2-4 ミッションを受ける上での問題
午後からの授業は各属性のミナトに分かれて、基礎中の基礎である内容を行った。
それは単にミナトを高めるために集中するというもの。
これは基礎中の基礎だが侮ってはいけない。
なぜならミナトを高めるこの行為は、毎日コツコツ続けるだけでもミナトの絶対量を増やすことができる。
いわゆる筋肉みたいなものと考えてもらえばいい。
鍛えれば鍛えただけ強くなるが、さぼれば弱くなる。
この集中という行為は、まあ腕立て伏せみたいなものと考えればいいだろう。
そしてこの集中の授業で、もっとも注目すべき点は高めるまでの速さである。
ミナトの絶対量が多い人ほど強い魔法や技を繰り出せるが、それにはやはり時間がかかる。
昨日で言えば奏佳の『風流鳳仙』の威力は高い。しかし繰り出すためにミナトを高めるのに時間がやたらとかかっていた。
他にも風夜先輩の使った『ティフォン・ラトゥーヌ』は風の魔法の中でもかなり上位のものだが、風夜先輩はそんなに時間がかからず、発動することができていた。
すなわちミナトを絶対量を増やすだけでは意味がないのだ。それ相応のミナトを高める速さというものも必要になってくる。
この授業はミナトの絶対量を高めると同時に、微妙ながらも速さも鍛えることができる。
僕たちは座禅を組み、それぞれ無言でミナトを高めあう。
一度自分の高められるところまで高めたら、そこから少し限界に挑戦する。
無理に高めようとすると、体に大きな負担を強いることになるので、あくまで少しだけ。
少しだけ高めた後は、ゆっくりいつもの状態までミナトを落とす。
落し終えたら、次は挑戦した限界までミナトを高める。
無理なく高めることができれば、また少し限界に、無理を感じたら、また一度落す。
これを繰り返す。
時間が過ぎるのはあっという間だった。先生に終了を告げられた時には、あとは放課後を残すばかりとなった。
放課後になり、僕は勇人に別れを告げると、『銃弾の帰る場所』の隊舎に向かった。
「はぁ~。ここからは足が重いな~」
僕は重い足どりで歩き、隊舎に着いた。そして一度深呼吸をしてヨシっと意気込むと扉を開けた。
「こんにちは~」
入った先には水瀬隊長が隊長席に座っており、ソファには4人の人が座っていた。
座っていた人は机を真ん中として手前と奥のソファには誰もいなくて、左のソファに久野さんと神尾さん、右のソファに木景さん、家村さんがいた。
・・・しかしなんで『銃弾の帰る場所』の隊舎は扉を開けた先に、隊長室兼応接室兼隊員の休憩所になってるんだろ?
一応隊長席の奥に扉があるが、その先はキッチンになっているだけらしい。
学園3位なのに狭すぎるでしょ?
「お、柊太君来たね~」
水瀬隊長が満面の笑顔で迎えてくる。
「あ、はい」
僕も軽く会釈だけする。
「とっとと座れ」
家村さんが僕の方を見て言う。
僕は手前のソファに座った。
それと同時に水瀬隊長も隊長席を立ち、僕と向かい合いのソファに座った。
「手短な話は家村君から聞いてますね?」
木景さんが僕らが座ったのを見ると、僕の方を見て言った。
「は、はい。薬の話ですよね?」
僕はおそるおそる尋ねる。
「そうです。」
木景さんはそれだけいうと、一泊おいて僕にとっての爆弾発言を言い放った。
「そして今回のミッションには柊太君にも同行してもらおうと思っています。」
僕は次の言葉が出てこなかった。
・・・今、木景さんはなんて言った?僕にも同行してもらう?
「そ、そんなこと無理です!!
こ、こんなミッション、僕には荷が重すぎます。
それに1年生の僕がこんなミッション受けていいはずが・・・」
僕がすべてを言い切る前に、木景さんが僕の前に一枚の紙を出す。
「これが契約書です。もう却下は不可能です」
僕は唖然となった。
今日一日朝から襲われたり質問攻めという不幸があったが・・・
これが一番の不幸ではないだろうか・・・
「・・・僕には無理です」
僕は「妹の話」をしようと思った。しかし・・・
「あなたが妹さんのために、長期のミッションは無理というのは知ってます。」
木景さんは僕の心、考えをすべて見透かしているのではないかと思えてくる。
久野さんも神尾さんも、ただ一度うんとうなずく。
この様子だとみんな知っているのだろう。
「妹さん?なんの話?」
・・・・隊長は別格のようだ。
「柊太君は妹さんが病弱のため、心配なので長期ミッションを受けたくないそうです」
木景さんはさらっという。
「へぇ~。そうなの?」
僕は黙ってうなずく。
「それなら俺に任せろ!
