2-8 誘拐
僕は隊舎をでた後どうしようか迷っていた。
「一回隊舎に戻るか、そのまま行ってしまうか・・・」
木景さんには調べるように言われただけなので、そのあとのことを聞いていない。
「ま、普通に考えてまずは報告だよね」
報告、連絡、相談はいつの時代も重要だ。
だから僕は木景さんに報告することにしよう。
僕はそう思って隊舎の方へ足を向けた。
「しかし、『闘牛の突撃』のリーダーの住んでるこの場所・・・.
なんでこんな豪邸のあるところになってるんだろう?
お金持ちなのかな?」
さっき教えてもらった『闘牛の突撃』のリーダーの住所は豪邸の立ち並ぶ住宅街で、貴族たちが住んでいる。
貴族たちとはこの国では昔王族制度が存在した頃に重役に就いていた人達のことで、今では王族が政治を行っていないため、政治を行う政治家についている者が多い。
また、昔各国の戦争で功績をあげた実力者にも貴族の称号が与えられている。
貴族は例外なく、金持ちの集まりである。
そしてさっきの住所はその貴族たちが豪邸を建てているところで、『闘牛の突撃』のリーダーもそこに住んでるらしい。
「『闘牛の突撃』のリーダーは貴族なのかな」
僕がそうつぶやいたとき、背後から声がした。
「そうだよ~、うちのリーダーは貴族なんだよ~」
僕はとっさに身構えた。
そして僕を囲むようにして、周りに『闘牛の突撃』の隊員が現れた。
「さっきまで人の気配なんてなかったのに、なんで?」
さっきまで僕が歩いていた道には、確かに人の気配がなかった。
だから『闘牛の突撃』に囲まれることはいくら僕が弱いといってもないはずだ。
「空間制御をできるのがお前の先輩だけなんていつ決めた?」
そうか、空間制御!!
くそ、やられた。
確かに空間制御は特殊のミナトで結構レアな力だが、なにも木景さんだけとは限らない。
この学園にはよりすぐりの力を持つ者たちが集まっている。
他にも空間制御を持っている人がいてもおかしくない。
でも・・・
「この人数を一度に空間制御して僕の周りに?」
この人数はおかしい。
僕の周りには、8人もの人たちがいる。
これだけの人を空間制御して僕の周囲に出そうとしても普通はミナト不足により出せない。木景さんでも無理だろう。
ただ体に負担を大量にかけて命がけで発動すれば、木景さんぐらいになればできるかもしれないけど・・・
しかしそんなことをすれば死は避けられない。そしてそんな力を僕なんかのために使うとは思えない。
まあそもそも木景さんほどの空間制御をできる人が、他にこの学園にいるとは思えないんだけど・・・。
「お前さんはどこまで知っている?」
僕に声をかけてきた男が代表として聞いてきた。
唐突な内容すぎて一瞬意味が分からなかったが、おそらくあの薬のことについて聞いているということは予測がついた。
「『リベルテドラッグ』の性質とあなたたちが栽培していたということ」
僕は正直に答えることにした。
この人たちに嘘をつくと、絶対に僕の身が危ない。
「そこまで知ってるなら話が早い。
なら、その知識にさらに説明を加えてやろう。
俺たちはリベルテドラッグを服用したものを制御することに成功した。」
リベルテドラッグを服用した者を制御できるようになった?
でも、それと一体今回のこの空間制御の力に関係があるのか?
「なんだ、まだピンと来ないのか?
お前鈍いな。
なら教えてやろう。
リベルテドラッグは使用者を狂戦士化させるだけではない。
使用者を狂戦士化させると同時にそいつがもつミナトを大幅に増幅させる。
すなわちドーピングだ」
精神攪乱以外にもまだそんな効果を秘めていたのか・・・
つまりこういうことか。
空間制御を持つ者にリベルテドラッグを服用させ潜在的なミナトを増幅させる。
そしてその者をこの人たちが制御できれば、今の状況が作り出せる。
しかし服用者はどうなるんだろう?
いくらミナトが増幅したとはいえ負担は大きいはず。
それにリベルテドラッグを服用するなんて・・・
「服用者はどうなったんですか?」
「ああ~あの使い捨ての駒なら今回復中だよ。
今回復してお前をリーダーのところへ連れて行く準備をしている。」
こいつら今なんて言った?
使い捨ての駒?
この人たちは自分の隊の人をなんだと思っているんだ!!
