1-5 隊探し
「じゃあな、柊太。俺は先に行ってくるな」
「あ、うん。バイバイ、また明日」
勇人はそれだけいうと教室を出て行った。
「さて、僕は奏佳を待つとしようかな」
奏佳が来たのはそれほど遅くはなかった。
「あ、待った?まあいいわ、さあいくわよ」
「ど、どこに行くの?」
「隊の見学よ。
競技棟の方でいろんな隊の人たちが勧誘してるでしょうから、手ごろな隊を探しに行くのよ」
奏佳はそういうとさっさといくように僕に促し、一緒に教室を出た。
競技棟は教室のある校舎から少し離れたところにある。僕たちは軽く会話しながら競技棟に向かった。
「ねぇ、シュウは専行授業なに選んだの?まあどうせシュウのことだから防御と補助なんでしょ?」
「え、えっと・・・そ、それよりも奏佳は何を選んだの?」
「私は風のミナトだからね、もちろん攻撃&補助よ。槍を攻撃で強化しながら、補助で加速よ」
奏佳はお父さんやお母さんが槍使いであったこともあるため好んで槍を使う。
そう、自身を高速化し風を纏った槍を。
「ところで競技棟で隊を探すって言ってたけど、どこか良さそうな隊に心辺りがあるの?」
「そんなもんないわよ。言ったでしょ、手ごろな隊を探すって」
「ああ、そう」
「なんか希望でもあんの?」
「ないけど」
「じゃあいいじゃない。さっさといくわよ」
それからしばらく歩くと、競技棟に着いた。
中ではいろんな隊が勧誘を行っていた。
まあその中に上位の隊はもちろんいなかったけど。
「『未来の崩壊』に入りませんか?友達と一緒でも全然OKですよ~」
「いやいや、それよりも『過去が滅亡』になんてどう?」
「いやいやいやいや、そんなダサい名前の隊より『豚の家畜小屋』なんてどう?」
「なんだと、お前の方がダサいだろうが!!」
「はぁ~。お前のネーミングセンスで誰が入ろうと思うんだよ!!殺すぞ、コラ」
「・・・どっちもおなじぐらいダサいわよ」
「は、ははは」
競技棟では今にも喧嘩が起きそうなぐらい暴言が飛び交っていた。
しかし喧嘩よりも入隊させることの方が大事なのか、喧嘩自体は起きていなかった。
「どうする?」
「う~ん。とりあえずそこそこレベルが高くて、人が良さそうなとこ探すしかないわね」
僕らが隊を探して歩いていた頃・・・・・
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「おい、ほんとにこん中にお前のいう面白そうな奴はいんのかよ」
「大丈夫だ。俺の勘がいるって言ってる」
二人の男が競技棟の上に張り巡らされている鉄の棒に乗って下を見下ろしていた。
「おまえの勘ねぇ~。さて帰るか」
「おい、待て、コラ。隊長ほったらかして帰る部下がいるか!!」
「うっせぇ、誰が部下だ。おまえの隊の隊員かもしれんが部下になった覚えはない!」
「隊員は隊長の部下だろ?」
「さて帰るか」
「お願いだから帰らないでください。」
「最初からそう言え」
「ん?なんか今爆発起きなかった?」
「・・・・・ああ、バカな隊がいざこざ起こしたんだろ。」
「そこだ、絶対にそこに俺の探す面白そうなやつがいる」
隊長らしい男が爆発の起きた方に一直線に飛んで行った。
「はぁ~。木景に連絡しとかないとな。」
もう一人の部下らしい人間は木景という人物に連絡だけすると隊長らしい人のあとを追った。
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その少し前、柊太たちはまだ隊を探していた。
「ああ、もう!!本当、なんで手ごろな隊はないのよ!!」
「奏佳、そんなに怒らなくても」
「ああ!!」
「すみません」
とそんな会話が行われていた。
「こんなくだらないことで時間なんか使ってられないわ!!ちょっとまってて。探してくる」
奏佳はそういうとどこか適当な隊を探しに行った。
「はぁ~、奏佳はああなると止まらないからな~」
僕もじっとしているのはしんどいので適当に歩き回ることにした。
「すみません、ここ隊はなんていう隊なんですか?」
「ああ!?うちは『闘牛の突撃』だよ!!」
受付にはいかにも俺はこの学園の不良です!!みたいなごつい顔の人がいた。
「あ、そうですか。すみません、お邪魔しました。失礼します。」
きっとあぶない隊なので離れておこう。
「おい、待てや、コラ。声かけといてそりゃあねぇだろ。ちょっと来いや。おい、お客さんだ、だれか相手してやれや」
しかしそううまくはいかず、彼がそういうと後ろに座っていた何人かがこっちにきた。
「なんだ、なんだ。冷やかしかい。ちょっとシメるか」
「ははは、なんだ、このガキ。よくこんな容貌でこの学園に入ろうとしたな」
「い、いや、あの冷やかしとかじゃなくて」
面倒なことに巻き込まれてしまった・・・
「へぇ~じゃあうちに入るのかい!?」
「それは、その・・・入りませんけど」
こんな隊絶対に入りたくない。入ってもろくなことはない。
「入らないんでしょ?はい、冷やかし決定。シメちまえ」
屈強そうな男が数人で僕を囲んだ。
僕は正直をいうと少し、というよりかなりビビッていた。
僕を囲んだ人たちは僕よりも頭1つ、2つ大きそうな人たちばかりで絶対に勝てる気がしない。
「ちょっと!!いったい何してんのよ!!」
聞き覚えのある大声と共に男が一人吹っ飛んだ。そして僕を庇うように奏佳が立った。
「いったい何してんのよ!?アンタら」
奏佳は一目でリーダーっぽい人を見つけるとその人を睨めつける。
「威勢のいい嬢ちゃんだねぇ。君も入隊希望かい?」
しかし睨めつけられたリーダーの男の方はいうと、睨まれたことには一切動揺はないようでニヤニヤしながら奏佳を見る。
「なんでアタシなんかがあんたの隊に入らないといけないのよ!!」
奏佳はそんな視線が不愉快だったのか、より一層大きな声で入隊を拒否する。
「へぇ~、じゃあ嬢ちゃんも冷やかしだね」
「も?」
リーダーの男は僕を見る。
「そこのガキも冷やかししてきたんだよね」
「ぼ、僕は冷やかしなんてしてません」
冗談じゃない、ただ話しかけただけじゃないか!?
