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ねらわれた童貞学園  作者: どどど、童貞ちゃうわ
13/24

第13話 愚かな童貞を撃て

本日四度目の更新です。

「いてて……はぁ、やっと腫れがひいてきたよ」


 副会長戦から3日。

 俺は自宅の鏡の前に立ち、顔にベタベタと貼られていた絆創膏をひっぺがしたあと、


「いってきますーす」


 と母親に言ってから朝食の食パンを1枚咥え、家をとび出した。

 家から学園までは徒歩で20分ほど。

 校則で自転車通学は認められていない(サドルが息子の成長によろしくない影響を与えるから、と噂されている)ため、家から学園までの距離がすごく中途半端な俺は、めんどくさいことに歩いて通っているのだった。


 俺のクラスS組では、遅刻した生徒は担任である幽麒麟先生の魅力的な部分を五つ挙げなければならない、という鉄の掟が存在する。

 挙げきれなかった生徒は、自分の名前を記入した婚姻届を提出しなくてはならないのだ。提出した婚姻届がいったい何に使われるかなんて、考えたくもない。

 そんなわけだから、S組の生徒たちはどうしても遅刻するわけにはいかないのだった。

 そもそも幽麒麟先生(あの人)に、容姿以外の魅力なんて存在しないのだから。

 

だから俺は、いつも10分以上余裕を持って家を出ている。ちなみに食パンを咥えている理由は、曲り角で女の子とぶつかり合い、偶然にもパンツを見ちゃったとか、もしくはぶつかった拍子にもつれ合っておっぱいに触ってしまったりとか、あるいはその両方、みたいなベタな突発的イベントを期待しているからだ。

 まあ、中学1年からはじめてすでに3年。いままでそんなことは一度もなかったけどね。

 それでも癖で、曲り角を通るたんびに身構えていると、女の子の代わりに高級そうな車が飛び出してきた。


「おわぁっ!!」


 大きく飛び退いてなんとかかわす。

 阿津鬼たちとの闘いを経て、劇的に反射速度があがっていたからだ。

 じゃないと、とてもではないが避けられたとは思えない。それほどのスピードで車が飛び出してきたのだ。


「あぶねぇなっ!!」


 俺がそう怒鳴ると、件の高級そうな車はブレーキを踏み、少し離れたところで停まる。

 車の色は汚れひとつない赤一色。スポーツカーっていうのかな? 窓ガラスにはスモークが貼られ、中は見えない……ってこの車、入学式の日に俺をはね飛ばしてくれたヤツじゃないかっ!?

 あの時の俺は、幅跳びのオリンピック選手もビックリするぐらいふっ飛ばされたせいで意識を失ってしまったけれど、こうして再び遭い見えることができたんだ。

 文句のひとつやふたつ、言わせてもらうぜ!


「おいちょっとアンタ! あぶな――」

「やあ饗兵くん、おはよう」


 俺をひき殺そうとした車の主は、六道先輩だった。


「この車……六道先輩のだったんですか?」

「ああ。僕のフェラーリさ……と、言いたいところだけどね。残念ながら違う。これは事務所が所有する車のひとつなんだよ。そもそも僕は、まだ免許を取れる年齢ではないからね」

