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ランチボックス同盟  作者: ORCAT
第1章 秘密
16/41

秘密とトロフィー

「それにしても、急にこんなに人連れてくるんだもん。びっくりしちゃった」


「悪かったな、驚かせて」


 今いるキッチンには妹の恵美と俺しかいなかった。他のメンバーはリビングにいさせている。家が広いとはいえ6人も7人もダイニングには入らないから、リビングの机を臨時の食事スペースにした。みんな今頃トランプで何か遊んでいるに違いない。この人数だと大富豪かな?今頃ルール決めに勤しんでいることだろうな。大富豪、無駄にルールあるからな。


「みんな、楽しそうだね」


 そんなリビングの様子は愉快な笑い声だけ聞こえてくる。しかし、その声だけでみんなの楽しい気持ちが伝わってくる。


「そうだな」


 久しぶりにこの家に笑い声が響いた気がした。中学の頃は友人誘うなんてことはなかったからな・・・

 まぁ先輩方が楽しんでるなか、俺と恵美は焼きそば作り真っ只中だけどな。


「早くあっち混ざりたいな」


「だね、お兄ちゃん」


 キッチンにはソースの少し焦げた香ばしい匂いが漂っていた。さっきから味見という名目で腹を満たそうとしている恵美を必死に止めているところだ。

 2つのフライパンにそれぞれ3人分の焼きそばの材料を入れて作っているけど、これ混ぜるのさえ一苦労だな。春じゃなければ庭先でバーベキュー風に鉄板の上で作るんだけどな。まぁ言ってても仕方ない。


「もうちょいだ。最後まで頑張るぞ!」


「うん。恵美も頑張るよ!」


 パクっ


「だから、食べるなっての!」


「だって〜」




  ■ ■ ■




「「「「いっただきまーす」」」」


 その後なんとか全員分の焼きそばを作り終わって、リビングにいるみんなに配り遅めの夕飯となった。


「おいしい!」


「確かにおいしいですね。野菜もたくさん入ってますし」


「やるなぁ!坊や」


「だから・・・はぁ、もういいや」


 副部長の坊やって呼び方も慣れちゃったな。

 うちの焼きそばは豚肉もキャベツも多めに入っている、具沢山の焼きそば。家族にも評判の料理だ。

 まぁ、女子の副部長と南条先輩、紗羅の分は少し肉少なめにしといたけどな。一応女子だしあんまりカロリー摂りすぎるとな。あ、恵美は食っても太らない体質だから俺ら男の分と同じ。


「それにしても玄野くん」


「え?なんですか部長」


「ご両親はどちらに?」


 あ〜、、、その話になりますよね、そりゃ。あんまり両親の話はしたくなかったんだけどな。


「えと、どっちも働いてます」


「そうでしたか。遅くまで働いてるんですか」


「えぇーと・・・まぁ」


「どうしたの?玄野くん」


 いや、南条先輩。そんな目で見ないでください。身長低いせいで隣の先輩が上目遣いで見上げてくる。

 そして、俺が少し照れている様子に気づいてか、向かいに座っている紗羅がやたらこっちを睨んでくる。何故睨む、なぜ。


「いえ、まぁ・・・なんでもないです。両親が家に帰ってくることはあんまりないんですよ」


「「「えっ!」」」


 FPS部のメンバーがその言葉に驚いた。


「それはご両親がどこかに赴任されているとかですか?」


「えと・・・」


 なかなかその詳細を話そうとしない俺を不思議そうに眺めるメンバー。はぁ、まあこの面子ならいいか。


「夕星町にある白黒病院って知ってますか?」


「あー、あのでかい病院だろ?」


「優秀なお医者さんが一杯いるとかで、テレビとかでも時々見ますよね」


「それがどうかしたの?」


 ・・・


「あそこで院長してんのが俺の親父で、看護師長してんのが俺の母親です」


 ・・・しばしの沈黙。の後、、、


「「「えぇーーーーー!!!」」」


 驚きの声がリビングにこだました。驚くのは目に見えてたけど、まさか穏やかそうな部長まで驚くとは。


「じゃあ、坊やって・・・」


「もしかして・・・」


「お金持ち?」


「南条先輩、気にするのそこですか」


「あ、いや。私はお金なんかに興味を持ったんじゃなくて、その・・・」


 何そんなに焦ってんだろ。まぁいいや。


「でも驚きました。お医者さんならそれは忙しそうですね」


「まぁそうですね。慣れちゃったのでなんてことないですけど」


 昔からそうなんだ。小学生の頃から家に帰っても誰もいないことが普通だった。だから家事も自分でしなきゃならなかったし、家計は俺が持ってると言っても過言ではないのだ。


「寂しかったりしなかったの?」


「皆さんから見たら寂しく思えるのかもしれませんけど、俺自身はそうでもないですね。まぁ半分以上ゲームがあったからですけどね」


 小学生の頃、勉強に関しては特に心配なことがなかったから、家にいても暇で暇で仕方なかった。


「で、たまたまそんな時に両親からゲーム買ってもらったんですよ」


 確か誕生日だっただろうか。それから俺はゲームにのめり込むようになった。惰性で進んでいたような生活の中、唯一主人公になれる世界。世界を救ったり、街を作ったり、敵と戦ったり、仲間を作ったり・・・


