信頼とゴスロリ
「何してるのよ、周」
背中を押していた紗羅が、不満げに俺の横から顔を出してきた。
「いや、なんかリムジンがあって。珍しいから」
「リムジン?」
窓の外を指差すと「本当だ」とつぶやいて、紗羅が目を丸くした。
「どこかのお嬢様かな」
「女子とは限らないだろ。でも、そんな金持ちみたいな奴いたっけ?」
「さぁ、、、聞いたことはないけど」
それとも、まだひと月しか経ってないから他のクラスのメンバーのことを知らないってだけか?でも、リムジンでくるなら目立つから話題くらいには上がるよな。何しろあの自称情報通の柳が何も言ってこないあたり、進学クラスか?
それとも、、、
「転校生?」
「え?転校生なの?」
「いや、あくまでその可能性もあるってこと」
今まで見たことないなら、その可能性だって十分にあり得る。
まぁでも、俺らには関係ない話だろ。
「じゃあ荷物とってくる」
「う、うん」
「あ、そういえば。さっき灰山が言ってた『私は取らない』ってどういう意・・・」
「さっさと行け!」
「ぐはっ!」
なんだよ。気になったから聞いてみようと思ったのに。
■ ■ ■
冬に比べて随分と日が落ちるのが遅くなり、まだ夕日が俺と紗羅を照らしている。
朝に受けた紗羅の要望で、今夜はボンゴレ・ビアンコだ。ちなみに紗羅に朝聞いても、当然答えられなかったボンゴレの意味だが、ハマグリなんかの二枚貝の複数形をイタリア語で『vongole』という。つまり二枚貝の入ったパスタってことだな。まぁ日本ではアサリを入れるのが主流だし、現地でもハマグリじゃなくてアサリを使うことがあるらしい。そしてビアンコの方はというと『白色』という意味で、もう1つ有名なボンゴレ・ロッソのロッソは『赤色』という意味だ。要するにトマトソースを使うボンゴレをボンゴレ・ロッソと言って、使わないボンゴレをボンゴレ・ビアンコと呼ぶ。
「へぇー、そんな意味があったんだ」
「まぁ気にしないと、こんなの知ることなんてないよな」
「さすが、ご飯のことでは物知りね」
「そりゃどうも」
というわけで、紗羅と買い物を済ませてアサリなんかを買ってきた。それにしても、夕飯のための買い物を2人でするなんて改めて考えると、夫婦みたいだよな。
「な、なによこっち見て」
「ん?・・・いや、なんでもない」
そんなこと言ったら怒られそうだな。それとも意外と照れるだけだったりな。
プップー!
と、突然後ろからクラクションを鳴らされた。道の端の方を歩いてるつもりなんだけどな。この辺は歩道と車道の境目がないけど、これでも通れないってことはトラックか?と思い、振り返ると5、6メートルはある黒い、、、
「リムジン?」
なんで?こんなところに?
とりあえず、道の脇によって車を通すようにしたが、
「周、これって」
「ああ」
間違いなく学校で見たリムジンだ。この時間に帰るのは多くないとはいえ、何回かはあった。それなのに、こんなリムジンを見逃すなんて、そう考える方が難しいだろうな。
こりゃ近くに転校生が引っ越してきたと考えるのが普通か。
・・・変なやつじゃなきゃいいけど
■ ■ ■
「んー♡おいひい」
「あんまり口に詰め込みすぎるなっての。はぁ」
お気に入りのエプロンを外しながらダイニングの机に戻ると、紗羅が早速パスタを口に頬張っていた。
まぁ、こんなにも美味しそうに食ってくれたら、作る側としては嬉しいけどな。
頬張りすぎてハムスターみたいになってることは言わないでおいてやるか。
「野菜もちゃんと食えよ」
「わ、分かってるわよ」
いつも素直じゃないのに、飯食うときだけはやたら素直になるよな。こいつ。
ちなみに、紗羅の両親も共働きなので・・・と、いうか。紗羅の両親は俺の両親と同じ職場で働いている。
ーーーというか、だ。この際説明すると、俺の親父と紗羅の親父さんは双子の兄弟。俺のお袋と紗羅の母さんは双子の姉妹。なのだ。親父同士が医者で、お袋同士が看護師だ。
つまり、双子の長男長女同士が俺の両親。双子の次男次女同士が紗羅の両親ということになる。
「なのに、なんでこんなにも違った子供が生まれるかね」
「なによ。またいつもの?」
「うん、まぁね」
両親は一卵性の双子同士。つまり遺伝子的には全く一緒。なのに、生まれた子供は顔つきも性格も、
「頭の良さも違う」
「自分で言わないでくれる?」
つまり、ほとんど似ていない。つくづく遺伝子の多様性には驚かされる。
と、頭の良さそうに聞こえる話はこの辺にしといて。そんな訳で、共働きの親に変わり、尚且つ料理の下手な紗羅に変わって、俺が飯を作ることが普通になっている。
「そういえば、恵美ちゃんは?」
「あー、部活で遅くなるとは言ってたけど」
妹は今年で中2。ソフトテニス部に入っていて、1年の頃からスタメンに選ばれている。なんて妹だ。しかも、委員会でもクラス代表をしているという、いわゆる出来る生徒。
家ではソファに寝転がって『お兄ちゃん、ごはんまだー?』とか言ってくるぐーたら娘なんだが、その辺クラスの連中はわかってるんだろうか。
ピーンポーン
「あ、恵美ちゃんかな」
「え?あいつ鍵でも忘れたのか?」
いつもは自分の鍵で開けてくるんだけど、、、なんて考えながらも玄関に向かう。
一応、外の様子見てみるかとドアのレンズから外を見てみると、
「この家も留守かのぅ?」
ゴスロリの服を着て、透き通るような白い髪をした赤目の女子が立っていた。
「・・・え?」
玄関の先にはリムジンが見える。
まさかとは思うけど、、、
「転校生?」




