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ランチボックス同盟  作者: ORCAT
第1章 秘密
17/41

秘密の終わり

 南条先輩が持っていたのは紛れもなく


「ここの地区の・・・FPSの大会優勝トロフィー?」


 俺の秘密を暴くのには十分なものだった。


「え、じゃあ坊やって・・・」


「まさか・・・」


「あの【Kurφ(クロ)】のメンバー?」


 はぁ〜、、、、


「ばれちゃいましたか」


 今度という今度は言い逃れできないな・・・。

 でも、この人たちなら大丈夫だ。今なら言えるはず・・・


「先輩方のいうとおり、俺は【Kurφ】のメンバーでした」


 両親が医者だと言った時は大声で驚いていた先輩方も、今回ばかりは絶句している。

 もちろん、柳や紗羅、妹の恵美はこのことを知っている。だが、『とあること』がありこのことは黙ってもらっていた。


【Kurφ】。前に説明したクランの1つ。FPSのしかもBFTシリーズのみに特化して活動していたクラン。数年前に突如として現れ、国内大会の記録などを次々と塗り替え、果てにはアジアで1位、世界で6位という成績まで収めた驚くべきクラン・・・と、世間では言われている。自分が所属していたためそこまでの凄さは感じてなかったが、周りから見るとこういうイメージらしい。


「すみません、黙ってて・・・」


「いえ、玄野くんにも言いたくないことの1つは2つあるでしょうから。気にしなくてもいいんですよ」


「なんか言えなかった理由でもあるのか?」


「・・・」


 副部長の言葉も最もだろう。ゲーマーの間だけとはいえ、こんなにも有名なクランに入ってたことを隠すなんて普通ではおかしい。

【Kurφ】に所属していた時はそれはそれは楽しかった。ゲーマーの同志と一緒にゲームをすることの楽しさに気づいてはいたものの、それを確信したのは紛れもなく【Kurφ】のおかげだ。

 そんな楽しいものを広めないわけがない。中学生だった当時の俺は信頼のある友人に話した。これでもっと仲間を増やせる。もっと楽しくなれると・・・。



 ーーーだが、友人の反応は俺の想像とはまるで違っていた。


「周・・・」


 紗羅が俺の名前を呼んで袖を引っ張った。

 気づけば手のひらに爪のあとが残るほど、拳を力強く握っていた。


「無理しないで・・・」


「ごめんな、紗羅」


 先輩方もなんとなく察したのか、静かに見守ってくれていた。


「でもここで言わなかったらまたダメになりそうだから」


 ひた隠しにしてきた秘密がゆっくりと解けていくのが分かった。

 まだ怖い。あの頃のことは未だに夢に出てくる。だけど、それでも、そろそろサヨナラする頃かな。


「皆さんに話します。僕の過去とーーー



 ーーー色のなくなった時の話を」



  ■ ■ ■



 話は場所を変えて再度リビングで行われることになった。全員分のほうじ茶を恵美が入れた後、みんなが座っているのを確認して口を開いた。


「さっきも言いましたけど、僕は小学生の頃から勉強はできていました。自分で言うのもアレですけど」


 その後、近くの中学に通い始めた。小学校の頃よりは人数が増え、その分俺のように成績のいい生徒も現れた。中には中学受験に落ちてしまったものの、素晴らしい才能を持つ生徒までいた。


「まぁそんな中でも俺はゲーム欲しかったですからね、勉強をもっと頑張りました」


 と、言っても今まで以上に授業をよく聞き、理解し、ノートをとることくらいだった。家では宿題をやるくらいで後の時間はゲームをするくらいの生活だった。変わったことといえばテスト前に勉強をするようになったことくらいか。


「で、まぁそんな時ですね。野良のオンラインでFPSをしていたら、たまたま一緒になったチームの人とチャットをし始めまして、、、」


 それが後に【Kurφ】のリーダーとなるクロとの出会いだった。


「クロさんってアレだろ?メチャクチャ戦法変わることで有名な」


「あー、そうですね。まぁ戦法変わるっていうか、なんでもできちゃう人でしたからね」


「スゲーな。坊やそんなスゴイ人と知り合いだったなんて」


「実際に会うと大した人じゃないですけどね」


 ただ、本当にいい奴だった。いつも笑って、いつも人のことを思いやれる人だった。

 そしてナセもそのチャットに加わり、仲良くなり、3人で考えたのが『クランの創設』。ひたすら仲間を集めようというものだった。当時は大会だの試合だのは全く気にせず、ただ集まってさわげる場所が作りたかっただけに思えた。

