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ねらわれた童貞学園  作者: どどど、童貞ちゃうわ
11/24

第11話 童貞は何も考えずに走れ!

本日二度目の更新です。

「そろそろ……終わりにしてもいいかな?」

「はぁ、はぁ、はぁ……」


 六道先輩に殴られ続けたせいで顔は腫れ、頭もガンガンする。

 ついでに何発もボディを貰ったせいで足は止まり、もう立っているのがやっとの状態だ。


「響兵くん、君は頑張った。生徒会長を目指すというのなら、また後期の戦挙でがんばればいいじゃないか」

「はぁ、はぁ……俺は……諦め……ない」

「ふう、意地の張り合いなら君が一等賞だ。でもね、時には退くことも覚えておいたほうがいい。まあ、まだ童貞の君にはわからないかも知れないけどね」

「……諦め……ない」

「困ったなぁ、平凡な顔から無残な顔になってしまった君を、これ以上殴るのは気が進まないよ。頼むからギブアップしてくれないかな?」

「…………」

「まっ、そうなるよね。わかっていたよ。じゃあ……終わりだ。シュッ!!」


 六道先輩の右ストレートが俺の頬を打ちぬき、そのまま俺はどうと仰向けに倒れ込んでしまう。


「そのまま寝ていてくれよ。まったく……一般ピーポーはしつこいから相手するのも大変だよ」

「くっ……」

「立てぇっ! 立つんだ富国ぅー!!」

「立ってくれっス! 立つんスよ富国君!! まだやれるっス!」


 無様に倒れ込んでしまった俺に声援を送ってくれるのは、もう阿津鬼と富国の二人だけだ。

 観戦に来ていた他の生徒たちは決着が着いたと思ったのか、ただ静かに見守っている。


「やれやれ、まだ騒がしい外野が残っているなぁ。どうだい響兵くん? まだ立つ気かい?」

「……はぁ、はぁ……」

「その、なんだ。別に勝ち誇るわけではないけれど、本音をいうと僕は君たち一般童貞が羨ましいんだ」

「はぁ、はぁ……。な、なん……で、すって……?」

「だってそうじゃないか。君たちは一般童貞は機会さえ、チャンスさえ巡ってくればいつでも童貞を捨てることができる。誰に遠慮することなくね。僕はそれが羨ましいんだよ」

「ふざ……けるな……」

「別にふざけてなんかいない。大真面目さ。だって、君たち一般童貞と違って、僕の童貞には計り知れない価値があるんだ。穢れを知らない清い体、“童貞”であるということが僕の商品価値を更に高めているんだよ。君たちと違って、おいそれと捨てれるものではないのさ。チャンスはいくらでもあるのにね」


 強い違和感を覚えた。

 チャンスがあるにもかかわらず、童貞を捨てないだって?

 そんなバカな話があるものか。

 童貞は、いつ何時もビンビンになるもの。その猛りは自分の意思で簡単に抑えられるものではない。


「ぐっ……おおぉぉぉ!」

「ほお、まだ立つ力が残っていたのか」


 じゃあなんで童貞を捨てないか?

 簡単だ。捨てれない“理由”が別にあるんだ。性への衝動を、抑え込むほどの理由が。


「当たり……前だろ! 俺たち童貞は立つ(勃つ)ことにかんしちゃ超一流だぜ! どんな状況になろうとも、立てないはずがない!」

「……そうか。なるほど、ね。なら今度こそ二度と立ち上がれないように――」

「六道先輩、」

「ん? ……なんだい?」

「俺……六道先輩の“嘘”に気づいちゃいました」

「『嘘』? いったいなんのことかな?」

「童貞を捨てたくない童貞なんているわけがない。それこそ、チャンスさえあればブスでもいいから、って思うのが童貞だ」

「…………」


 “トップアイドル”が童貞を捨てない理由。

 それは、立場を変えて考えてみると、答えにたどり着くのは簡単だった。


「それなのに、たくさんチャンスがあるにも関わらず、六道先輩が童貞を捨てないのは、なぜか?」

「き、決まっているだろう! しょ、商品価値が――」

「違う! 商品価値そんなものいくらでも誤魔化せるはずだ! 六道先輩は芸能界という、『嘘と偽りの世界』にいる住人なんだからっ!」

「――くっ、」

「六道先輩は商品価値とか、人気とか、そんな下らないもののために童貞を貫いているわけじゃない。ただ――」


 俺は六道先輩を真っ直ぐに見つめる。

 正面から見据える俺の視線を受けた六道先輩が目を逸らそうとするも、ここで逸らしたら負けかと思ったのか、辛うじて踏みとどまった。

 六道先輩と視線が交差するなか、俺は静かに、でも力強く言い放つ。


「ただ……怖かっただけなんじゃないんですか? “童貞を捨てる”ことがじゃない。『トップアイドル六道凜音』として、上手く、そして格好良くエッチできなかったらどうしよう、って……恐れてたからこそ童貞のままなんじゃないんですか?」

