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ねらわれた童貞学園  作者: どどど、童貞ちゃうわ
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第4話 童貞は一刻を争う!

本日三度目の更新です。

 昼休みを知らせるチャイムが鳴る。

 相も変わらず俺は全裸のままで、股間に火を灯すことでなんとか午前の授業はやり過ごすことはできた。

 しかし全裸でいたせいか、授業の合間の休憩時間に話しかけてくるヤツは誰一人としていなかったし、各教科の先生にも冷たい態度を取られてしまった。

 第一印象が最悪なのは間違いない。今日が俺の学園生活初日だというのにだ。

 こんなことになるなら、せめてジャージでも持ってきておけばよかったと後悔するも、しょせんは後の祭り。


「あー……くっそー」


 やりばのない怒りを抱えた俺は、誰ともなく悪態をついてしまう。

 だがそれも仕方がないことだろう。俺はいまも全裸なんだから。


「せめて購買にTシャツとか売ってねーかなぁ」


 独り言を呟きながら、カバンから母親の手作り弁当を取り出して机の上にひろげる。

 弁当箱を開け目に飛び込んできたのは、メインおかずの豚カツだった。

 きっと三週間遅れて登校初日を迎えた俺を励ますために、丹精込めて作ったに違いない。『交通事故にあった不幸に勝て』、という意味を込めて。


「ごめんよ……母ちゃん……」


 母親の優しさを弁当越しに受けた俺は、思わず涙ぐむ。

 こんなにも思量深くて優しい母親も、まさか自分の息子がいま教室に全裸でいるとは思うまい。

 口に運んだ豚カツが、やけに塩っ辛く感じる。


 でも、悪いことばかりでもなかった。

 半日もの間ずっと股間の火を――“童貞力”で創りだした火を灯し続けていたせいか、なんと自分の童貞力をある程度コントロールできるようになっていたのだ。


 その経験から得たのものが、ふたつある。

 まず、俺が創りだした『火』は、俺が望んだ対象物以外は燃やさない、ってことがひとつ。

 そしてもうひとつが、火の温度も自分の意志で操れる、ってことだ。

 さすがに授業中や休み時間に火の温度を熱くするのは危ないからやらなかったが、かわりにどこまで温度を下げれるかは試しておいた。

 その結果、どうやら最低温度はひと肌よりちょっと熱い、だいたいお風呂とおんなじ40~42度ぐらいまで下げれるみたいだ。

 40度ぐらいの熱をずっと股間から受けていた俺は、その熱が体のすみずみにまで伝わりほどよく体温が上昇。見事全身から汗をふき出し、自分の席周辺に汗の泉をつくり上げるというバイオテロをひき起こす。

 そりゃー誰も近づいてこないよな。

 かといって全裸で友達をつくりにいくほどホモホモしくもないし、そもそも全裸で人に近づいていく勇気もない。

 そんなこんなで、俺は教室の窓際の席で一人寂しく弁当をつつくことしかできないのであった。全裸で。


「よお富国。となりいいかよ?」

「えっ、あ、ど、どーぞ……って、おっ、お前は阿津鬼!?」


 俺の正面にコンビニの袋を手にぶら下げた阿津鬼が立っている。

 その顔や手はところどころ包帯に巻かれていて、見るからに痛々しい。


「んだよ、オレじゃワリーのかよ?」

「い、いや、そんなことはないぞ。うん」

「チッ……」


 阿津鬼は舌打ちをしながらも前の席にどかりと腰を下ろし、椅子の背もたれを前にして俺と向き合う。


「…………」

「…………」


 しばらくの間、二人のモグモグとそしゃくする音だけが場を満たす。

 いったいぜんたい、阿津鬼のヤツはなんのつもりで俺と一緒に昼飯を食べようと思ったんだ?

