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ランチボックス同盟  作者: ORCAT
第2章 信頼
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信頼と名簿チェック

ピチュンピチュン


スズメの鳴く声が聞こえてきた。

目を開けるとあぐらをかいた足に、カーテンの隙間から朝日が差していた。

どうやら眠っていたらしいことにようやく気づいた。


「ふぁ〜」


両手は未だに御田と紗羅に握られているので、体だけでも伸びをして眠気を飛ばそうとした。

その拍子にそれまで肩にかかっていた毛布が床に落ちた。多分蓮さんがわざわざかけてくれたんだろう。


「後でお礼言っとかないとな」


昨日は寝ない覚悟とか言ってたけど、やっぱり色々疲れていたらしい。

視線を落とすと、安心した顔で小さな寝息を立てる2人が見えた。

昨日の雷を怖がっていた様子をもう思い出せないほど穏やかな表情をしている。


「可愛い顔してんな」


そんな2人に自然と笑みがこぼれた。


「おはよ〜・・・」


ちょうど同じタイミングで、パジャマ姿の恵美がリビングに現れた。

眠い目をこすりながらキッチンの方へと向かった。


「おはよ、恵美。飯なんか頼めるか?」


「ん?なんかあったの?」


妹が疑問に思うのも無理はない。

このお泊まりイベントの時では、夕飯こそ妹に任せているが、朝飯はいつも俺が作っていたからだ。


「あー、ほら。今、両手が塞がってて」


物理的に。

手が動かせないので顔を動かして、両手を見るように恵美に促した。


「はーん。妹を差し置いて美女2人に腕掴まれて喜んでるんだ」


「今の俺のセリフのどこからそんなものを読み取った」


なぜか妹に蔑まれたような目で言われた。

そもそも俺は喜んでなんかいない。


「まぁ、起こしてまで手をはがそうとしないのはお兄ちゃんらしいよ」


そして溜め息をつかれ、呆れられた。


「みんなの分も作ろうか?」


「あー悪い。冷蔵庫にハムあったはずだから、適当にハムエッグ作ってくれないか」


「はーい」


俺に悪態をつきながらも、なんだかんだやってくれる妹には頭が上がらない。

恵美がフライパンでベーコンを炒めると、パチパチという油のはねる音と食欲をそそる香ばしい匂いが辺りを包んだ。

おそらくこの音と匂いでみんな起きてくれるだろう。

何より俺の胃がすでに飯を欲していた。




■ ■ ■




「「「ごちそうさまでしたー!」」」


皆の元気な声が部屋に響いた。

あの後、結局誰も起きる気配がなく、仕方なく片っ端から俺と恵美で皆を起こしてまわった。

寝すぎなのでは。とも思ったが、よく考えれば女子たちは雷を怖がっていて疲れただろうし、それに伴い男子たちも疲れていたのだ。主に腕を掴まれていたことに。


「それにしても、玄野の家の料理は美味じゃの」


「ありがと、エレンちゃん」


「わらわの家の料理人にも教えてやりたいぐらいじゃ」


お屋敷の料理人のくせに一般家庭に負けるとは、こはいかに。


「さてと、そろそろ出かける準備をせんとのう」


そう呟いて御田が席を立った。

その様子をみんなが不思議そうに見ていた。


「ん?どっか行くのか?御田」


「何を言っておるのじゃ、玄野。今日も学校じゃろうが」


学校?


「あー、エレンちゃん。さては朝の連絡聞いてないなー?」


「こらこら、柳。転校したばかりの朝なんですから、緊張して聞き忘れたってこともあるでしょう」


「え、でも昨日の朝って七瀬ちゃん何も言ってなくなかった?」


「そうですねー。私もそんな気がします」


「皆、何を言っておるのじゃ?」


柳や護、月岡に西空の言ったことが御田には全然わからないみたいだ。


「あー、聞いてないのか?」


「だから何のことじゃ?白河、教えてくれ」


とうとうしびれを切らして、紗羅に助けを求める御田。


「え、だって。明後日宿泊研修だから前日は休みだよ?」




■ ■ ■




「聞いてなかったんじゃが」


「あははー、悪いね御田。先生すっかり忘れてたわ」


「忘れてたで済むことかのう」


「やー、玄野。でかした」


「しっかりしろよな」


結局、七瀬先生がただ単に連絡し忘れていただけだったようだ。

荷物を持って学校に行くと、すでにバスが駐車場に何台か止まっていて、その周りにはワクワクした雰囲気を隠しきれない一年生たちが大勢いた。

旅のしおりがない御田のために、あの朝急いでポールさんのところに向かい、必要なものを揃えたのだった。

で、今日も道をまだ覚えていない御田のために紗羅と一緒に学校に来た。


「御田もいい加減道覚えろよ」


「なっ!?ここまでの道は複雑なのじゃ」


「2回しか曲がらないだろ。どこが複雑なんだよ」


はぁ〜。迷子になるやつはよくわからん。

地図が読めないやつなら身近に1人いるけど。


「な、なによ。周。こっち見ないでくれる」


紗羅は昔から方向音痴で、地図が全く読めない。クルクル回すだけで自分がどこにいるのかわからなくなるらしい。

まぁ、女子の方が空間認知能力低いらしいから、ある程度は仕方ないことだけど。


「はーい、じゃあみんな聞いてくれ」


そんなことを考えていると、七瀬先生が小さな脚立に乗りメガホンで呼びかけた。


「そろそろ出発の時間だから、バスに乗るときにクラス代表が名簿にチェックするので、チェック漏れのないようにバスに乗ってくれ」


「「「はーい」」」


「クラス代表とは誰なのじゃ?」


「灰山かな?」


「周くーん」


「あ、そうそう。こいつだよ、クラス代表」


ちょうど名前を言ったときに、灰山が俺らの方に駆け寄って来た。


「紗羅と、、エレンさんもいたのね。よろしく」


少し息が上がりつつも2人に挨拶をした。

で、俺の名前呼んでたけど


「なんかあったのか?」


「ちょっと1人じゃ名簿チェック大変だから、手伝ってくれない?」


「何で俺なんだよ。別にやってもいいけどさ」


そう言って灰山が持っていた名簿の半分を受け取った。


「周くん、頭いいからクラスの人の名前と顔一致してると思って」


「何で俺が頭いいって決めつけるんだよ」


入試でもそんなにいい点数を取った記憶はない。というよりも、変に高い点数を取らないように調整したつもりなんだが。


「ま、まぁまぁ。何となくそんな気がしたからかな、あはは・・・」


いつものクールな感じとは裏腹に、なぜかどもる灰山。


「灰山ー。名簿チェック早くしてくれー」


「あ、はーい!・・・ほら、周くん。行くよ」


そう言うと、灰山は俺の手を握り無理やりバスの入り口へと連れていった。


「おいおい、手繋がなくたってついてくって」


走りながらそう言ったが、灰山は振り返らず、手を握ったまま俺を連れて行ったのだった。




ーーーその表情は少し不機嫌そうなのに、顔はなぜか紅潮していた。

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