第五話「クリスマスマジック☆」
「という訳で、一番!脱ぎます!!」
「「脱ぐなああああ!!!」」
20XX年12月25日23:37
脱ぐ脱ぐと騒いでいた広猟が潰れてカーペットの上で眠ってしまう頃には、時計は既に23時を指していた。
「まさかシャンメリーで酔うとはな…。」
「私も17年生きてきて初めて知ったよ……。」
広猟によって散らかされたリビングを前に俺と未谷は疲労困憊でありながらも、一つ一つ片付けていく。
「というか、大上どうする?
もう終電も間に合わないよ?」
「げ、まじか…。」
未谷に言われて確認すれば、ここから最寄り駅まで45分、終電は24:10。
どうやっても間に合う筈も無い。
「…泊まってく?」
「はあ!?」
「どうせ雪月も泊まらざるを得ないし、もう一人増えた所で私は大丈夫だし。
ただ二人共リビングになるけど…どうする?」
広猟は潰れて夢の中。
家の中には俺と未谷のみ。
まさかこのまま大人の時間に!?
え、いいのか!?
初めてのクリスマスで、初めてのお泊りなんて!!?
「じゃあ、お「ただいまー!!」は!?」
親しき仲にも礼儀あり、「お世話になります。」と言おうとした時、成人男性の軽やかな声がリビングに響き渡る。
声のした方を見れば、両手に沢山の荷物を持った大体30代位の男性がそこに居た。
「父さん!?」
「とっ!?」
「ただいま、我が娘!お父様が帰ってきたよー!!」
「おかえりなさい、でもどうやって?
まだ飛行機のダイヤ止まってる筈じゃ…。」
「ふふん、持つべきものは友達というだろう?
訳を話してお願いしたら快く送ってくれたんだよ。」
…何故だろう、言葉の端々に不穏な単語が聞こえてくるのは。
取り敢えず今までの会話から察するに、この少々大げさに未谷に抱き着くこの人は、正真正銘未谷の父親らしい。
…どちらかと言えば広猟に似ているように見えるのが、そこは遺伝子の神秘、隔世遺伝というやつだろう。
「…ところで弥月、そのに居る男の子は一体誰かな?」
ああ、でもこうやってこちらを見つめてくる鋭い瞳は、確かに未谷のそれと同じだ。
意外な所で親子の縁を感じつつ、少しでも好印象を与えられないか策を練る。
「は、初めまして、大上 敦士と申します。
お嬢さんとはクラスメイトで、広猟の友人ということもあって、本日は相伴に預からせて頂いてました。」
「ふーん…雪月はどうしたんだ?」
「あ、うん。
なんかシャンメリーで酔い潰れたみたいで…。」
「あー…そう言えば、真奈美(広猟の母)もそんな体質だったな…。」
「え、でも叔母さんお酒強いよね?
なのにシャンメリーで酔い潰れちゃうの?」
「強い酒だとアルコールが分解されるのが遅くなるから酔いが来る前にベッドに入ってるけど、弱い酒だと飲んだ端からアルコールが分解されてくから潰れちまうらしい。」
「何、その吃驚設定。」
真実は小説より奇なりを体現する広猟一家に脱力し、未谷と親父さんの好意に甘え迎えた初めてのお泊りは、初めてのクリスマス同様、なんともしょっぱい結末となったのだった。
まあ、翌年にはもっとしょっぱいクリスマスが控えている訳だが、それを未だ知らない俺は広猟と枕を並べつつ、次のイベントを遂行すべく策を練りつつ自分を慰めるのだった。
これにて四テーマ目終了!
次は最終章で、中学時代に遡ります。