「そんなこと知るか!!よくも俺を吹っ飛ばしてくれたな!!ただじゃおかねぇ」
さっき奏佳に飛ばされた男が立ち上がり目を血走らせながらこっちに来た。
リーダーの男はその飛ばされた男を一瞥するとこちらをまた見て言った。
「さてうちの隊員にもお痛してくれたし、ちょっと殴られてくれるかな?」
その言葉を合図に、周りを囲んでいた男たちも臨戦態勢を取る。
いつのまにか周りにはその戦いを一目見ようとする野次馬ができていた。
彼らには止める意思は一切なさそうだ。
「やるっての?相手になってあげるわよ!!」
奏佳はそんな野次馬は気にならないようだった。
むしろ自分の戦いを見てもらえることがうれしいのか、奏佳の顔は生き生きしているように見えた。
「ヤロー!!」
奏佳はそういうとすぐ後ろから突っ込んできた男の頭に膝蹴りをかまし、同じく前から突っ込んできた男の腹に掌底をいれる。
そして次々に襲いかかってくる男たちを奏佳は体術だけで倒していく。
見ている限りでは奏佳の方が有利に見える。
しかしリーダーの男は仲間が倒されていっているにも関わらず、ニヤニヤしながら奏佳を見ることをやめない。
「嬢ちゃんもなかなかやるようだね~。でもいつまで続くかな?」
僕はとっくにその戦いの蚊帳の外にいた。
最初に男が突っ込んできたときと同時に戦いの輪から突き飛ばされていた。
そして蚊帳の外から奏佳の戦いを見ることしかできていなかった。
野次馬のように集まったギャラリーと一緒に。
「しつこいわね!!」
奏佳はそういいながらも男たちに掌底や蹴りを入れていく。
しかし向こうの数が多すぎた。奏佳が蹴りを放った後着地時に少しグラついた。
そこを男たちは見逃さない。
一人の男が奏佳の腕を捕まえ、背後にいた男が奏佳を羽交い絞めにする。
「あれあれ、捕まっちゃったね~」
するとリーダーの男はゆっくり奏佳に近づいてくる。
そして、いきなり奏佳の腹に思いっきり拳を入れた。
「がぁ!!」
奏佳がうめく。
奏佳はその一撃で気を失ってしまった。
しかし男たちはそれでやめようとしなかった。
リーダーに続き、近くの男も、もう一発腹に拳を入れようとする。
僕は見ていられなかった。
「や、やめろ~~」
僕は無意識のうちに飛び出していた。
そして水のミナトを使い、水の力を拳に纏わせると、奏佳を殴ろうとした男を殴り飛ばす。
その後呆気にとられていたリーダーの男を前に立って思いっきり頭を下げる。
「やめて、もうやめてください。入隊するから、もうやめてください」
僕は泣きながら、懇願する。
しかしリーダーの男はニヤッと笑うと僕にも奏佳にしたように同じ攻撃を繰り出してきた。
僕はなすすべもなく数m飛ばされてしまう。
しかし倒れているわけにはいかず、足を震わせながらもなんとか立つ。
「ばかだねぇ~もうこの騒ぎは収まらないよ?そしてそこの女と一緒に病院のベッドの上でおねんねしておきましょうね~」
彼らはもう僕の話を聞いてくれなかった。
リーダーの後ろでは僕に飛ばされた男が爆発音と共に彼らのブースに設置されていた机を殴り、ばらばらに砕いていた。
彼は火のミナトのようで僕と同じように自分の拳にミナトの力を纏わせていた。
「ぶっ殺してやる。」
彼はそういうと火を拳に纏わせたまま僕を殴ろうとしてきた
。
僕は動けなかった。
殴られるしかないと思った。
殴られて奏佳と同じように意識を刈り飛ばされてしまうものだと思っていた。
・・・しかし僕は殴られなかった。
突然の僕の前に降ってきた人が襲いかかってきていた人の顔の右側を蹴り飛ばしていた。
吹っ飛ばされた男はその一撃で完全に意識を刈り取られていた。
そして僕を殴ろうとしていた男を吹っ飛ばした男の人は僕の前に降り立った。
「あぶないな~、上級生が下級生をミナト使って殴ろうとするなんて、ダメでしょ?」
優しそうな人だった。蒼い髪と目が印象的だった。