柊太がミッションの間は俺たちがこの隊舎で妹さんをあずかってやるさ」
水瀬隊長はとんでもないこと言い出した。
そんなことできるわけがない。
実際この学園もそうだが普通関係者以外立ち入り禁止だし、しかも機密ミッションなども受けることがある隊の隊舎に関係者以外が立ち入ることは校則でも厳禁となっている。
「そんなこと不可能です!!」
僕は大声で叫んだ。
「可能ですね。」
「え?」
木景さんにそう言われて僕は驚きの声を上げてしまう。
「まず、これはそんなに難しいミッションではありません。
確かに内容は難しそうに聞こえますが、そうではありません」
「・・・」
普通こういう薬物が関わっているミッションって難しくないの?
裏組織とか絡んでくるんじゃないの?
「まあ確かに実際裏組織とかは絡んでますが、そんなに怖がることはありません。せいぜい悪商売人」
・・・木景さんがすごく怖いです。
僕の心の中完全に読まれています。
「じゃあやっぱり難しいんじゃないですか」
「いえ、裏組織はほぼ全部壊滅しています。
家村君がはっきりした組織はすべて潰しましたから」
・・・家村さんって一体どれほど強いんだ?
「それに、このミッションは街外にはでません。
すなわち魔物と戦う事にはなりません。
相手は少しばかりミナトの使える人間が相手になると思います。
もし強い人が出てきても家村君がいるなら心配はありません」
木景さんはそう言い切る。
「それなら今回はできるかもしれませんが、今後こんな難しいミッションは・・・」
こんな感じの難しそうなミッションが続くことは避けたいと思ったのだが・・・
「あなたが受けるミッションにはこれから先、『銃弾の帰る場所』のメンバーが1人以上付き添います。
いえ、そういうよりもこういう方は正確ですね。
あなたが『銃弾の帰る場所』のメンバーのミッションに付き添うようにしていきます。
その際のミッションの難易度はこちらで選定しますし、それにあなたが受けることが不可能なレベルのミッションは受けさせません。
あなたが受けたいといっても拒否します。
あとあなたの判断で学園のミッションを受ける際は、一度こちらまで持ってくるように。
そのミッションすらもこちらで受けていいか判断します。
場合によっては他の隊のメンバーと連携させるか、私たちの誰かが付き添います。
それが不可能なら受けさせません。」
受ける、受けない以前に、今の段階でミッションの制限ができてしまった。
そう僕が安全と判断されるミッションしか受けれなくなってしまった。
これでは反論のしようがない。
僕が言っていたことは難しいミッションは受けれないのではないか?ということなので、難しいミッション自体受けさせないと言われてしまえば、僕は何も言えない。
「次に妹さんの問題ですが、この隊舎で預かることは可能です。
ただし申請を出さなければいけませんが、申請自体は簡単です。
あと、妹さんを心配で見ていてほしいなら、隊長が暇なので大丈夫です」
・・・隊長が暇?
「いやいや、そうじゃなくて。
妹は病気がいつ悪化するかわからないし、それに隊長もずっといるわけじゃないし」
隊長だって家があるんだから、全員帰宅時刻になれば帰るはずだ。
「問題ありません。
なぜなら隊長はここに住んでますから」
・・・は?
「昨日だって帰ってたじゃないですか!?」
確かに昨日隊長が帰るのを確認したはずだ。
「そうなんですか、バカ隊長?」
木景さんがいぶかしげに水瀬隊長を見る。
「え、え~と、あれはね。
ほら、雰囲気出すために・・・ね?」
水瀬隊長はオロオロしながら言う。
決して僕らに目を合わせない。
「何をしてました?」
木景さんから怒りのオーラを感じる。
・・・うん、大変怖い。
「ちょっとストレス発散に・・・」
水瀬隊長は観念したように言った。
「ほぉ~、ストレス発散に・・・。
で、一体どこへ?」
木景さんははぐらかすのを許さない。
なんか水瀬隊長がかわいそうに見えてきた。
「学園近くの森まで、ちょっと魔物狩りに行ってました」
水瀬隊長はやけになったように言う。
・・・魔物狩り?