 話したいことがあるならさっさと話せよな。じゃないと場が持たなくて気まずいだろうが。

 いっそ自分から話しかけるべきか頭を悩ませていると、阿津鬼のヤツが無言で小汚い布袋を俺へと突きつけてきた。


「……え? なんだよ、コレ?」

「ケッ……オレの体操着ジャージだよ。テメーがいつまでも全裸だと見てるこっちは胸くそ悪くなんだよ。さっさと着やがれ!」

「た、『体操着』だって!?」


 なんと阿津鬼が渡してきた汚い布袋は、体操着袋だったらしい。


「……いいのか?」

「ったく、着るのか着ねーのかハッキリしろや! いらねーんなら返せ!」

「いっ、いや借りるって! すぐに着る! 着るよっ!」


 俺は阿津木の手から体操着袋をひったくるように受け取ると、すぐに口を開けてジャージを取り出し、しばらくは洗っていないであろうしっとりとしたジャージを着込む。

 次の授業は体育だ。全裸の俺には、もう一刻の猶予もなかったんだ。

 俺と阿津木は身長がそう変わらないせいか、サイズはピッタリだった。


「あ、ありがと……な。」

「ケッ、委員長が全裸だとテメーだけじゃく、おんなじS組のオレまで舐められちまうからな。礼なんかいらねーよぉ」

「いや、それでも俺はお前に借りができた。だからせめてお礼ぐらい言わせてくれよ阿津鬼。本当にありがとう」

「ケッ」

「でもいいのか? 次は授業は体育だぜ」

「オレはハナから体育をフケるつもりだったからよ。気にすんなや」


 俺に礼を言われた阿津木は、顔を赤くしてプイとそっぽを向いてしまった。

 ひょっとして恥ずかしかったのか?

 見た目はアレだが、あんがいいいヤツなのかも知れないな。


「ところで富国よぉ、テメーはつぎの相手のことはしらべたのかよ?」

「ん? 『次の相手』? いったいなんのことだ?」

「ケッ、だと思ったよぉ。いいかぁ? テメーはこのオレを倒してS組の委員長になったんだ。だったらよぉ、次は学年代表戦に決まってんだろぉが」

「『学年代表戦』? ま、まさか……」

「おう。その『まさか』よぉ。オレらS組だけテメーのせいで委員長が決まってなかったから置いてけぼり喰らっちまってたけど、ほかのクラスはもう学年代表戦をすましちまってんだよ。……ムカつくことに今日テメーはS組の委員長に決まっちまった。ならつぎは1年の暫定代表とりあうにきまってんじゃねぇか。本当の学年代表を選ぶためになぁ」


 説明を終えた阿津鬼が、パックのコーヒー牛乳を「ずずー」と音を立ててすする。

 学年代表戦だって?

 いったいこの学園はどうなってんだよ。一番強いヤツが生徒会長に選ばれるとか、民主主義に真っ向からケンカ売りすぎだろ。


「俺はまた……戦わなくちゃいけないのかよ」

「おうよ。テメーはS組の委員長なんだからな」

「は、話し合いとか、投票とかじゃダメなのか?」

「ケッ、んなことオレに言ってどーすんだよ?  言うならセンコーに言いな。まっ、聞いちゃくれねーだろうがよぉ」

「…………その、暫定代表って強いのか?」


 俺の問いに阿津鬼が答えるのには、少しだけ間があった。


「……つえーよ。ヤローは――暫定代表の碗力殺芽わんりき・あやめは、恐ろしくつえー」


 深いため息をついたあと、阿津鬼が答える。


「碗力……殺芽……」

「ああ、碗力殺芽ってヤローだ。ヤローは圧倒的な童貞力で、ほかのクラス委員長どもを次々とぶっ倒していきやがった」

「圧倒的……そいつの童貞力はどんな能力なんだ?」

「ケっ、それを聞いてどーすんだよ? ……って言いたいところだけどなぁ、いいぜ、特別に教えてやんよ」


 阿津鬼は口の端をつり上げ、金髪を かき上げながら教えてくれた。


「碗力殺芽はなぁ……『氷』を使うんだよぉ」

「氷だって? 碗力殺芽ってヤツは、氷使いなのか?」

「おおよ。氷使いよぉ。オレはなぁ富国、テメーならあの碗力殺芽に勝てんじゃねーかって思ってんだよ。氷とは真逆の能力をもつ、炎使いのテメーならなぁ」


 正面から俺の事を見据えた阿津鬼が言う。

 なんだかそんな阿津木がおかしくて、俺はこらえきれず笑ってしまった。


「ぷっ、ぷぷぷ……阿津鬼、お前ってじつはいいヤツなんだな。俺のこと応援してくれるなんて」

「なっ、だ、誰がいつテメーのことなんか応援したよっ! 勝手なことぬかしてんじゃねーぞ!!」 

「でも俺なら勝てるって――」

「オ、オレに勝ったテメーが負けると、オレまで舐められちまうだろーが! オレはオレよりつえーヤツが二人もいるなんて耐えられねぇんだよ! だからいいか? ぜったいに負けんじゃねーぞ! もし負けたらぶっ殺してやっからな!」


 言いたいことは言ったとばかりに阿津鬼が立ち上がると、近くの席で昼飯を食べていたクラスの連中を威嚇しながら教室を出ていってしまった。

 ぶっきらぼうな言いかただったけど、俺を応援しにきたのは間違いない。


「代表戦か……よし!」


 俺は拳を強く握りながら呟くと、股間に灯していた火をそっと消すのだった。

次は19時更新です。


碗力殺芽の名前は、どっかから怒られたら変えるかも知れません。

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