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ランチボックス同盟  作者: ORCAT
第1章 秘密
2/41

秘密と護衛

「つ、疲れた・・・」


 調子に乗って小走りで学校に向かったが、すでに俺の体力は限界を迎えていた。それもこれも、高校が丘の上にあるのが悪いんだ。


「春休みの間、引きこもってた周が悪いに決まってるでしょ」


 ・・・おっしゃる通りです。

 中学を卒業してから今日まで、俺は用事がなければほとんど外に出なかったのだ。いわゆる引きこもり。

 まぁ、用事のある日は外出してるし、別に支障もないから、問題な・・・


「学校に登校するだけで息上がってるのに、支障がないってどういうことよ、周」


 ・・・・・・おっしゃる通りです。

 こういうところだけは紗羅の言っていることは正しいんだよな。癪にさわるけど。

 紗羅の方はといえば、大変だった受験勉強も無事に終えて、春休みは友人たちとプチ旅行に出かけたらしく、どこかの誰かさんみたいな運動不足にはならなかったようだ。全く誰なんだかそんなヤワなやつは。


「周は外に出なさ過ぎ!もやしになるよ?」


「俺はそんなにひょろひょろじゃないし、白くもないっての」


 誰がもやしだ、このやろ。

 そんな他愛もない会話をしながら、かなりの疲労感を抱えた足で進んでいくと、やっと目的地が見えてきた。


「はぁ〜。やっと着いた・・・」


「あーー。またため息吐いてるっ!」


 俺がため息を吐くなり紗羅がまた文句を言ってきた。


「そろそろ諦めろよ。俺にため息吐かせないようにするの」


「だって・・・」


「だって、なんだよ」


「なんでもないわよ、、、」


 紗羅が頬を膨らませて俺を睨んできた。照れて殴られるのが嫌だから言わないけど、怖いっていうより可愛いからな?絶対に言わないけどさ。

 それにしても、俺がため息吐いたって紗羅には影響ないだろうに、なんだってそんなに躍起になって止めたがるのか。

 そんなこんなで、ようやく到着した星野ヶ丘高校。この辺でもかなり有名な高校で、比較的最近だが建て替えがあり、真新しい校舎が目の前に広がっていた。特徴といえばやはりその形だろうか。正門からちょうど左右対称の形で校舎が横に広い。そして校舎正面の上の方には、重厚感あふれる時計があった。

 時間はまだ早いというのに、1年生とみられる生徒の姿が多く見られた。おそらく初日からの遅刻を恐れて早めに来た、しっかりした人たちなんだろう。

 しかし、その中に一風変わった・・・というか、もはや周りが避けて通るほど変な男女二人組がいた。自転車を担ぎながら苦しそうに高校へと向かう茶髪の男と、それを真剣な眼差しで応援する長い黒髪の女の子。

 ーーー柳と西空だった。


「頑張って下さい。あとちょっとですよっ、柳さん」


「はぁ、、、はぁ、、、やっとかぁ〜」


 何やってんだ?あいつら・・・

 まぁ、あらかた予想はつくんだがな。


「ちょっと!どうしたの2人とも?」


 見かねた紗羅が2人のもとに駆け寄った。


「いや、、、それが聞いてよ、紗羅さん。ハァ、、、ハァ、、、実はね・・・」


「2人乗りで丘を登ってたら意外と坂が急で、スピードが落ち、転んだ拍子にタイヤが曲がってこれ以上走行不能。だけど自転車をそのままにして放っておけないから、担いで学校まで登校・・・みたいなところか?柳」


「・・・相変わらずだな。ご名答だよ、、、周」


 苦しそうだが呆れたように笑って、柳は肩をすくめた。


「流石ですね、玄野さん」


「西空も大変だったな。急に歩くことになったりして」


「いえ、柳さんの応援できて楽しかったです」


 輝くような笑顔で西空が答えた。

 あー・・・そうですか。本人がいいんなら言うことはないけど、西空ってどっか抜けてるよな。天然というか。そこが多くの男子たちのハートを鷲掴みにしていることは言うまでもないけど。


「ねぇ・・・」


 急に制服の袖が引っ張られた。後ろを振り向くと、なぜか納得のいかない様子の紗羅が袖を掴んでいた。


「うん?どうした、紗羅」


「・・・なんで分かったの?」


 ん?何のことだ?

