第一話「イヴどうする?」
「お前、イヴどうするんだ?」
思えばこの時疑問に思うなりなんなりすればよかったのだろう、この意外な人物からの、意外な質問から。
20XX年12月1日
私は未谷 弥月、亜土便都学園高等部に通う高校三年生――所謂“花の女子高生”というやつだ。
「…は?え、イヴって…あのイヴ?」
「ああ。」
此方を見ずぶっきらぼうに席に着いた彼は大上 敦士といい、私弥月の六年来のクラスメイト――所謂“腐れ縁”というやつである。
彼との関係は“腐れ縁”と称するに相応しく、この学園に入学してからの六年間をじっくり鑑みてみても碌な思い出が無いのが現状だ。
敢えて上げて見せるなら、まず出会い方から最悪だった。
大上との出会いは正にこの学園での生活が始まった日――入学式まで遡る。
あの日は何だか身体が怠くてしんどくて、でも念願叶って亜土便都学園に入学できた事にテンションが上がりまくっていて。
『おい!お前!!』
加えてまだ未熟な身体だから気付けなかった。
所で、話は唐突に変わるがこの亜土便都学園は中高制服は一貫で、黄銅色の上着と灰色チェックのスカート(男子はズボン)のブレザータイプだ。
故に血の色がとてもとても映える訳で。
…それ以上は語らずともわかるだろう。
初潮を迎えたばかりの私は生理がきていたことに気付けなくてスカートを汚していたことを大上に盛大に指摘され、恥ずかしさから思いっきり奴を張り倒してしまったのだ。
それが、私達のFirst Contact(因みに私はその後保健室に籠り入学式は欠席、大上は紅葉柄の顔で出席していた)。
その後も
・着替え中に更衣室で遭遇(紅葉柄Again)
・廊下の曲がり角でぶつかって押し倒される(紅葉柄Again 2)
・相談事をされてる最中有無を言わずに引きずり回されたり(紅葉柄Again 3)
etc.…と、挙げ出したら限が無いが、兎に角本当に碌な思い出が無い。
―――まあ、それでも六年間同じクラスで席も殆ど隣だと情も沸くのか、何だかんだつるんでるんだよね…。
「なーに話してんの?」
「っ、広猟……!!」
「おはよう、雪月。
今日は遅いのね?」
「うん、目覚まし時計の電池が切れててさー。」
朝からハイテンションで話し掛けてきたこいつは広猟 雪月といい本来は私の父方の従兄妹という間柄なのだが、シングルファザーだが多忙で育児放棄しかけていた父をみかねた叔母によって、小学校低学年まで同じ家で暮らしていた為、殆ど兄妹のような存在だ。
下世話な奴が私と雪月を恋人扱いすることは多々あったが、そこは大人の対応で二人共無視している。
だって考えてもみて欲しい、特に兄・姉・弟・妹のいる奴!
貴方達は「実はお前達に血の繋がりは無いんだ」って言われて恋愛できるか?!無理だろう!!?
そんなのができるのは漫画や小説の中だけだ!それか生粋の変態だけだ!!
「で、なんの話してたの?」
「…今年のイヴの話だよ、未谷、もう声楽部引退してて暇だろ?」
「あー、もう弥月あの大聖堂で歌えないんだな…。」
またまた話は変わるが、この亜土便都学園はカトリックでも無いのに豪勢な大聖堂と言える教会が併設されていて、声楽部は毎年イブに合唱会を催している。
参加不参加は自由で、高校生にもなるとイヴは恋人と…という面々も多くなる中、私は嬉々として毎年参加していることもあり、昨年は実行委員長も務めさせてもらった。
本当にいい経験をさせて頂いた…と喜ぶ一方で、引退してしまったが為に起こってしまう面倒事も存在する訳で。
「残念だけど暇なんて私には無いわよ。」
「は?!」
「あ、もしかして今年はこっちに参加?」
雪月の言う“こっち”とは叔母が毎年催している茶会のことで、これまでは部活を理由に不参加で居られたけれど今年ばかりはそうはいかない。
因みに「受験生だから。」という理由が使えないのは、既に亜土便都学園大学部に進学が決まっている為だ。
「別にイベント事は嫌いじゃ無いけど、最近はお見合いみたいで参加しずらいんだよねぇ…。」
―――抜け出したいなぁ…。
という訳で、今年の私のイヴはお見合いクリスマスとなりそうだ。
重苦しく溜息を吐いた私の横では、何やら面白い玩具を見つけたとでも言うような雪月と驚愕に目を見開いている大上が居たのだが、来る24日が憂鬱で仕方が無かった私には気付くことができなかったのだった。