加していて、改めて高校生の食欲のすごさを感じた。


「あれ?周、早いな」


 その食欲のすごさを特に物語る柳は、まだ皿の半分ほど料理が残っていた。

 ジューシーな唐揚げ。ケチャップがたっぷりかかったフライドポテト。右手に持ったフランスパンには生ハムが大量に乗っかっていた。


「お前が食いすぎなんだよ。俺は昔からバイキングの時はこんなもんだ」


「あー、そういえば前になんか言ってたな。バイキングとかビュッフェは好きじゃないって」


 特にこれといって理由が浮かばないんだが、なぜかバイキングになるとぐっと食べる量が減ってしまう。

 恐らく皿から溢れるほど料理を盛りたくない気持ちと、何度もおかわりしに行くほどうまいものに出会ってないからだと思う。

 特に野菜好きな俺としては、サラダくらいしか野菜がないのも気に入らない点だ。


「じゃあちょっと席外すよ」


「ん?あー、エレンちゃんのとこね」


「そういうこと」


 そう言って空の皿を乗せたトレイを片付けて、御田を探した。

 今回の夕食では座る席の指定はなく、生徒は元々同じ中学のメンツや新しくできた友達と集まってバラバラに席に座っていた。しかしちらほらと、たまたま隣に座った生徒同士が楽しそうに談笑している様子も見られ、見ているこちらとしてもなぜか微笑ましい気持ちになる。

 ただ問題がないわけではない。生徒がバラバラに座るということは、御田がどこにいるのかはすぐにはわからないのだ。


「困ったな」


 キョロキョロと辺りを見回すこの状況。あまり喜ばしくないのでさっさと見つけたいんだけど、人を見つけるのは苦手だからな・・・


「ーーーなにしてるのよ」


 ふと後ろを振り返ると、山盛りのデザートをトレイに乗せた紗羅がいた。

 ちょっとしたこう着状態というか、ケンカした後のような状況なので、いつもの調子に戻るのはもう少しだけかかりそうだが、いいタイミングだった。


「お、おう。紗羅か。いや、御田のこと探してるんだけど、見てない?」


「エレンちゃんなら一緒に座ってるけど、、、」


「それはちょうど良かった。案内してくれない?」


 俺が御田を探していることに少し疑問を持ったのか、怪訝そうな顔をしたものの、持っていたデザートを早く食べたいのか、紗羅はなにも言わずに歩き出した。

 御田がいた場所はさっきのところから距離は離れていないものの、よそより人が多い場所で見えにくいところだった。これは見つからない。


「エレンちゃん、周が呼んでるけど」


「おぉ来たか!玄野よ!」


 紗羅と御田がいた席にはクラスの女子が全員揃っていた。もちろんそこには月岡や西空、灰山の姿もあった。


「なんだお前ら、もうそんなに仲良くなったのか」


「あー、聞いたよ玄野くん」

「なんか紗羅とエレンちゃんに腕つかまれながら寝たんだって〜?」

「手出すの早いよね〜」


 俺の質問を無視してクラスの女子はあの夜の話を切り出してきた。

 御田が話したのかと思いそっちを睨んでも、御田自身も少し照れている様子だった。

 ということは、、、

 そう思い紗羅の方を睨むと、紗羅はデザートを口に頬張りながら、首をゆっくり回し俺と目を合わせようとしなかった。

 全く。


「別に手なんて出してないし、そもそも紗羅と御田は雷が・・・」


「わーーーー」


 それまで俺を意図的に無視していた紗羅は、急に手をバタバタさせながら大声をあげた。すかさず灰山が聞いた。


「どうしたの?紗羅」


「な、なんでもないから!別に!ほ、ほら周はエレンちゃんに用があるんでしょ!」


「ん?あー。まぁ俺が用あるっていうか、御田に呼ばれただけなんだけど」


 おそらく雷が怖いことはクラスの友達には言いたくないんだろう。仕方ないからここは黙っておくか。

 というか、なんであの日のことを紗羅は喋ったんだ?


「おぉそうじゃった」


 御田はそう言って近くに置いてあった紙袋の中から透明なタッパーを取り出し、俺へと差し出した。

 開けてみると甘い香りが鼻を抜けた。ちょうどいい具合に焦げ目のついたパイ生地。その隙間から見える今にも溶けだしそうな半透明に輝くリンゴ。中身は俺の大好物のアップルパイだった。

 好物だがあまり食べる機会がないので、自然と俺はテンションを上げていた。


「おぉ!!アップルパイじゃん。これどうしたんだ?」


「この前玄野の家に泊まらせてもらったお礼じゃ」


「えー、これエレンちゃんが作ったの〜?!」


「そうじゃ。我が家の専属パティシエにアドバイスをもらいながらじゃが、わらわが全部作った」


「すごーい。見ただけで美味しそう」


「私いつも焼きが甘かったりするのよねー」


 周りにいたクラスの女子もその出来には驚いているようだった。特に、、、


「玄野くん。半分、いや一口でもいいからそれ味見させてもらえないかしら」


 西空はその目の色が変わるほど興味があるようだった。

 それもそのはず、西空はお菓子作り同好会に所属しているほどお菓子作りが大好きなのだ。

 よく我が家でのお泊りイベントの時に西空はお菓子を持参してくれるが、そのほとんどが彼女の自作という強者つわもの

 おはぎのような和菓子からカステラのような洋菓子までありとあらゆるものを作っていたりする。

 そんな西空さえこんなに興奮するとは。


「あーじゃあ、西空にだけ半分やるよ。後のみんなは悪いな」


「仕方ないなー」

「ねね、エレンちゃん。今度作り方とか教えてくれない?」


「も、もちろんじゃ」


 どうやら御田の心配はこれ以上しなくてもいいみたいだな。クラスにも馴染んできたみたいだ。


 その後、西空に一切れの半分アップルパイをあげて、俺は自分の部屋へと急いだ。

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