 俺が難しい顔をしたためか、紗羅が説明を加えた。


「柳くんのこと。何で転んだとか、走れなくなったとか分かったの?」


「あー、なんだそのことか」


 別になんてことはないんだけどな。


「実は数キロ先の柳の様子を見てたからでな・・・」


「えっ!本当に?」


「・・・嘘だよ」


 紗羅・・・そこ普通信じるかよ、まったく。こいつのこれからが思いやられるよ。


「じゃあ、何で分かったのよっ!」


「そう焦るなって・・・ちょっと考えただけだよ」


 本当のことを言ったのに紗羅にじっと見つめられてしまった。

 一から説明しないと信じないってか。


「・・・まずは状況把握。自転車に乗ってたはずの柳が、なぜかその自転車を担いでいる。ここから考えられることは?」


「えっ・・・えぇーと、、、」


「どう考えても自転車使えなくなったとしか考えられないだろ。で、よーくみてみると自転車のタイヤが曲がってる。2人乗りといえど、運動神経バツグンの柳が運転ミスするわけない。だったら運動神経でも対処できなかったことがあったわけで、ここまでの坂道でスピード落ちてバランスでも崩したんだろ。そのせいで転んでタイヤが曲がってしまった。でもここまでの通学路で自転車を置いておけるような場所はなかったから、仕方なく学校まで担いできたと。そうだろ?」


 やっと息を整えた柳が頷いた。


「何も間違ってないよ」


「てな訳だ。これで信じてもらえるか?」


「え?、、、うん。わかった・・・」


 こいつ、さては分かってないな?

 まぁそもそも、なんで紗羅がそんなこと気にするのかはわからないけど、ただ単に興味がわいただけだろう。

 さてと、あんまりここに長居するのも良くないな。


「解決したんならそろそろ移動しないとっ・・って」


 紗羅たちにとりあえず学校に入るように促そうとしたら、今度は誰かと肩がぶつかった。


「おいっ!ちゃんと前見て歩けよ、新入生」


 その上いちゃもんをつけられた。3人組の先輩。俺らの制服のブレザーとは違い、先輩方は学ランを着ていた。

 ーーー進学クラスか。


 星野ヶ丘高校が有名な理由がもう一つある。大きな2つのクラスだ。俺らが通うことになる【通常クラス】と、一流大学への進学を何より先に考える【進学クラス】。2つのクラスの共通点と言えば、同じ名前の高校に通っていること、だけだ。使う教室の場所も異なれば、教師、教育内容や制服に至るまで、ほぼ違う学校の生徒なのではないかと疑うくらい違いがある。その特殊性から生徒の注目の的になるのは容易に想像できる。ちなみに俺がこの高校を選んだ理由は『家から近いから』のただ一点のみだ。そして、わざわざ通常クラスを選んだ理由はーーー


「おいっ!ぶつかったのに謝罪の一言もねぇのはどういうことだ?通常クラスの新入生よっ!」


 ーーー進学クラスで、通常クラスの生徒を過剰に見下す考えが根付いているという噂を耳にしたからだ。

 何てことはない。ただ自分たちのクラスの方が

 大学の進学率が高いので、上の立場にあると勘違いしてるだけのことだ。もちろん、すべての進学クラスの生徒がそのような考えを持ってはいないらしいが、今のこの状況を見ればそれも少数派だと思うのは自然だろう。

 事実周りを見渡せば、進学クラスの制服を見るなり目を背け、足早に学校へと向かう通常クラスの生徒と、通常クラスといざこざが起こっているのを見て薄ら笑いでその場を通り過ぎる進学クラスの生徒が見られた。

 どうやら噂は本当のようだ。通常クラスと進学クラスの溝は深いらしい。

 ーーーそんな溝なんて興味のかけらもないけどな


「前向いてなかったのは先輩方なんじゃないですか?」


「あっ?なんだと?」


 進学クラスの生徒にしてはえらく口調が荒いな。筋肉質な体つきから見て、おそらく体育系のクラスの生徒なんだろう。


「僕らが校門の前で立ち止まってたのは謝りますけど、ぶつからないように避ければ良かったじゃないですか」


「俺らに問題があるってのか?」


「直接言わないようにしてるのに、それを聞くのは愚図ぐずの所業ですよ。先輩」


 その一言は先輩方の頭に血管を浮かせた。正直こんな考えを持っている人は、自分より立場の弱い人が自分のいいなりになるのが楽しくてやってるだけだろうから、あえて反抗的な態度でやる気を削ぎ落とそうとした。

