第三話「まさか会えるなんて夢にも思ってなかったもの」
そう言えば、漫画とかでヒーローの背景がキラキラしてるのって、実際に瞳孔が開いていつも以上に光源が入ってくるからなんだって、誰かが言ってたっけ。
イルミネーションを背に腕を掴んでいる大上を目の前に、私は場違いにそう感じたのだった。
20XX年12月24日17:45
雪月が叔母さんに爆弾発言をしてから早8時間。
手を引かれるまま着いた先は電車に乗って1時間かかる大型ショッピングモールだった。
映画を観て、カフェでランチを食べて、クリスマス特別ステージを冷やかしながらモールを横断して。
昨年とは違ったクリスマスを謳歌して浮かれていた性か、気付いたら隣から雪月がいなくなっていて。
結果:迷子になりました。
頼みの綱の携帯も、雪月に持っていかれた鞄の方に入っていて連絡も取れません。
――どうしようかな…どうやって連絡とれば…。
これからのことを考えてグルグルしていると、ふざけて走り回っていた子供とぶつかりバランスを崩してしまった。
全く、クリスマスの雰囲気に中てられたのか酔ってしまったのか、今日は本当に注意力散漫だ。
そのまま足が縺れて倒れそうになるが、反対方向から腕を急に引っ張られて誰かの胸元に引き込まれる形で転倒を防がれる。
「す、すみません!大丈夫ですか?!」
「ご、ごめんなさい!お姉ちゃん、大丈夫!?」
「あ、はい。えっと…。」
「ごめんじゃねーよ、ガキ。
ここは遊び場じゃないんだ、ふざけるのは公園だけにしとけ。
小母さんも、しっかり子供は見といて下さい。」
困惑している私に変わり、引っ張った人が子供とその母親に苦言を申している。
体勢を立て直して大して体格差の無い相手を見つめれば、そこに居たのは―――。
「……大上?」
「お前も何ボーてしてんだ、通行の迷惑だろうが。」
そのまま腕を引かれて歩き出せば、なんだかお腹の奥がムズムズして訳も無く笑いが溢れてくる。
「……何だよ、急に笑い出して。」
「ふふふ…いや、だって。」
いくら屋内とはいえ、やっぱり冬の夜の寒さは身に染みるのか。
「まさか会えるなんて、夢にも思ってなかったの。」
前を向いたままの大上の耳は、寒さに真っ赤に染まっていた。