「そっか。言われてみればそうですね。じゃあ、運転してるのは?」

「僕のマネージャー、明鏡さんだよ」

「六道先輩、いっこ聞きたいことがあるんですけど……そのひと、一か月前の入学式の日も運転していました?」

「ああ、していたよ。明鏡さんは僕がデビューした時からずっと運転してくれているからね」

「ホントですか!? お、おれ、入学式の日にこの車にはねられたんです!! ひき逃げにあったんですよ!」

「なんだって……あの時はねたのは君だったのか……」


 驚いた顔をした六道先輩は、次に顎に手をあて、考え込む。


「すまない饗兵くん。なんせ僕はトップアイドルだ。直接運転していないとはいえ、僕が乗る車がひとをはねたとなれば、スキャンダルは免れない。だから僕は――」


 遠くを見つめ、苦悩に満ちた表情を浮かべる六道先輩。


「迷わず逃げるように指示したんだ」

「なッ!?」

「明鏡さんの下の名前は『紫水』。まさに明鏡止水(明鏡紫水)の名に恥じぬ落ちつきようで、それはそれは見事な逃げっぷりだったよ」

「俺……入院したり大変だったんですよ……」

「僕も明鏡さんも良かれと思ってやったことだったんだが……どうやら君には迷惑をかけてしまったようだね。そう考えてみれば、僕は愚かな選択をしてしまったのかもしれないね。すまない……響兵くん。後日、事務所の者を謝罪に行かせるよ」

「……そんなんで済ませるつもりなんですか?」


 六道先輩の態度に、フツフツと怒りが湧いてくる。いま手に銃を持ってたら撃ってやりたい気分だ。

 そもそも、当事者でもない事務所のひとが謝りにきたって、なんの意味もないじゃないか。

 いったいぜんたい、俺の怒りと、失った3週間をどうしてくれるってんだ!?