 しかし、それはまた紗羅たちを怯えさせてしまったようだ。紗羅は俺の背中に隠れてしまい、西空も柳の後ろに隠れた。

 確かに、こんなにゴツい人に囲まれれば怖がるのも仕方ないか。


「それじゃあ、そろそろ行かなきゃいけないので。この辺で失礼します」


 これ以上話してても埒があかないので、さっさと学校に入ろうとしたが、俺に反抗された先輩方は標的を変えた。


「あれれ?綺麗な髪だねぇ」


「きゃっ!」


 振り返ると、そばを通り過ぎようとした西空の髪を、1人の先輩が掴んだ。いやらしい顔をして女の子の髪を触るなんて、相当趣味が悪いな。

 はぁ〜・・・それにしても、本当にしつこい。


「離してくださいっ」


「えぇー。少しは俺らに付き合えよ」


「そうそう、連れの男たちも助けようとしないし」


 事実俺らは西空から離れつつあった。もちろん、柳も俺も西空を見放したわけではない。離れる理由は恐怖からだ。


「お、おい、周。お前麗奈を助けてやれよ」


「いやいや、なんで俺なんだよ。お前の方が日頃から付き合いあるだろうが」


「2人とも何やってるのよ」


 お互い相手に西空を助けてやるように仕向ける2人を見て、紗羅が呆れたように肩をすくめた。


「こいつ口だけみたいだぜ」


「怖がってんならさっさと謝れよ。特にお前」


 そう言って指さされたのは案の定俺だった。まぁそれもそうか。そもそもの原因は俺だしな。

 仕方ない。謝るか。


「あー、分かりました。西空を助けてやれなくてすみません・・・蓮さん」


 謝罪の言葉が自分たちではなく、後ろの方にされたのに気づき、先輩たちは面倒くさそうに後ろを振り向いたが、すぐにその動きを止めた。

 なぜならそこには数十人もの黒ずくめのSPと


「まったく、あのように挑発しては、お嬢様の身に何かあるのは自明なのでは?」


 ーーーそのSP達さえ恐れる女SP、鎌ヶ谷(かまがや) れんさんが、鬼の形相で先輩の後ろにいたからだ。普段あんなに優しそうな顔をしている蓮さんだけど、西空のこととなると話は別らしい。本人には言えないけど、本当に鬼・・・。


「え・・・あ。う、、、」


 対して先輩達は、さっきまであんな啖呵を切っていたのに、額からは冷や汗を流し、今や母音しか声に出ていなかった。

 それもそのはず。SP並びに蓮さんの後ろに『ゴッゴッゴッゴ』という擬音が見えるほど怒りをあらわにしているからだ。というか、もう見えます。

 蓮さんが味方なのはわかってるけど、死ぬほど怖いんですけど・・・。周りの生徒も2、3メートル離れて警戒している。


「まぁ今回の件は近くにいた柳さんが一番の原因でしょうね」


「えっ!俺かよ」


「あなたがお嬢様をお守りしないでどうするんですか」


「いや・・・えー。俺?」


 蓮さんの追求にタジタジになってしまっている柳。もちろん西空と日頃から付き合いのある柳が、蓮さんとも知り合っているのは言うまでもない。が、陰で恐れているのもまた言うまでもない。

 蓮さんと柳が少し話をしている間に、西空の髪をつかんでいた先輩はそっと手を離し、何も言わずに学校の方へと逃げていた。


「やれやれ、あれだけの殺気で逃げてしまうとは」


 蓮さん・・・高校でなんてことをしようとしてたんですか?


「ありがとう、蓮。もう下がっていいわ」


「かしこまりました、お嬢様。周りにはくれぐれもお気をつけて」


「ありがとう」


 まるで今までのことがなんでもないかのように西空が対応して、SP達はどこかへと行ってしまった。


「皆様おさわがせしました。行きましょうか」


 こちらを振り向いて、綺麗な笑顔で西空がそう言った。


 ーーーーこれがかつて西空を苦しめ、しかし希望も与えた秘密だった。

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