第四話「今日だけはバカップルでいいや」
『To:大上
From:広猟
件名:クリぼっちを謳歌している親友へ。
20XX年12月24日16:46
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よう!クリスマス楽しんでるかー?
ちなみに俺は弥月と二之宮駅近くにある大型ショッピングモールでデートなう!
(以下写真:自撮りでサンタオーナメントを背にピースする2人) 』
部屋で不貞寝していた俺は条件反射でコートを財布とICOCAを手にすると部屋を慌ただしく出て行ったのだった。
20XX年12月24日18:00
クリスマスという恰好の外出ラッシュに揉まれて電車に揺られる中、思い出すのは今月頭のことだ。
俺と未谷は恋人なのだが、俺は広猟曰く“つんでれ”というやつで中々態度にも言葉にも出来ず、未だ友人かクラスメイトのような雰囲気が続いている。
しかし俺とて思春期真っ盛りの男の子。
記念日位は恋人らしく…!と意気込んでデートのお誘いというものをしてみたのだ。
してみたのだが…。
「残念だけど暇なんて私には無いわよ。」
という、けんもほろろな返事しか貰えなかった。
更に詳しく聞けば、なんでも広猟のお袋さんにクリスマスパーティか何かに誘われているらしい。
まあ、親戚付き合いは大切だし、俺の方が後手だったようだから文句は言えないな。
でも「最近はお見合いみたいで参加しずらいんだよねぇ…。」とはどういうことだ?!
俺というものがありながら…というか、俺を理由に断れよ!!
そう喉まで出かかったが、先に「まあ、母さんのアレはお人形さんを並べて愛でたいっていう気持ちの方が強いからなぁ…。」と言われてしまえば何も言えない。
未谷は惚れた欲目もあるだろうけど、確かに可愛い。
着飾ってやれば、きっと広猟の言う通り“可愛いお人形さん”になるだろう。
対して俺は兎に角悪役面(仏頂面とでも言えばいいのだろうか?)で、並んだ所で愛でるような絵にはなれない。
まあ、夜には暇になるらしいから(広猟情報)近くのイルミネーションだけでも見に行こうと計画していた所で、広猟からのメールだ。
ふ・ざ・け・ん・な!!
何人の彼女に手出してんだ(いや、この場合俺が人様の従兄妹に手を出したのが正しいのか?)。
未谷も未谷だ、何広猟と出掛けてんだ、暇になったんなら俺に連絡をくれても……。
とまあ、電車の中で盛大に苛々を撒き散らしておけば、二之宮駅に着く頃には大分落ち着いて、さてどうやって未谷と合流しようか、と考えていた所でコレだ。
『To:大上
From:広猟
件名:
20XX年12月24日17:50
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未谷とはぐれた。
見つけたら捕獲宜しく!』
ふ・ざ・け・ん・な!!!(本日2回目)
いや、これはある意味チャンスか?
広猟を排除する手間無くデートに漕ぎ着ける絶好のチャンスか?!
そうと決まればなんとしてでも広猟よりも早く未谷を見つけ確保しなくては。
そしてモールを歩き出せば案外早くに未谷を発見することが出来た。
しかも転びかけてたから、ここは格好良く助けて惚れ直し作戦といこうとしていたら「まさか会えるなんて、夢にも思ってなかったの。」なんて言われて…。
くそう、俺が惚れてしまうだろう!!!
「そうだ、大上雪月と連絡取れない?」
「は?何でだよ。」
「…実は雪月と来てたんだけどはぐれちゃって…携帯も、雪月が持ってるから連絡出来なくて。」
取り敢えず、あんな子供のタックルで転びかけてた、ってことは結構歩き疲れているんだろう。
しかし、どこかで休もうという俺の気遣いなんて気付いていない未谷が他の男の話をするのに、さっきまでの苛々&嫉妬心が燻り出し腕を掴む手に力が入る。
「あれ?大上に未谷?」
苛々と嫉妬心から小一時間程、お前は俺を何だと思っているんだと問い詰めて…いや、膝詰めで懇々と説教してやろうかとした時、乱入者が現れた。
「佐藤に鈴木…それに高橋も!
皆もイルミネーション見に来たの?」
「あ、ああ…。」
「まあ…そんな感じ?」
歯切れ悪くそこに居たのは、佐藤をリーダーとする三人衆「非モテ三銃士」だった。
そう言えば、最近こいつらの後ろをちょこまかしてる奴がいたから、「非モテ四銃士」になるのは時間の問題かもな。
「てゆうか、お前らデートかよ!」
「大上も隅に置けねーよな!!」
「よっ!バカップル!!」
「ちくしょー!リア充爆発しろー!!」
いつの間にか件の金魚糞も現れて何やら吠えてくる。
どうやら非モテの僻みから、俺達を初めとするカップルの邪魔がしたいようだ。
「は!?いや、私達は――。」
「…そーだよ、だから邪魔すんな非モテ三銃士。」
「大上!?」
「…別に、いいだろ。
俺だって今日くらいバカップルでいいでいたいんだよ。」
それだけを捨て台詞に、今度はちゃんと未谷の手を引いて歩き出せば、これ以上ない位未谷の目が見開かれたのだった。
大上は内弁慶タイプで、心中はとっても饒舌です。
しかし“つんでれ”なので故にいっつもぶっきらぼうです。