第五話「メリークリスマス!」
「…別に、いいだろ。
俺だって今日くらいバカップルでいいでいたいんだよ。」
ぶっきらぼうにそう呟いた大上に、私は言いようもない衝撃を受けたのだった。
20XX年12月24日18:17
驚愕に目を見開く私を気にすることなくズイズイ進んで行く大上に身を任せて状況を整理する。
先程佐藤が言っていた『バカップル』―――。
俗語なので、はっきりとした定義は存在しないが、恋人の居ない人が妬みを込めて恋人同士を呼ぶこともある。
公共の場所で衆目を意識せず平然といちゃつく、キスをするなど人目をはばからない行動や、2人だけが良ければそれで良い、という自己中心的な言動などを繰り返し、周囲に不快感や失笑を与えるカップルに対して皮肉を込めて用いられる場合が多い。
また、それら行為を行ってしまった恋人当人が自嘲気味にバカップルを自称する場合もある。
いずれにせよ、あくまで俗語であるためその基準は人によって異なる。
---Wikipediaより抜粋(2015年12月3日現在)
つまりつまりつまるところ、佐藤達は私達を恋人と定義し、揶揄したということだ。
そして大上もそれを受けて『恋人』として対応して―――って。
「う、うえええええ!?
わ、私達、付き合ってたの!?」
「はあ!!?」
思わず大声を上げる私に、同じく吃驚したような大上が急いで振り返る。
「おま、何言ってんだよ!?」
「え?え??だってそんな素振り…。」
混乱する中この六年間を振り返ってみるけれど、碌な思い出以外やっぱり見当たらない。
「毎日朝晩メールしてんだろ!!」
「え、仲良かったら普通でしょ?」
「土日一緒に出掛けてんだろ!!」
「それも仲良かったら普通だよね?」
「手繋いだり!!」
「私よくはぐれたり迷子になったりしてるから、迷子防止として、でしょ?
というか、手と言うより腕のような気も…。」
「~~~~高一の時告白しただろ!!?」
「え、されたっけ?」
あ、今間違いなく木枯らしが吹いて大上が石化した。
高一…高一……。
大上のヒントを元に、正確に鮮明に二年前を思い出していく。
春―――。
・また同じクラスになってお互い毒づく
・交流レクリエーションで一緒に川に落ちる
夏―――。
・球技大会で顔面にボールを当てられ(紅葉柄Again 36)
・期末テストで順位を賭けるが、点数について先をに質問攻めしすぎて一緒に反省文
・林間学校のカヌー体験で転覆し道連れ
秋―――。
・体育祭で走り終わった大上が足を縺れさせて下敷きに(紅葉柄Again 38)
・文化祭で絡まれているところを助けてもらったのに嫌味を言われて喧嘩勃発
冬―――。
・球技大会後片付けで大上を道連れに転倒
・声楽部クリスマス合唱会後イルミネーションを見に行って迷子に…
『お・・は・・・・す・だ・・・。』
「あ。」
そう言えば―――。
折角イルミネーションを見に行ったのに迷子になった私を見つけた大上はその時何か言ってた筈だ。
でも丁度公開告白をしている集団が近くにいて、かろうじて口の動きから「好きだ」って言ってるのかわかったから…。
『私も(イルミネーション)好きよ。』
って返したんだっけ―――って。
「……あれ、告白だったの!?」
「そうだよ!ってか、それ以外に何があるんだ!?」
「いや、あの時周りが五月蠅くてよく聞こえなかったから…。」
「はああああ!!?」
思いがけない二年目の真実に、とうとう大上は脱力したかのようにその場に蹲ってしまった。
まあ、私が同じ立場でもそうなっただろう。
いや、まあ、確かに私が鈍かったのも悪いんだろうけど、大上だって恋人らしいことなんてして…して…。
回想一:何か重い物を持っていたら率先して変わってくれた(さり気無く、しかし嫌味付きで)。
回想二:何か困ってたらいつの間にか居て解決の手助けをしてくれた(ちゃっかり貸しにして)。
回想三:出掛けた先で手を繋いだり、奢ってくれたりうんちくを語ってくれた(奢りに関しては次回に私も奢り返していたから±0かもだけど)。
しっかり恋人らしいことしてました、されてました。
もしかして毎年面倒な声楽部クリスマス合唱会の裏方(合唱会実行委員会、勿論参加は有志)に参加してくれてたのって、少しでも長く一緒にイブを過ごす為…?
―――どうしよう、どうしよう、というかどうしよう!?
まさかの二年目の真実に、そしていつにない大上の落ち込み様に、どうにか挽回に走ろうとするけれど何もいいアイディアなんて浮かぶ筈も無く…。
しかし突如パニックに陥りつつある思考の中浮かんできた回想を頼りに、買い物からシールを剥がし自分の頬に貼って両手を広げて―――。
「め…メリークリスマース!プレゼントは私!……なん、ち…ってぇ……。」
最後は尻すぼみになっていく。
雪月曰く「自分にリボンをつけて『プレゼントはわ・た・しVv』が一番そそる」らしいからやってみたけど…。
―――や、やっぱりこのネタは寒かった……?
ゆっくり俯き蹲ってしまっていた大上の顔が上がって、しっかりと私を見つめてきた。
「……未谷…。」
「は、はい……。」
「…自分の発言には責任を持てよ。」
「はい?」
伸ばされる手、引き寄せらせる身体、触れあう体温…って。
「~~~!!?」
「はは、真っ赤。」
「だ、て…ちょっ、えええええ?!」
いきなりの展開についていけず、言語が、思考が、ゲシュタルト崩壊していく。
「くくく…メリークリスマス。」
得意げな大上の表情が何だか悔しくて、一発殴ってやろうかと思ったけれど、私も周りの雰囲気に呑まれたのだろか。
「…ふふふ。」
指で唇をなぞり漏れ出る笑みをそのままにへたり込んでいれば、今度は大上が爆発した。
取り敢えず、これでさっきの仕返しは済んだという所だろうか。
お互い真っ赤な顔が元に戻るのはそれから十数分後。
はぐれた私を探しに来てくれた雪月と合流してからだった。
その時繋がれていた手の指が絡まっていたか、いなかったかは、神のみぞ…いや、サンタのみぞ知るのだった。
取り敢えず一テーマ目終了!
途中キャラが変わり出しましたが、気にしないで頂けると嬉しいです。
次は作中にも登場したある方々が主役です。