 その目標に向けて俺はさっき言ったように信頼できる友人に話し、『いっしょにゲームをしよう』と呼びかけた。



 ーーーそれがそもそもの間違いだった。


『はぁ?ゲーム?わざわざ赤の他人とやるとかだるいんだけど』

『勉強もせずにゲームなんかしてるんですか?見損ないました』

『そんな無駄なことして何になるの?』


 当時の反応を言うと、リビングの空気が急に静かになるのがわかった。

 ただ、こんなこと言われる方がまだマシ。当時、テストで俺の次に点数の良かった生徒が、ゲームをしている奴に負けていることに嫉妬して周りの生徒を巻き込み、そこから俺への攻撃が始まった。


「攻撃って・・・何されたんだよ、坊や」


「まぁ上靴が濡らされて机に入ってたり、あとは無視とかですかね」


「玄野くん、、、それって」


「いじめ、だったんじゃありませんか?」


「今考えればそうかもしれませんね」


 本当に『今考えれば』の話だ。俺はその時こう考えた。


「勉強なんてせずゲームばかりしている俺が悪く、努力している姿を見せなければこの世界に自分は排除される、ってね」


「「「・・・」」」


 そう考えた瞬間、俺の視界から色が消えモノクロの世界へと変わった。

 一種の精神的ショックの症状らしい。らしいというのはその症状がなくなったあとに聞かされたことなので、本当にその時に色が見えなかったのかと聞かれると実は曖昧だったりする。ただ、周りを見ても綺麗と感じなかったのは事実だから、色なんてなかったのだろう。


 顔を上げるとみんなの悲しそうな顔が見えた。


「なんて顔してるんですか、皆さん。俺はもう大丈夫ですから」


「でも、、、」


「南条先輩も。先輩のおかげでこうやって笑って話せてるんですから」


「えっ?」


「先輩を助けようとしたから、俺がFPS部に入部することになったんですし、そうでもしなけりゃこうやって家に呼ぶこともなかったですしね」


 そうでもしなけりゃこんなに笑えてません。



 俺の話もひと段落し、FPS部の先輩方も何か納得したような表情をしていた。そもそもこんな体験を話してくれることが信頼されている証なんだろうと理解しているみたいだ。自分たちが同志ゲーマーであるのもひとつの要因に違いない。

 事実を隠させていた紗羅たちも静かに見守ってくれていた。

 世界が色に溢れていたことに改めて気付かされた。



  ■ ■ ■



「ではこの辺で失礼したいと思います」


「焼きそば美味かったぜ、坊や」


「ま、また来ますね」


「待ってますよ、皆さん」


 すでに日は暮れてしまって外は真っ暗になっていた。少し雪が降ったのか、道路はうっすらと白みを帯びていた。

 長い1日が終わった気がする。高校生になった初日にこんなことがあるなんて思いもしなかった。とりあえず、疲れたな・・・


「じゃあ俺も帰るわ」


「おう、柳。今日はなんか色々と済まなかったな」


「いいってことよ」


 この親友にも色々迷惑かけたのに、それを許してくれるのはさすがといったところだな。

 ありがとよ、柳。

 そして、FPS部の先輩方と柳が帰って行った。

 振り返ると荷物を持ってドアに寄りかかる紗羅の姿があった。


「じ、じゃあ私も帰るから」


「そか、、送ろうか?」


「・・・隣じゃん、バカ」


 この幼馴染みはよくラブコメで見るように隣に住んでいる。まぁだからと言って窓から入ってきたり、朝起きたら目の前にいるなんてことは無い。

 最近はの話だが・・・


「紗羅!」


「・・・なに?」


 なぜかいたずらっぽい笑みを浮かべて帰ろうとしていた紗羅を呼び止めた。


「今までありがとな」


「な、なによ、、急に」


「いや、紗羅がいなけりゃ今俺はここにいないし」


「えらい大袈裟ね」


 そんなことないさ・・・

 なんせあの無色の生活の中でお前だけ輝いてたんだからな・・・

 少し不審そうな目で俺を見ながら、少しため息をついた。


「まだ始まったばかりよ」


「そうだったな」


 高校生活はまだまだこれからだな。

 不安なこともあるが、目の前のことを1つ1つ。

『出来ないことを嘆くより、出来ることを精一杯』


「じゃあまた明日」


「おう、またな」


 そしてまた振り返るときに紗羅が笑みを浮かべていた気がした。夕暮れ時で周りが暗くて見づらかったが、確かに笑っていた気がした。


「お兄ちゃーん、早く手伝ってー」


 ドアを開けて恵美が俺を呼んだ。


「あー、すまんすまん」


 俺は急いで後片付けをするためにキッチンへと急いだ。




 ーーー俺の高校生初日はこうして幕を閉じた。

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