「最初は一人でやってたんですけど、友達と・・・そこの柳とかとやったらまた別の楽しみがあったりして、、、本当に楽しかった」


 その後、両親に「テストの点数でいい点数を取ったら誕生日とクリスマスにゲームを買ってもらう」という条件でゲームを買ってもらえることになった。もちろんその後の俺は勉強への力の注ぎ方が尋常ではなかった。もともとテストで1位は取っていたが、今度は全部で100点を取るほどになっていた。


「それまでは1位ならいっか程度にしか勉強してなくてですね。情けない話です」


「いや坊や、それでもすげぇよ」


「そうですか?」


 小学校の勉強なんて先生の話聞けばいいだけだったからな。


「まぁ、俺がゲームにはまったのはそんな理由からです。どっからこの話になったんでしたっけね」


 話しすぎて別の話になるのは俺の悪い癖だ。いつまでたってもこれなおらねぇよな。


「えーと、あれか。家で一人で寂しくないかって話でしたね。まぁ結論を言えばゲームあったんでそうでもなかったってのが答えですね」


 一応話をいい感じに締めたつもりだったが、なんともいえない空気が漂っていた。

 自分でも分かってる。こんな生活、寂しくないわけがない。たとえ何か暇をつぶすものがあっても、家族のいない広い家に帰ってくるなんて、高校生ならともかく小学生の多感な時期は辛かっただろうとーーー

 この話をすれば皆が皆必ずそう考える。だけど俺の場合、本当に寂しくなかった。

 まぁ言っても誰も信じやしないけどな。


「はいはい、皆さんせっかく来たのに楽しまないと。今度は俺も大富豪混ぜてくださいよ」


「そうですね。もう少し遊んでから帰りましょうか」


 空気を変えたかった俺の気持ちを汲み取って、部長が乗ってくれた。


「おう、坊やになんか負けないからなっ」


「でも副部長さっき4連敗してたじゃないですか」


「なんだと、三景。絶対三景を見返してやる」


 それにしても、本当にゲーム好きだな。人のこと言えないけど。


「じゃあとりあえず皿だけ回収しますね。恵美、半分お願い」


「はーい、お兄ちゃん」


「あ、じゃあ私お手洗いに」


「あ、南条先輩。お手洗いは廊下に面した部屋なので」


「ありがと、恵美ちゃん」


「いえいえ」


 いつの間にか恵美と南条先輩が仲良くなっていた。ちっちゃいもの同士だからかな。


「お兄ちゃん、今変なこと考えてなかった?」


「べ、べつに〜」


 どうしてこう、俺の周りの女子は勘が鋭いのか。


「キャー」


 なんてことを考えていたら南条先輩の悲鳴が聞こえ、それと同時に


 ガラガラっ!


 ものがたくさん落ちる音が聞こえた。

 ん?トイレってなんか物積んであったっけ?って、そんなこと考えてる場合じゃなかった。


「大丈夫ですか?南条先輩!」


 慌てて廊下に出てみると廊下に面した『トイレじゃない方の』ドアのところにたくさんの物と南条先輩が倒れていた。


「イテテ。あ!玄野くん」


「大丈夫ですか?」


「うん。ここトイレじゃなかったのね」


「すみません、ちゃんと案内してやれば」


「どうしたの?」


 後ろからFPS部のメンバーと恵美たちがやってきた。


「こら、恵美!ちゃんと言わなきゃダメだろ。廊下に面した部屋って、2つあるだろが」


「あ、ごめんなさい」


 全く。こういうところが詰めが甘いんだよなぁ。とりあえず落ちたもの戻さないと。


「あれ?これって・・・」


 ものが落ちてきたのか、頭を押さえながら近くのものを拾った南条先輩が小さく呟いた。


「どうしたんですか?先輩」


 先輩が拾ったのは金色の小さめのトロフィーだった。


「これって、ここの地区の大会の・・・」


 先輩が驚くのも無理はない。なんせ拾ったトロフィーは、、、


「え?玄野くんって・・・」




 ーーー先輩がヘッドホンをもらったと言っていた大会の優勝トロフィーだからだ。

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