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1-6 水瀬隊長

「あ、あなたは?」


声が震えた。この人は味方なのだろうか?そんな判断もできないほどに思考回路は麻痺していた。


「俺?水瀬みなせ 秀明ひであきだよ。君は?」


水瀬さんというのか・・・。僕も名乗らないといけないと思った。


「ぼ、僕は神谷 柊太です」


しかしやはり声は震えてしまう。そんな僕を水瀬さんは笑う。


「おもしろい子だね。ところでケガしてるみたいだけど、大丈夫?ちょっとの間、我慢できる?」


僕は自分の体を見た。

体は腹を殴られて吹っ飛ばされたときに体をひきずって出来たと思える切り傷がいくつかできていた。


「だ、大丈夫です、少しは痛みますが、我慢できないほどではないです。」


僕は正直に答えた。

すると水瀬さんは「そう、よかった」とだけ言って『闘牛の突撃』の方を向いた。

そしてすごい形相で睨むリーダーの男と目を合わせる。


「貴様なんのつもりだ?これは俺ら『闘牛の突撃』とそいつらの問題だ。関係ない輩の乱入は認めねぇぞ」


リーダーの男の言葉づかいが今までとは打って変わってかわる


「まあまあ、落ち着いて、新入生の男の子と女の子相手に上級生のごつい男たちが囲んでいたら何事かと思うでしょ?」


水瀬さんはリーダーの男のそんな雰囲気に一切の恐怖でもないようで、茶化すように言った。


「喧嘩売ってんのか?

 まあいい、誰だか知らんがお前とはあとできっちり話し合おうじゃないか。

 先に、そこのガキと後ろの女に話があんだからよ」


リーダーの男は僕を見た後、後ろで捕らえられている奏佳を見る。


「おい、手っ取り早く、その女にお灸を据えてやれ」


「へいへい」


リーダーの男がそういうと奏佳を捕らえていた男は、手の先をピンと伸ばすと、手の先からミナトが刃を形成するように現れ、男はそれで奏佳の服を切り落とそうとする。

すなわち彼らのお灸を据えるというのは公衆の面前、しかも野次馬がたくさんいる中での恥辱行為だった。


「下種が!!調子に乗ってんじゃねぇぞ!!」


しかしそのような行為は行われなかった。

突然奏佳を捕らえていた男の後ろから別の男が現れ、奏佳を捕らえていた男の髪をつかみ、後ろに引き倒す。

そしてそのまま有無を言わさずに、胸倉をつかみあげて思いっきり顔を殴り飛ばした。

飛ばされた男は野次馬の方にまっすぐ飛んでいく。

野次馬を数人巻き込むかと思われたが、野次馬たちはさっと左右に分かれると、男はその間をきれいに飛んで行って壁にぶつかって気を失った。


「調子に乗るからこういうことになるんだよ!!素直に話してればいいものを・・・」


彼は吹っ飛んで行った男の方を見て言った。


「こっちはもう大丈夫だ、安心していいぞ。」


彼はそういうと奏佳をそっと地面に寝かせた。

僕はホッとするあまりへたり込んでしまった。


「大丈夫か!?」


奏佳を助けてくれた人が僕に聞いてきた。


「はい、大丈夫です。ちょっと腰が抜けただけですから」


「そうか」


奏佳を助けてくれた呆れた顔で言った。。


「はははははははは、腰が抜けたって、ははははは」


水瀬さんは腹を抱えて盛大に笑っていた。

顔が熱くなるのを感じた。

しかしそんな空気を一変するかのようにリーダーの男が吠えた。


「てめぇら絶対ゆるさねぇ!!おい、お前ら殺っちまえ!!」


彼がそう命じると、隊員の人たちは自分たちの武器をだし、ミナトを使い襲いかかってこようとする。


「う、うわぁぁあ!」


僕はおもわず大声で叫んでしまった。

しかし襲いかかってきた人たちは自分たちの武器を掲げたまま一歩も動けないでいた。

なぜなら突如空間から現れた鎖が彼らを捕らえ、動けなくしていた。


「ご苦労様、木景」


水瀬さんは隣の何もないところに向かって話しかける。

すると隣の空間がぱっくりと割れ、中からまた一人男の人が現れた。


「また、くだらないことをしでかしたんですか?」


空間から現れた人は木景さんというらしく、水瀬さんを呆れ顔で見ながら、ちらっと僕の方を見た。


「その子は?」


「面白そうな子」


水瀬さんは笑顔で言う。

・・・もう少しマシな紹介をしてほしかった。


「くそ、何がどうなっていやがる!!」

「指一本動かせねぇぞ!!」

「それどころからミナトがまったく使えない」


木景さんに捕らえられた男たちが口々に騒いでいた。

そんな男たちを木景さんは一瞥すると指をぱちんと鳴らす。

すると先ほどまで騒がしかった男たちが一度びくんと波打つと一気に気を失い、次々に倒れていった。


「き、貴様らどこの隊のもんだ!?貴様らなんぞ見たことないぞ」


さすがのこれにはリーダーの男も動揺を隠しきれていないようで、水瀬さん達に向かって叫んだ。


「まあそんなことどうでもいいじゃないの。それよりももういいかな?」


水瀬さんがそう言う。

しかしリーダーの男は諦めなかった。

ここであきらめてしまえば隊のメンツにかかわると思ったのだろう。


「そもそも関係ない人間が関わってくるな!!

