第三話「チキン用意」
潰されたじゃが芋はポテトサラダとなり、玉ねぎとトマト・パプリカのサケのマリネと共に大皿に盛られ、その隣にはマグロのカルパッチョが並べられている。
オーブンでは皮がパリパリになるまで鶏が焼かれ、たった今ツノが立つまで泡立てた生クリームを塗りたくればブッシュドノエルが完成、という所までできた。
「よし!あとは父さんが帰ってくるのを待つばかり…。
二人共、手伝ってくれてありがとう!」
後ろで手伝ってくれていた二人を振り返ると、その手には食卓に並んでいた物とは別のサケのマリネが摘ままれていたのでした。
20XX年12月25日17:45
「もう!雪月も大上も、手伝ってくれたのは嬉しいけどつまみ食いは止めてよね!!」
「ゴメンゴメン!あんまりにも美味しそうだったから、つい…。」
「……。」
三人並んで洗い物に勤しみつつ苦言を呈すれば、雪月も大上もバツが悪そうに泡を流して布巾で食器を拭いている。
まあ、摘まんでいたもの自体は二人の分だったから別にいいのだが、行儀が悪いし叔母さんにも食べて欲しかったから持って帰って欲しかったのに、すっかり無くなってしまった。
「よし!後片付けも終わったし、本当に二人共ありがとう!
また今度お礼するね。」
「俺お弁当がいいー!」
「俺は何でも。」
「わかった、じゃあ大上の分もそれでするね。」
「…おう。」
玄関から二人が見えなくなるまで見送って家に入れば、固定電話が鳴り響き急ぎリビングまで走る。
「はい、未谷です。」
「弥月?」
「父さん!あ、もう空港に着いたの?
あとどれ位で家に着きそう?
あのね…。」
嬉しくて興奮したまま矢継ぎ早に聞くけれど、電話口の父さんは何も言わなかった。
「…父さん?」
不安になってただ父を呼べば、電話口にも関わらず直角姿勢で勢いよく腰を折る父の姿が見えてきそうな声が聞こえてきた。
「すまない!実は今飛行機止まってて…今日中に帰られるかも怪しいんだ。」
ゆっくりと父の言ったことを咀嚼していく。
「…そう言えば、出張先北海道だっけ。
また雪で止まったの?」
「…ああ、しかも稀に見る大吹雪だって。」
「…そっか、まあ、仕方ないよ。
明日には帰って来れるんでしょ?」
「おう!
…本当ごめんな、その代わり、お土産は出来るだけ豪華にするよ。」
「あはは、楽しみにしてるー。」
受話器を元に戻しリビングを振り返れば、先程までの雪月と大上との和気藹々としていた部屋は、ただ無機質で宝飾のみが浮いている寂しい部屋へと早変わりしていた。
―――大丈夫、今までだってこんなことはあったじゃない。
虚しいとわかりつつも自分を励ます。
実際、今日みたいなことは今までだって何回もあったんだ、大丈夫、今日だって大丈夫。
取り敢えず、目下の所の問題としましては。
「…料理、どうしよう……。」
張り切って作った料理の処理、といったところか。
肩を落とした所でオーブンから焼き上がりを告げる「チーン」という音が鳴る。
あまりのタイミングの良さに、更に肩を落としたのは言うまでもない。