「せんぱ――」

「口止め料は1億でどうかな?」

「俺ぜったいに誰にもいいません!」

「ありがとう」


 六道先輩がニコリと笑い、それ以上の満面の笑みを浮かべた俺と、固い握手を交わす。


「そうだ饗兵くん、じつは君に渡しておきたいものがあるんだった」

「俺に? いったいなんです?」

「受け取りたまえ。君が次に闘うであろう相手の映像データだ」


 そう言った六道先輩は、俺に一枚のDVDを渡してきた。


「3年の代表戦は明日行われる予定だ。そのDVDに映っている3年生が……間違いなく勝つだろうね」

「次の……相手……?」

「饗兵くん、君は僕に勝ったんだ。負けるなよ」

「は、はい!」


 俺の返事を聞いて満足そうに頷いた六道先輩は、スポーツカーに乗ったまま先に行ってしまった。


 思わぬことで時間をくった俺は、チャイムが鳴るギリギリで教室へと滑り込む。

 婚姻届をヒラヒラとさせていた幽麒麟先生の舌打ちが、やけに大きく聞こえた。




「んで、これが次の相手のビデオってわけかよ?」

「ああ。六道先輩は、このビデオに映っている『男が勝つ』っていってたんだ。碗力、悪いけど再生してもらえるかな?」

「りょーかいっス」


 その日の昼休み。

 俺は阿津鬼と腕力のふたりと一緒に、屋上にいた。

 いま俺たちの視線は、碗力が持つノートパソコンへと向けられている。


「んじゃ、再生するっス」

「頼む」


 碗力がパソコンを操作してDVDが再生されると、そこには巌のような大男が映っていた。

 すぐさま、その生徒を見た碗力の顔色が変わる。


「この人は……堅忍けんにん先輩……っス」

「知っているのか碗力?」

「知ってるもなにも……この人は現生徒会長じゃないっスかっ!」

「生徒会長? このひとが?」

「ああ、そうだぜぇ富国。この野郎ヤローが番長の堅忍先輩よぉっ!」

「『番長』じゃなくて生徒会長っスよ阿津鬼君」


 話を聞くと、どうやら入学式の日に生徒会長である堅忍先輩から新入生への挨拶がありったらしく、そのことで阿津鬼と碗力のふたりは堅忍先輩の顔を憶えていたそうだ。

 しかし、生憎と俺は入学式の日に六道先輩の乗る車にはねられてしまったから、堅忍先輩の顔を見るのはこれが初めてになる。


堅忍不罰けんにんふばつ先輩。一年の頃から生徒会戦挙で勝ちあがり、四期連続で生徒会長になった、この貞潔学園史上『最高の漢』と呼ばれているひとっス」

「……最高の……漢? 『最強』じゃなくて『最高』なのか?」

「そっス」

「一年のころから負け知らずなら……最強でもいいんじゃないのか? そっちの方が強そうだし」

「チッチッチ、あめーな富国」


 阿津鬼が指をピコピコ振りながら会話に入ってきた。

 正直煩わしい。


「いいかぁ? 堅忍先輩が『最高の漢』って呼ばれてるのには、ちゃーんと理由ワケがあんだよ」

「ど、どんな理由があるっていうんだよ?」

「堅忍先輩は……絶対に相手を攻撃しないんスよ」

「あ、テメェ碗力ぃ! オレが富国に教えてやろーとしたのによぉ!」

「勿体ぶって話してるからっス。明日の会長戦まであまり時間がないんすよ。なら少しでも対策を練れるように有意義に使うべきっス」

「……チッ。わーったよ」


 阿津鬼が不貞腐れたように吐き捨てる。

 俺はそんな阿津鬼を無視して、碗力に顔を向けた。


「なあ碗力、堅忍先輩が『攻撃をしない』って、どーいう意味なんだよ? 攻撃しなきゃ勝てないだろう?」

「いいっスか富国君、堅忍先輩は自分は一切手を出さず、相手の攻撃に耐え忍ぶだけなんすよ。ほら、見るっス」


 碗力に促されてノートパソコンのモニタに目を落とすと、そこには腕組した堅忍先輩が、相手から放たれる攻撃に耐え続ける姿が映っていた。

 モニター越しでもその威力が伝わってくるほどの童貞力を浴び続けながらも、堅忍先輩は腕を組んだまま一歩も動かない。いや、それどころか微動だにしていなかった。


「見てわかるように、堅忍先輩の童貞力は防御に特化しているっス。堅忍先輩はその童貞力()で耐え続け、相手の童貞力と体力が尽きるのを、そして心が折れるのを待つんス。相手に、ただの一度も攻撃するなく……っス」

「そんな……」

「わかったか富国? 相手を攻撃することなく勝ってきたから、堅忍先輩は『最強』じゃなくて『最高』って呼ばれてんだ。そして――」


 阿津鬼は俺の肩を強く叩き、続ける。


「ついた二つ名が『浮沈漢ふちんかん』。どんな攻撃にも耐え続け、決して沈まぬ男の中の漢、浮沈漢堅忍不罰! その最高の漢が富国の決勝戦の相手だ! 気合入れやがれぇ!!」

「そっスよ富国君、堅忍先輩は絶対に攻撃してこないっス。それが堅忍先輩のアイデンティティでもあるんスからね。だから思いっきりぶつけてくるっス! 富国君が持つ全力を、堅忍先輩にっ、『最高の漢』にぶつけてくるんス!!」


 ふたりの想いを正面から受け止めた俺は、大きく頷いて答える。


「ああッ!!」


 堅忍先輩は一年の頃から四期連続で生徒会長になった人だ。

 勝てるとは思わない。

 でも……それでも、阿津鬼に碗力、そしてわざわざDVDを渡してくれた六道先輩のためにも、俺は俺が持つすべての童貞力を使って堅忍先輩に――『最高の漢』にぶつかってやる!

 たとえ童貞力を使い果たしても、体力が限界を迎えたとしても、心だけは決して折れたりなんかしない!

 俺に想いを託してくれた、仲間(童貞)たちのためにも絶対にだ!


 俺はそう固く決意する。

 だから、この時は思いもしなかった。

 最高の漢、『浮沈漢』とまで呼ばれた堅忍不罰先輩が、この日の放課後に行われた三年代表戦で、まさか敗けてしまうなんて……。 

次は0時に更新します。


【童貞紹介コーナー】

・六道凜音

童貞力:ザ・フューチャー(特質系)

童貞歴:17年

名前の由来:六道輪廻

備考:超人気アイドルグループ、KAN-TOOONカンットーンのリーダー。超イケメン。でもおちんちんが小さいのが悩みの種。

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