第一話「クリスマス?何それ美味しいの?」
「ゴメーン!その日彼氏とデートなんだー♪」
「ごめんなさい、その日は用事があって…。」
「え、無理。」
そうして俺は通算17年目となる彼女無しのクリスマスを迎えるのだった。
20XX年12月24日16:00
「全く、何かと思えば…。」
菓子の溢れる机にひれ伏すように泣き続けていた俺の頭上から呆れ声が聞こえてきた。
見上げると音声通りに呆れている荒がいた。
「だって…ぢーぐーじょーーー!!」
「んじゃ、歩の『イベントに限って振られまくるのを祝う会』通算118回目を祝ってカンパーイ!」
「乾杯。」
「か、乾杯っ!」
「乾杯、じゃねーーー!!」
後呂の乾杯の音頭に遂に立ち上がって吠えた俺に樽美が怯えたようにビクつくが、無視だ、無視!!
「ていうか晴海も明美も佳奈美も酷くね!?
あんだけつるんでたのにさ!!」
「知らねーよ、この似非モテ野郎☆。」
「てか“み”多くないですか?」
「フフフ、日頃の行いというやつでしょう。」
無駄に優雅にカップを傾ける荒に腹が立ち言ってはいけないあの一言を叫んでしまう。
「そういうお前達だって一人じゃねーかよっ!!!」
「ガチむきの後輩(空手部・柔道部・剣道部)らからクリスマスパーティに誘われてるが、代わりに出るか?
今年は余興に力を入れてるらしぞ。」
「何やらでっぷりと太ったおっさん達(親の仕事関係者)からディナーに誘われてますが、代わりに行きます?
ご馳走食べ放題ですよ。」
「ぼ、僕は中学時代のクラスメイトからのお誘いがありましたけど…せ、先輩達と一緒に居たかったので(*ノωノ)。」
…そう、後呂と荒はその性格と見た目から男にモテるタイプなのか、こういったイベント事では盛んにお誘い頂いているのだ。
本人達は結構不本意で、さっきみたいな事を言おうものなら「般若か!」って言う位黒い笑みで名代として行かそうとするのだ。
「あーもう…本当、お前ら見てると『クリスマス?何それ美味しいの?』ってガチで思えてくる……。」
「そんなの、製菓業界や玩具業界が少しでも消費者から金を毟り取る為のイベントに決まっているではないですか。」
「または貴金属・ブランド業界だな、クリスマスにプロポーズって結構多いらしいぞ。」
親友の夢も希望も無い返しに閉口していきり立っていた気持ちが一周して落ち着いてくる。
荒曰く“ロマンチスト”の俺と自称リアリストの荒が今まで友達やってこられてるのは、こういったギャップが相乗作用を起こしているからだろうな、とは後呂談だが、どっちかっていうと相剋だと思うのは俺だけだろうか…。
「ぐぐぐ…この現実主義者共め!!」
「事実を言ってるだけだろ?」
「大体、いい年して夢だけで生きていける訳ないでしょう?」
やれやれといった風なのが気に入らず、知らず目に心の汗が溢れてくる。
「お前らなんか大嫌いだー!来年こそ、恋人と過ごしてやるーーー!!」
通算118回目の俺の叫びは、果たして―――。
今回は軽く紹介を。
非モテ三銃士(命名広猟)
佐藤 後呂
面倒見がよく後輩からなんかは「兄貴」と呼ばれ慕われている。
剣道部。
鈴木 荒
ナルシストで見た目だけは麗しいので、年上の小父様方に可愛がられる。
剣道部。
高橋 歩
チャラくて比較的モテやすいが、全てキープ(女子側が、つまりキープされる側)。
剣道部。
田中 樽美
佐藤らの1つ下の後輩で何故か3人に憧れていて、しょっちゅう後をつけている。
周囲からは「忠犬」「金魚糞」と呼ばれている。
剣道部。