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恋晴れびより

作者: 黒樹 圭介

 別れの季節が去ると、次は出会いの季節がやってくる。そうやって四季も循環しているように、彼もまた今年中学校を卒業して9日後にある高校の入学式に向け、着々と準備を進め残りの春休みを有意義に過ごしていた。

 そんなある日の夜、普段は電話など掛かってこない時間帯に受話器を持って妹が部屋に入ってきた。

 妹曰はく、話し相手が女性であることを伝えられ、彼は妹から受話器を受け取り部屋の外で待つように伝え電話に出た。

「あ、もしもし。先輩ですよね?」と確かに女性の声だ。でも、この声には聴き覚えがない彼は必死になって脳内スクリーンに相手の人相がスクロールしていた。

「わたしです、空美です」と本人自ら名を名乗ってくれたおかげで、ようやく本人の人相画が脳内スクリーンに映し出された。

「あ、空美さん。どうしたの? こんな時間に?」

「あ、あの、その前に先輩。今の時期って忙しくなかったでしょうか?」

 彼女は彼のことを心配してくれているような口調で話しかけてきた。

「全然大丈夫だよ。めっちゃ暇してたから」

「よかった―…。では、先輩。話を進めますが、明日お暇ですか? 別に明後日でもいいんです。ただ3月いっぱいじゃないとダメなんです。先輩のお時間をお借りできないでしょう……」

「え―…っと。それは俺に訊いてんの?」

「はい、急に言ってすいません。……やっぱりダメ……ですか?」

「いや、大丈夫。どちらも空白のノープランさ」

「よかった―…」とまたもや心の底から響く正直な囁きを漏らし。

「お願いがあるんです」と急に彼女が緊張した声に転じて、

「明日、1日だけでいいんです。私と……付き合ってくれませんか?」

 単刀直入なお願いに彼の頭の中は真っ白になった。

「俺が……君と?」

「はい、二人っきりがいいんです。いけませんか?」

「いや、別に悪くはないよ」

「よかった……。では明日、よろしくお願いします」と電話線の向こうで彼女がお辞儀する姿が彼の目に見え、彼もつられてお辞儀した。

 その後、彼女は待ち合わせの時間と場所をしきりとこちらの都合を気にしながら提案し、彼はただ「わかった」と言い続け、明日のプランの空白を埋めていった。

「すいません、急に電話してきて―…」

「そう畏まらなくていいよ。じゃあまた明日ね」と彼が電話を切ると扉を開け、妹がニヤつきながら部屋に入ってきたが、彼はすぐに受話器を妹に返し会話の詳細を黙った。


 翌日。彼は、彼女と昨日約束した光葉園駅前公園に向かい彼女を待った。すると、彼女は彼の姿を見つけるなり早歩きで近づいてきた。

「おはようございます、先輩。あの、待ちましたか?」

「おはよう、空美さん。大丈夫、全然待ってないよ」

「それより、先輩。私、行きたいところがあるんですが、いいですか?」

「もちろんさ。そのために来たんだから」

「ありがとうございます。それでですね。観に行きたい映画があるんです」

「無論構わないよ。チケット代は俺が出よ」

「いえ、それには及びません。わたしが無理言って来てもらったんですから。自分が出します」 

 はっきりと述べた彼女は彼にそっと微笑み、彼と一緒に駅へと向かい切符を購入していいタイミングで来た電車に乗り込み彼女が行きたいという映画館に向かって電車は走り出した。

 改札口を抜けると彼女は誌面を開き、映画館の場所を調べながら彼を導いて歩くも彼女は少し緊張していた。

 そろそろ、次の回が始まろうとする時間なのに、チケット売り場には誰一人並んでおらずその映画の不入り具合を表していた。彼はガラス向こうで暇そうにしているおばさんに、

「学生二枚」と告げ彼女の観たいと言っていた映画のチケットを買った。

 首尾よく入館した彼らは、短観だけあって広いと言い難しい劇場の真ん中あたりの席に座った。よほど不入りなのか客入りは疎らどころか、がら空きだった。彼は先ほど買ったチケットに目をやるとスプラッター系のホラー映画だった。正直なところ、彼にとってはあまり好きではないジャンルだが、この日ばかりは彼女のお願いを訊いてあげないといけなかった。

