第21話 …また童貞に逢えたわね 後編
「幽麒麟先生!? 無事だったんですか!」
それはもう、夢に出てきかねないほどの無残な姿だった。
「ふ、ふふ。未婚のまま死にはせんさ。それよりも富国……こ、これを見るんだ」
そう言った幽麒麟先生は、懐から一冊の本を取りだして俺に投げ渡してくる。
「なんですこれは……って、しゃ、写真集……ですか?」
「そうだ。写真集だ。どうだ富国? その……こ、興奮するか?」
「そうですね……」
俺は幽麒麟先生から渡された写真集を食い入るように見ながら、ゴクリと喉を鳴らす。
なんていうか……ある意味過激な写真集だった。
モデルの女の子のイケナイところがギリギリで見えない、ハレンチな写真集だったのだ。
こういうのセミヌードって言うんだっけ? 写真集なんて買ったことのない童貞な俺にはわからない。
すらりと伸びた脚に、下着に見えなくもない刺激的な水着。しかも、どのページもモデルの女の子が片手で顔を隠していて、それがかえってひどく興奮を誘うのだ。
「ろ、ろこつにエロが前面に出てない写真が……こ、こんなにエロいなんて……。俺、知らなかったです」
「もっとだ。もっとよく見るんだ。脳に鮮明に焼きつくまで!」
「は、はい! ……でも幽麒麟先生、なんでいま、その……写真集を? みんなが戦っているこのタイミングで?」
「安心したまえ。ちゃんと意味はある」
そう言った幽麒麟先生は、ちらりと俺の股間を流し見る。
制服のズボンに張られた立派なテントを見て、幽麒麟先生が苦笑するのがわかった。
「いや、あのっ、これは、その……」
「いいんだ。気にしなくていい。童貞なら当然のことだ。それよりも体の調子はどうだ? そんなテントを設営できるぐらいだ。動けるようになったのではないか?」
「え? そういえば……」
そう言われた俺は、全身を少しづつ動かしてみる。
まだ痛みは残っているが、だいぶ動くけるようになってきた。あれだけのダメージを負った体が、回復してきているのだ。
「ふふ。どうやら動けるようだな」
「でも……どうして急に?」
「それは富国、貴様が童貞だからだよ」
「えっ!?」
「どんなに体が消耗していようとも、視覚的に興奮できる触媒があればなんどでも勃ち上がる。童貞が持つ能力のひとつだ。……しかも貴様は十代の若者。その回復力は生涯において最も高い時期でもある」
「回復……じゃあ、興奮すると体力が元に戻るんですか!?」
「そうだDT細胞がそうさせているのだ。しかもDT細胞は体力だけではなく、傷口も修復することができる。だから私ではなく、いまはしゃ、写真集の方を見たまえ。いまは回復に努めるんだ!」
「はい!」
元気よく返事をした俺は、写真集に目を戻す。
そして幽麒麟先生に言われるがまま、食い入るように、脳に刻み込むかのように、読み込んだ。
いったい、どれぐらいの時間が経過したのだろうか?
数十分たったような気もするし、ほんの数秒だったような気もする。
ひとつだけ言える確かなことは、阿津鬼の声がさっきからぱったりと途絶えていることだ。
たぶんやられてしまったんだろう。でもDQNは短命なヤツが多いから仕方のないこと。いちいち気にしてはいられない。
「……いけるか富国?」
幽麒麟先生の問いに、俺は静かに頷く。
「へっ、もう『イっちゃいそう』ですよ、幽麒麟先生」
「ふふ、童貞のくせによくも言う。だが……」
幽麒麟先生に視線を――おもに股間にねっとりとした視線を向けられたまま、俺は立ち上がる。
あれだけ動かなかった体が、いまは羽のように軽い。
それどころか、なんだか力が有り余っていて、いますぐにでも動かないと爆発してしまいそうな勢いだ。
「雄々しいな、富国」
俺の股間を見た幽麒麟先生が言う。
「ありがとうございます」
「そんな貴様に担任として――いや、ひとりの女として“真名”を送ってやろう」
「『真名』? なんです、それは?」
「童貞だけが持つことを許された、童貞力の真の名だ。いうなれば童貞ネームだ」
「な、なんかヤな響きですね。それ」
「ふっ、そう言うな。担任としてやってあげれられる、最後の仕事みたいなものさ。受け取るがいい富国、貴様の童貞ネームを!」
「さっき真名って……」
そんな言葉には耳も貸さず、幽麒麟先生は含みのある目を俺の体のある一点に向ける。
「貴様の童貞ネーム、それは……『火星人襲来』だ!」
「ちょっ、せんせ――」
「富国、貴様の童貞力である『火』はあまりにも大きく強い。まるで星の強大さを連想させるほどにな。だからこそ貴様の童貞ネームには太陽系第四惑星である火星の名をつけた。ちなみに火星には、貴様の股間のモノのディフェンシブモードの仮性の意味も込めてある。こうみえて私はネーミングセンスに自信を持っていてな。どうだ? 貴様にぴったりな童貞ネームだろう」
「…………」
「ふっ。感動のあまり言葉も出んか」
「い、いや、そーじゃなくてですね……」
「ならば富国よ! 貴様の担任として命ずる、」
「…………」
「あの老害を倒してこい。貴様たち童貞の未来のために!」
瀕死の傷を受けながらも不死鳥の如く蘇った俺は、やり場のないわだかまりを抱えたまま、その眼差しを老害――神羅万将へと向けるのだった。
次は12時に更新します。