「・・・なんで僕を誘拐なんてことを遠回しなんてことするんですか?
口封じなら殺してしまえばいいのに」
とりあえず話をして、可能な限り情報を入手しよう。
そして誰かが通りかかるまで時間も稼ぐ。
今僕にできるのはそれぐらいしかない。
この人たちに殴り掛かっても返り討ちに会うだけだ。
たぶん今話しているこの人以外はリベルテドラッグ服用者で、操られている・・・と思う。
目がうつろで、まるで幽霊のようだ。
だからこの人とさえうまく話をできていれば、ほかの人たちが短気を起こすようなことはないだろう。
「貴様は人質として利用させてもらう。」
人質としての利用?
この僕を?
「胸張って言えることじゃないけど、僕なんかにそんな価値はないぞ!!」
僕を人質としても、そこまで価値があるとは思えない。
むしろ問題になり、国家警備部隊や銃弾の帰る場所が動く原因になる。
「そうでもないんだな~。
まあ詳しい事情はボスから説明があるから、おとなしく来てくれるかな~」
男は僕の前に人が丁度入れるくらいの段ボール箱を置いた。
いわゆるこれに入れということだろう。
「一応聞くけど、断ったらどうなるの?」
「おとなしくしてもらって連れて行く」
ようするに、痛い目をして連行されるか、おとなしく連行されるかのどちらか選ばないといけないということか・・・
この数が相手だと10秒持たずにやられちゃうだろうし、ここは何かメッセージを残して・・・
僕がそう考えていた時、よく知った声が聞こえた。
「あれ、神谷くん?こんなところで何をしてるの?」
僕が見た先にいた人物は桜澤さんだった。
まずいことになった。
まさかよりによって桜澤さんと鉢合わせになるなんて。
このままじゃあこの現場を目撃したとして桜澤さんまで誘拐されてしまうかもしれない。
「桜澤さん逃げて!!」
僕は大声で叫んで、僕と話していた男にタックルをしようとした。
この男さえ封じてしまえば、桜澤さんを誘拐する指令が、新たに服用者たちに伝わることはないはずだ。
しかし、僕なんかが敵うはずもなく、腹に一撃入れられて、気を失ってしまうことになった。
気を失う瞬間に見たのは、僕と同じように崩れていく桜澤さんの姿だった。
柊太がそんなことになっている頃、隊舎では・・・
「柊太君、遅いですね。
簡単な仕事なのに、こんなに時間をかけるなんて。」
「お兄ちゃんの身に何かあったんでしょうか?」
柊太の帰りが遅いことに、木景と瑞穂は心配していた。
もっとも、本気で心配しているのは瑞穂であって、木景というと・・・
「さあて、そんな遅い柊太君には何か罰ゲームを考えないといけませんね。
そうですね、最初は・・・」
柊太が遅い罰について考えていた。
「大丈夫だって、瑞穂ちゃん。
柊太はなんか巻き込まれ体質もってるけど、日が暮れるまでには帰ってくるって」
水瀬が心配でオロオロしている瑞穂に笑顔で語りかける。
「水瀬さんは黙っててください。」
しかし瑞穂は水瀬を一蹴して、また心配をし始めてしまう。
水瀬は登場むなしく、また部屋の隅でめそめそと泣く羽目になった。
「しかし、ここまでくると真剣心配になりますね」
さっきまで罰ゲームを考えていた木景ふと真顔になり、窓の方を見る。
「・・・最悪の事を考えて、手を打っておきますか・・・」
木景は瑞穂には聞こえない声でつぶやくと、空間を開いた。
「すみません、瑞穂さん。
ちょっと柊太君の様子を見に行ってきます。
その間、バカ隊長と2人になってしまいますが、もし万が一何かしでかそうとしたら、遠慮なく、その辺にある花瓶とかで頭を殴って気絶させておいてください。」
木景がそういうと瑞穂は笑顔で・・・
「はい、任せておいてください。
もし水瀬さんがおかしなことしようとしてたら、遠慮なく血の海に沈めておきます」
・・・めそめそと泣いていた水瀬が震えているのは気のせいだろう。
木景は瑞穂の笑顔を確認すると、そのまま空間に入って行った。
更新遅くなり、すみませんでした。
ある程度の話は出来上がっているのですが、それを編集する時間がなくて更新できずにいました。
次は今回よりもうちょっとはやく更新できるように頑張ります。
応援よろしくお願いします。
閲覧ありがとうございました。