「……き、君はなにを言って……」

「六道先輩……あなたは自分が背負った、『トップアイドル』って肩書に押し潰されているんですよ。俺も童貞だ。エッチがしたい。そう思うのは自然なこと。でも、童貞だからこそ同時にこうも考えてしまうんです」


 俺は天井を見上げ、童貞の誰もが抱えているであろう不安を口にする。


「緊張して立た(勃起)なかったらどうしよう? コンドームってどうやってつけるんだろう? “秘密の花園”が分からなかったらどうしよう? なにより……早かったらどうしよう? ってね。俺たち童貞はエッチしたことがないんだ。未知の体験に対する悩みは尽きない」

「…………」


 沈黙は肯定と同義。

 俺は自分の考えが間違っていなかった確信を得ると、視線を六道先輩に戻して更に追い打ちをかける。


「俺ですらそう悩んじゃうんです。それが……トップアイドルである六道先輩ならもっと悩んでしまうんじゃないんですか? 芸能界なんてプライドの高い連中ばっかでしょう? そんな奴らに、自分の弱みを晒してしまうのが怖いんじゃないいですか? 例えばそうっ、『小さかったらどうしよう?』とかねぇっ!!」

「――ッ!?」


 六道先輩の顔色が、明らかに変わった。俺が偶然はなった不意なひと言が、六道先輩の致命的ともいえる弱点をついたのだ。

 斬り込むべきタイミングは、ここしかない!

 俺に残された勝機は、もうここしかない!


「俺は童貞だけど、短小が卑下の対象だってことぐらいはわかる。ましてや芸能界。相手は経験豊富なひとたちばっかでしょう。だから、だからこそ……六道先輩、トップアイドルとして周囲の人間からちやほやされてきたあなたは、他人からバカにされるのが怖いんだ!! 違うかっ!?」

「く……くうぅぅっ。バカにするなよ、ぼ、膨張率なら人並み以上に――」

「膨張率がなんだ! いくら膨張率が凄かろうと短小は短小だ! 認めろ!!」

「くぅぅぅッ!?」


 俺の叫びに、六道先輩だけじゃなく、観戦しに来ていた何人かの生徒までもが黙り込む。


「六道先輩、あなたは短小だ」

「そ、それがどうした!? 僕が人よりちょっと小さいからと言って、それがどうしたというんだ!?」


 追いつめられた顔の六道先輩。

 俺はそんな六道先輩に向かって、口元をわずかにゆるめた。


「そう。そうですよ六道先輩。『それがどうした』ですよ」


 俺が同調するのが予想外だったのか、六道先輩は口をあけてぽかんとする。


御子息おちんちんの背丈が小さいことぐらい、なんだっていうんですか先輩。俺たちは童貞なんだ。そんな小さなこと気にしないで、ただチャンスがあれば飛びつけばいいだけなんです」

「チャンスに……とびつく……?」

「そうです。飛びつけばいいんですよ。いままでも、そしてこれからも多くのチャンスが先輩にはあるんですから、怖がる必要なんてないんです。失敗したっていいんです。だって、だって俺たちは――」


 この時、はじめて俺は六道先輩に微笑んだ。


「童貞なんですから!」

「…………」

「六道先輩、」

「……なんだい、富国くん?」

「俺……いまから先輩のこと殴ります。それも思い切り」


 六道先輩を見つめたまま、俺は拳を握り込む。


「俺がいまから振るう拳には、童貞の……童貞たちの、先輩と違ってエッチしたくてもできない童貞たちの想いを込めます。童貞たちの想いを詰め込んだ拳で……先輩を殴ります! そしてこの拳こそが、俺の最後の攻撃です!」

「……そうか」

「いきます!」


 俺は重い足を引きずりながら、六道先輩に向かって一歩づつ近づいていく。


「富国君、自分の……自分の想いもっ、富国君の拳に送るっす!」


 涙を流しながら、碗力が言う。

 分かってるって碗力。俺の拳は、お前の拳でもあるんだぜ。


「富国ぅ! オレの想い(ハート)も持っていきやがれ! そいつで……そいつでぶん殴ってやれやぁ!」


 阿津鬼が唾を飛ばしながら喚き散らす。

 いいから黙れ阿津鬼。気が散る。


「童貞の……想い、か……」


 六道先輩は動かない。

 どこか遠くを見つめたまま、微動だにしない。


「う、うおぉぉぉぉ!!」


 そして、俺は――


「だぁぁぁぁぁぁ!!」


 六道先輩の顔面に、その拳を叩きこんだ。

次は12時に更新します。

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