信頼と送迎
「すまぬ、玄野」
「だからもう謝んなって。どうせ家の方向は同じなんだから」
あれから校門で帰り道がわからなくなっていた御田を、なんとか説得して住所を聞き出し家まで送ってる次第である。
のはいいんだが、すでに10回以上謝罪の言葉を耳にしている。どうしても俺に迷惑をかけたくなかったみたいだけど、理由は多分アレだろう。
「じゃが!わらわと関わると・・・」
「家、もうすぐだぞ」
その理由を口にするのに被せるように、俺は会話を続けた。
御田の家に近づくにつれ、引越しのトラックが多くみられるようになった。おそらく御田の家のものだろうけど、問題はその量だ。
「なぁ、御田の家って広いのか?」
「それはまだ分からぬ。昨日は近くのホテルに泊まった故、家はまだ見ておらぬのじゃ」
「そうか」
「なんでそんな質問をするのじゃ?」
「いや、まぁなんとなく」
・・・2トントラックを5台も6台も見ると聞きたくはなる。まぁ、行けばわかるか。
■ ■ ■
「家・・・デカイな」
「そうか?わらわには小さく見えるぞ?」
住宅街の一角にあったのは、普通の家の三軒分はありそうな敷地を持つ洋館だった。
ちなみにがっしりとした鉄の門がある。
想像をはるかに超えてた。
周りにはまだ積み荷を乗せたトラックが何台か残っていて、引越しの作業員がひっきりなしに家とトラックを行き来していた。
そして玄関にいたのは、作業員に的確に指示をしているポールさんの姿だった。
「爺や、帰ったぞ」
「おぉ、お嬢様。おかえりなさいませ。学校までお迎えに上がれず申し訳ありませんでした」
「構わぬ。わらわは1人でもここに来れた」
「何嘘ついてんだよ」
「イテッ」
と、俺は御田の頭にチョップを入れた。
「はぁ〜。帰り道わからないようなんで、住所聞いてここまで送ってきました」
「ありがとうございます、玄野様。ご迷惑をおかけしました」
「いや、迷惑なんてことは・・・」
大したことしてないのにそんな深々とお辞儀されても、こっちが逆に困ってしまう。
「お礼に今すぐにでも美味しい紅茶を差し上げたいところなのですが・・・」
そう言って後ろを見たポールさんの視線を追うと、何人ものメイドたちが慌ただしく荷物を整理している様子が伺えた。というか、本物のメイドさん初めて見た・・・
「まだお部屋の準備もままなりませんので」
「あー、全然気にしなくていいですよ」
「すみません、玄野様。それと、お嬢様・・・」
またも深いお辞儀をしたあと、今度は御田の方を向き直してポールさんが口を開いた。
「なんじゃ、爺や」
「お嬢様のお部屋も整理がされておりませんゆえ、この家でお住みになるのは明日以降となります」
「そうか。では今日もホテルか?」
「それが・・・この辺のホテルが軒並み満室でして」
この辺は住宅街だから駅の方まで行かないとホテルはないし、今は何かの祭りがあり全国から人が集まってるようで、どのホテルも空いてないようだ。
ということは、、、
「わらわは野宿か?」
いやいや、それは流石にないだろ、御田。
「そうなりますかね」
待て待て待て待て。
「ポールさん!」
「ん?なんでしょうか、玄野様」
ついツッコミ癖があるせいで口が出てしまった。でも、今日は家に帰ってやることがあるし・・・
ん?これは逆に好都合なんじゃないか?
「あの今夜、俺の家に友人集めて泊まるんですよ。良ければ御田も入れましょうか?」
「本当ですか!」
俺の思いもよらない誘いに驚きながらも喜んでいる様子のポールさんと
「いや、爺や。それではいかんのじゃ」
オロオロと仕切りに俺とポールさんの顔を見比べている御田だった。
「どうしてですか?お嬢様」
「え、、、それは・・ほ、ほれ。玄野の両親にも負担がかかるゆえ」
御田はなぜか汗をかきながら俺の家に行かない理由を挙げた。
「俺の家、滅多に両親帰ってこないし」
「で、では保護者がいないと泊まるのはのぉ」
「今日呼ぶメンバーの中に保護者くらいいるよ」
「男ばかりの中にわらわだけ女子がいてものぉ」
「女子も3人いるって」
「うぅ・・・」
ことごとく俺に論破されその場にうずくまってしまった。
「何故わらわをいじめるのじゃ!」
「なんでだよ」
そんなに睨むなよ。はぁ〜。
「じゃあ野宿すんのか?」
「それは・・・いやじゃけど、、、」
「じゃあいいじゃん。来いよ」
丸まっている御田に手を差し伸べると、渋々といった様子で手を取り立ち上がった。
「それではお言葉に甘えまして、今夜はお嬢様をよろしくお願いします」
「任せてください、ポールさん」
「くれぐれもお嬢様に変な真似をしないように」
「あ、はい」
さっきまですごい優しそうだったのに、今の顔。まぁそれくらい御田のことが大事ってことだよな。その後ポールさんには、今日うちに来るメンバーと保護者である西空のSP、蓮さんの連絡先を教えた。
「じゃあ、行くか。御田」
「了解じゃ」
こうしてひょんな事から御田を家に招くことになった。