 上映中、彼女は熱心な映画ファンとなりスクリーンを鑑賞していたが、ホラー特有のシーンには素直にビクッ! と驚き、顔を背けたり、一度だけ彼の手をつかみ少しだけ彼を和ませた。

 そして、映画が終り彼らは劇場を出た。その時、時刻はすでに昼過ぎだった。

「空美さん、随分と熱心に見てたね」

「はい、好きな俳優が出ていたので」

「へ―…そうなんだ―…。で、どうする? どっかで昼飯でも」

「あの、行ってみたいお店があるんです。いいですか?」

 映画館からしばらく歩いて到着したのは、こぢんまりとした喫茶店だった。見るからオシャレな外見と内装をしており、とても男性一人では入れるような店ではなかった。思わず立ち止まった彼を、彼女は心配そうに見上げてきたのでごく自然な感じで木製のドアを彼は押した。

 店内の客層は女性の割合が高いも、男女のカップルが何組かいたため、彼はホッとため息をついた。

 席へと案内してくれたウェイトレスは、彼らを見て微笑んで水の入ったグラスを持ってきて、オーダーを訊いてきた。 

メニューを見つめること30秒程度、彼はアイスコーヒー、彼女は特製ケーキセットを注文した。注文を訊いたウェイトレスさんが十種類のケーキのサンプルを持ってくると彼女は迷いなくモンブランを指さした。

「ケーキセットだけでいいの?」

「はい、わたしそこまでお腹すいていないんです……」と彼女は彼から目線をそらし頬を赤くして答えた。

 運ばれてきたモンブランとアップルティを彼女は30分くらいかけて口へ運んだ。彼がアイスコーヒーをさっさと飲み干すも、彼女はまだ食べ終わっていなかった。

 彼らが小一時間ばかし喫茶店に居座っていると、時間は昼を過ぎ、そろそろティータイムに差し掛かろうとしていたせいか、客足が増えてきた。

「さて、そろそろ行こうか。お茶代くらいは俺がおごるよ」

「いえ、自分の分は自分で出します。今日こうして付き合ってもらっているのはわたしですから」

 精算を終えた彼らは、明るい日差しの中を歩き始めた。

「さて、次はどうしようか? 映画、喫茶店と来たからな……」

「あの、先輩。最後にどうしても行きたい場所があるんです。いいですよね?」

「構わないよ。じゃあ、そこに行こうか」

「ありがとうございます」

 そういって彼女は「わたしについてきて」と言わんばかりに歩いて行った。

 彼女と一緒にあること約20分。案内されたのは、夕日に照らされ紅色に輝く満開の桜が咲く公園だった。

「す、すごい……」

「へへっ、ここ、わたしのお気に入りの場所なんです。あの、先輩……ちょっといいですか?」

「うん、いいけど―…」

「え――っと。こ、これ……受け取ってくれませんか?」と彼女は彼に小さな袋を渡した

「本当は先輩が受験する前に渡そうかと思ったんです」

「そうなの? ありがとう、空美さん」

 そういって彼は鞄に袋をしまい、元来た道を辿って昼ごろ来た駅から光葉園駅まで電車に乗り、駅前公園で彼女と別れた。


 その日の夜、彼はさっそく彼女から貰った袋を開けて中身を出した。中には1つのお守りが入っていた。すると妹が受話器を持って部屋に入ってきた。受話器を受け取ると妹はそそくさと部屋を出て行った。

「はい、もしもし」

「あ、先輩、こんばんは。今日は本当にありがとうございました」

「いいよ、そんなに畏まらなくても。俺も楽しかったし」

「……あの、先輩……」と少しだけ間合いが開いた。そして、

「わたし、先輩のことが……『スキ』なんです! へ、返事はいつでもいいです。それでは」

「ま、待ってくれ! 今、俺からの返事を―…」と彼は言った時、すでに電話は切れていた。でも、このとき彼の心はドキドキして熱くなっていた。


 この小説は私が4月当初に初めて書いた短編恋愛小説です。恋愛小説を手掛けたのはこの作品が初めてで、幾度とネタ切れ寸前という崖っぷちに立ちましたがこうして無事に完成することができました。

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