第二話「ショーウィンドウ」
クリスマス、それは神の生誕を祝う日―――。
「…おい。」
「やっぱり牛肉にすべきか、それとも魚にすべきか…。」
クリスマス、それは家族団欒を過ごす日―――。
「……おい。」
「ここは定番のマグロにすべきか、カツオにすべきか…それとも大穴でサケにすべきか…。」
クリスマス、それは恋人達が愛を確かめ合う日―――だが。
こんな魚臭い魚屋の前で確かめ合わなくてもいいと思うのだが。
そう思っても言わない辺り、成長したなと感じる俺だった―――(人はそれを現実逃避とも言うby広猟)。
20XX年12月25日14:00
右手にさっきの魚屋で買ってきたマグロの切り身と、おまけのサケの入った袋と、その前に肉屋で事前予約していた鶏一匹を合わせて持ち。
左手には苺・ココア・小麦粉・じゃが芋・大根・卵・玉ねぎ・トマト・生クリーム・人参・パプリカの入った袋を持ち未谷と二人帰路につく。
「にしても、あんなとこに商店街があったとはな…。」
「ふふふ、あんまり大通りに面してないから隠れ家っていうか穴場になってて、馴染みさんしか来ないんだって。
私はその中でも若輩者にあたるから、よくおまけしてもらえてるの。」
「そこら辺のスーパーより安くていい物が手に入るから重宝してるの。」といつになく上機嫌に言う未谷に密かに口の端が上がるのを感じる。
手にしている物こそクリスマスっぽくないが、やっぱり恋人が笑っているのを見ると胸がキュンッとくるものだ。
駅に向かう為、一度大通りに戻りクリスマス一色となったアーケードを冷やかしながら歩く。
歩道に面したショーウィンドウにはクリスマス雑貨が飾られ、俺達を始めとしたカップルがウィンドウショッピングを楽しんでいる。
「そう言えば飾りとか一切買ってなかったけど良かったのか?」
「そうだね…でもナマモノいっぱい買ったから早く帰りたいし、家にもリースやツリーあるから。」
両手で抱えるワインとシャンメリー数本を持ち直し「別にいいや。」と続く言葉と共に、その視線が一ヶ所に留まったのがわかった。
視線の先を辿っていけば、雑貨屋のショーウィンドウに飾られている熊のぬいぐるみに注がれている。
「なんだ、熊?」
「え?あ、うん。
可愛いよね。」
早く帰りたいと言いながらも暫くショーウィンドウを見つめていた未谷は、満足したのか「行こっか。」と歩き出してしまった。
遅れる訳にもいかず、俺も後ろ髪を引かれつつもその場を後にした。