悪いことじゃないような・・・
「で、何をしでかしました?」
木景さんがまだ尋問を続ける。
・・・なにかしでかす?
「え、え~といくつか穴を少し作成しました・・・」
「どれくらいの穴ですか?」
いつの間にか隊長はソファーの上で正座していた。
「半径5mほどの穴を3つばかし・・・」
半径5mの穴!?
一体どんな戦いをしてたんだ?
しかもそれをストレス発散の戦いで作った!?
「それを直すためにかかる予算は?」
「30万Gほど・・・」
30万G!?
それだけあれば、3か月は余裕で暮らせますよ?
「はぁ~。少しみなさんのミッションの量を増やす必要がありますね」
木景さんが大きなため息と共に久野さん達を見る。
「はぁ!!なんで俺らがいそがしくなんだよ!!」
「こりゃ、バカ隊長はただ働きだね、肉屋で」
「なんで俺はこの隊に入ったのだろう・・・」
皆さんは口々に文句を言う。・・・まあ当然のことですが・・・
「とりあえずバカ隊長は今後謹慎全員が許可するまでとしましょうか」
木景さんは無情にも言い放つ。
「そ、そんな~~~」
水瀬隊長は泣き崩れ落ちる。そして・・・
「妹さんの問題解決ですね。」
木景さんが僕を見てニコッと笑った。
「・・・いえいえいえいえ!!
ちょっと待ってください!!
水瀬隊長はこの隊舎に住んでるんですか!?
そんなことが可能なんですか!?」
普通学園に泊まり込みなんて無理だ。
ミッションなどの影響で泊らなければならないという状況などなら、申請すれば隊舎に少しの間だけなら住まわせてもらえるんだろうけど・・・
「可能に決まってんだろう?
まだ説明受けてないのか?
≪隊長に限り、隊舎に居住を許可する≫っていう規則があるんだよ。
他にも≪朝のHR以降から放課後までを除き隊舎には隊長もしくは隊長からミッション報告処理の手 続きを許可されたものが必ず一人いなければならない≫っていうのもあるしな。
ほら、ミッション次第では夜中報告になったり、いつ報告になるかわからんからな。
うちの場合は隊長が隊舎に住むことで、この義務を守ってるっていうわけ」
そう久野さんが教えてくれた。
・・・しかし問題はそこだけじゃないんです。
「妹は僕より1つ下の、立派な女の子ですよ!
水瀬隊長みたいなロリコンに預けるなんて兄として絶対にしたくありません!!」
「「「「そ、そうか!!それなら無理だな(ですね)」」」」
全員が納得してくれたみたいだ。
「待てや、コラ!!
その発言だけは見過ごせないぞ!!」
水瀬隊長は納得してくれなかったようだ。
鬼の形相(涙目)で僕達のことを見る。
「だれが隊員の妹に手を出すか!!
さすがの俺もそこまで見境がないことはないぞ!!」
水瀬隊長はそういうが・・・・
「いや、バカ隊長が言っても説得ないね」
神尾さんがばっさりとそれを切り捨てる。
「そ、それにこんな誠実な隊長が女の子にその子の許可なく手出しするわけないじゃないか」
水瀬隊長は必死そうだが・・・・
「おい、木景。辞書の準備だ。
俺は『誠実』という言葉について学び直さなければいけないようだ」
「大丈夫です、家村君。
家村君の知っている『誠実』という言葉の意味は正しいですよ。
バカ隊長の用法が間違えているだけですから」
水瀬隊長のライフは0のようだ。
「お、俺を見くびるなよ!!!