 そいつは俺らの隊に入るって言ったんだよ。

 隊長が隊員に教育するのに関係ない奴らが絡んでくるんじゃねぇ!!」


「そうなの?」


水瀬さんは僕の方を見る。僕は必死に首を横に振る。


「違うって言ってるけど?」


水瀬さんはまたリーダーの男の方を見る。


「このクソガキ!!

 隊に入れた後、生きてることを後悔するようにしてやる」


リーダーの男は僕を思いっきり睨めつけてくる。


「それはダメでしょ?隊員は大事にしないと」


しかし水瀬さんはそんなことは全然気にならないようで、まだまだ挑発をしている。

いやもしかしたら天然で言ってるのかもしれないが・・・


「うっせぇ!!どっちにしろ、てめぇは関係ない人間だろうが!!横から入ってくるな!!」


そんな叫んでいる男を無視して水瀬さんはまたこっちを向いた。


「ねぇ?うちの隊入る?君みたいな面白い子なら歓迎するよ?それに入るなら今この争い終わらせてあげられるし」


「え、えっと・・・」


僕は奏佳の方を見た。気絶している彼女を見たら僕の気持ちは固まった。


「入ります。この争いが終わるなら」


僕は『闘牛の突撃』のリーダーにも聞こえるように大きな声で言った。


「よっしゃ~。面白そうな子GET」


水瀬さんはガッツポーズをする。。


「また勝手に厄介事を持ち込んで・・・対処するのは誰だと思ってるんですか、まったくもう」


木景さんが溜息をつき、肩を落とす。

しかしそんな木景さんの事は水瀬さんの目に入っていないようで、リーダーの方を向いて臨戦態勢を取る。


「さて、俺も関係者だね。戦おうか?」


「ぶっ殺す」


リーダーの男は肩にかけていたデカい斧を取り出した。

そしてその斧を地面に思いっきりたたきつける。

すると衝撃波みたいなものが地面を伝って水瀬さんを襲った。

しかし水瀬さんはまるで幽霊のようにゆらっと揺れると姿を消した。

残った衝撃波は水瀬さんの後ろにいた僕に向かってくるが、奏佳のところにいた男の人が一瞬で僕の目の前まで来ると、その衝撃波を手を払うだけで消し飛ばす。


「くそ、どこに行きやがった!!」


リーダーの男はあたりを見回す。


水影すいえい


水瀬さんは突如リーダーの男の隣に現れると、右腰に持っていた刀を鞘から抜き放ち、刀の峰でリーダーの横腹に向かって思いっきり振りぬいた。

リーダーの男は声も出せぬまま倒れた。

・・・水瀬さんが使った技って、僕の記憶が正しければ、一度本で見たことがある。

確か『水影すいえい』と言って、水のミナトで蜃気楼みたいな感じで相手に存在を誤認させ、その隙に音もなく相手の側面に回る技だったような気がする。

でも僕が読んだ本では、実際に使える人は少ないと書かれていた。

なぜなら存在を誤認させることは水のミナトの力だとそれほど高度な技術ではないのだが、音もなく高速で相手まで接近することはかなり高度な技術だからだ。

・・・・水瀬さんは一体どれほど強いのだろう。


「はい、終わり~じゃああとの始末はよろしくね~木景」


水瀬さんは涼しい顔で僕たちの方にもどってきた。


「なんで僕が後始末しないといけないのかな~」


木景さんはそういうと空間から無数の鎖をだし、それを操作し、倒れている『闘牛の突撃』の人たちを一か所に集める。

そしてすべて集めたあと、流れるような動作で水瀬さんの頭をグーで殴った。


「痛ってぇ~~~~。何しやがる!!」


「勝手に暴れた罰です。あと勝手に新入隊員を入れたことです」


木景さんが僕の方をちらっと見る。


「いいじゃん。俺の隊なんだし、それにおもしろそうな子だったんだから」


水瀬さんは頭を押さえながらブーブーと抗議する。

そんな水瀬さんにまたグーで頭を殴る木景さん。


「はぁ~。久野くのさん。その女の子と新入隊員さんとこのバカ隊長を隊舎に連れて行っといてください。ここのさらに大バカな男たちは先生たちに引き渡しておくので」


「はいは~い」


久野さんと呼ばれた奏佳を守ってくれた人は、そういうと僕の方に歩いてきた。


「立てる?」


「あ、はい。なんとか」


僕は足を震わせながらもなんとか立った


「生まれたてのヤギみたいだね。小鹿だったけ?」


水瀬さんは片手で頭を押さえながらそんな僕を見てまた笑っていた。

そしてそんな水瀬さんをどこからか出したトンファで久野さんが殴打し、意識を刈り飛ばした。


「手間かけさせんな、このバカ隊長!!」


そういうと水瀬さんを肩から担ぎ、もう片方の方で奏佳を担ぐ。

そして僕についてくるように促した。

それから水瀬さんの隊に向かう途中周りからいろんな声が聞こえてきたような気がする。


「なんであの人がここに?」

「っていうかなんであの人、気絶してんの?」

「っていうか後ろのひ弱そうな子誰?」

「さあ?」

「さっきの騒ぎの主犯格らしいよ」

「人は見た目で判断したらだめなんだね」

「あとさっきなんか大声で入隊しますって声聞こえたよね?」

「それってもしかしてあの子があの人の隊に?」

「いや、あれは連行されてるだけでしょ?」

「でもさ、あの子がもしあの人の隊に入ったんだとしたらちょっとしたニュースになるよ?」

「で、結局どうなんだろう?」


・・・水瀬さんって何者なんだろう?


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