柊太の妹の年齢は14歳。
俺の守備範囲は13歳未満10歳以上だから大丈夫だ」
「「「「想像以上のクズだな(ですね)」」」」
あ、水瀬隊長が立って、奥の扉の向こうに消えてしまった・・・・
「まあ、これで問題ないですね。
あなたの妹の事は守備範囲外なので預けても手を出さないでしょう」
木景さんは水瀬隊長が行った扉の方には見向きもしないで言った。
「・・・でも・・・・」
僕はそれでも納得がいかなかった。
「そうですか、ならばこうしましょう。」
木景さんはそういうと隊長の机の引き出しを開いて、1枚の紙を取り出した。
「柊太君、この紙にサインしてください」
僕の前に紙が置かれる。
紙には『家族の安全の保障』と書かれていた。
「あの~これは・・・」
「それは、生徒がミッションに行っている間、学園に家族の安全を保障してもらうために申請する紙です」
学園に安全を保障してもらう?
どういうことだろう?
「あなたがミッションに行っている間は、学園が雇った傭兵をあなたの家の周りに24時間体制で守らせます。
もちろん費用は学園負担なので費用の事は気にしなくていいです。」
・・・それは魅力的な提案なのではないか?っていうか、最初からこれを提案してくれていれば、よかったのではないかと思った。
「じゃあそれをお願いしま・・・」
「ただし家族の安全を100%保障するため、家族の方は家を出る時には周りに傭兵が5人、遠距離からの監視が3人付きます。
また家には入ってきませんが、家にはいくつもの監視カメラ、家の外には傭兵のミナトに反応して爆発する地雷をいくつか設置。
訪問者はその身元、および家族との関係を徹底的に調べ、安全と判断されたものだけが訪問を許されます。
学校には休学届が出され、あなたはミッションを終えるまでは登校は一切許されません。」
すさまじい条件付きだった。
さすがにこれにはサインできない。
「あと、追加ですが、あなたが妹さんの事が心配でミッションが受けられないという理由ではミッション拒否の理由としては許されないため、もし妹さんを隊舎に預けるという選択を選ばれなければ、この契約に強制的にサインさせます」
木景さんの目は本気だった。
「本当にそれしか方法はないんですか?他に方法は・・・」
「逃げるなよ」
僕が逃げ道を探そうとするのを家村さんが封じる。
「お前が選べるのは、その二つだ。
それ以外はない。
さっさと選べ。
早くミッションの方に戻りたいんだ」
家村さんが僕の方をジッと見る。
僕は視線を逸らそうにも、神尾さん達も僕をジッと見ているので視線を逸らせない。
「・・・隊舎に預かってもらいます」
答えはそれしかなかった。
もう一つの選択肢なんて選べるわけがない。
「で、でも大丈夫なんですか?
ミッションには機密情報とかあるのに、それを妹が知ることになったら・・・」
ミッションの機密情報を知られないために関係者以外立ち入り禁止なのに、本当に妹を入れて大丈夫なのだろうか・・・
「それも問題ありません。
なぜなら別に妹さんに知られても困る情報なんて扱いませんし、知られて困る情報が知られた場合は・・・」
知られた場合はどうなるのだろう・・・
「その情報を妹さんに漏らさないように言います。」
・・・それだけ?
「妹がその情報を漏らしてしまった場合とかは・・・」
聞きたくないが、聞かないといけないと思った。
「もしそうなったら、可哀想なことになりますね~」
どうなるんだ!?
「もしそうなったら・・・・・」
「そうなったら?」
僕は息をのむ。
「情報操作及び隠ぺいなどをするために、隊長のミッションのクリア報酬がなくなりますね。
情報操作、隠ぺいには莫大なお金がかかりますから、最低3か月は隊長はただ働きとなりますね」
・・・そうか、それなら問題ないや。
「じゃあ、妹のことよろしくお願いします」
隊長の知らないところで、隊長が哀想なことになっていた。
「なら、決まりですね。
これでミッションを受けるための問題はなくなりました。
ではさっさと言ってきてクリアしてください。
私は柊太君の妹を迎えに行ってきます」
木景さんはそういうと隣の空間に穴をあけ、行ってしまった。
「じゃあ俺らも俺らのミッションに行くか」
「そうですね」
久野さんも神尾さんもソファから立ち上がると、自分たちのミッションに行くため隊舎を出て行った。
「おれらも行くぞ」
家村さんもそういって立ち上がり、隊舎を出て行こうとする。
「・・・はい」
僕はその家村さんの後ろに続いた。
すみません
いつもより長くなりました。
あと更新も遅れてすみません。
いつも読んでくださってありがとうございます。
今後もよろしくおねがいします。