1-12 過去と現在
「とりあえず赤火君、これでそうちゃんの罪は取り消しで、『銃弾の帰る場所』と同じ罪を『飛天の双翼』に、でいいですか?」
風夜は赤火と風夜の前に置かれている紙を見て言った。
「それで構わん」
今『紅蓮の業火』の隊長室で取引が成立した。
中にいるのは赤火と風夜の二人だけで、奏佳は隊長室のドアの向こうで待機している。
「しかし意外だね、赤火君がここまであっさり認めるなんて。
もう一悶着あるものだとちーちゃんは思ってました。」
風夜は承諾書の2枚のうち一枚を自分のポケットにしまいながら言う。
「満足はしていないが、水瀬の本当の力の片鱗が見れたからな。
それに免じて引いてやったまでだ。」
赤火ももう1枚の承諾書を手に取ると自分の机の引き出しの中に入れた。
「で、水瀬君の本当の力というのはわかったんですか?」
赤火は無言で風夜を見る。
「・・・さあな。」
赤火はそういうと体ごと振り返り、風夜から目を逸らす。
「まあこれ以上はドアの向こうにいるカザちゃんに聞かれても困っちゃうので、聞きませんが、あえて一言で言うならなんですか?」
赤火は一度溜息をつくと、顔だけ風夜の方を振り向かせると風夜の目をしっかり見て言った。
「・・・人間としての領分を逸脱した力だ」
風夜もそれだけ聞くと、隊長室の扉を開け奏佳と共に自分の隊舎へと帰って行った。
赤火は一度席を立ち、後ろの窓をみる。窓の向こうはすっかりと暗くなっており、街の明かりがきれいに見えた。
「・・・水瀬、貴様は一体何者なんだ?」
赤火は2年前のことを思い出していた。
赤火が3年で、水瀬が1年だった頃のことだ。
赤火はそのころからこの『紅蓮の業火』で最強と言われて、4,5年の人たちが卒業すれば、隊長は赤火で決まりとまで言われていた。
そしてそんなある日、赤火の前に一人の男が現れた。
その男は蒼い髪と目を持ち、服には1年生の紋章があった。
そしてそんな男の眼には殺意が映っていた。
「1年が俺になんのようだ?」
赤火は警戒する。
「あんたが赤火家の人間か・・・」
男はその蒼い目でしっかりと赤火を捉え言う。
「それがどうした?」
赤火はそれと同時に左腰に帯刀していた剣を抜き去った。
「・・・死ね」
男はそういうと赤火に抜刀してきた。
臨戦態勢ができていた赤火もとっさに応戦する。
男の殺意は本物で、一時でも気が抜けたり、一瞬でも隙ができれば、赤火はいつ殺されてもおかしくない、そんな戦い続いた。
男の剣技は流れるような水のごとく、おだやかだが、刀の軌道は当たれば致命的、または絶命してもおかしくない軌道ばかりだった。
そしてそんな戦いの余波を先生たちが感じ取り止めようとした。
しかし2人の戦いは激しさを増すだけで、昔は熟練の手練れだった先生たちが束になっても、止めるための攻撃はすべて空を切った。
先生たちは自分たちでは無理だと判断し、とある人物のところへと向かった。
それは『飛天の双翼』始まって以来の神童と言われた風夜のところだった。
先生は風夜に事情を説明すると協力を要請した。
その後戦いの行われているところに戻ると2人の戦いは先生たちの目にも留まらないほどに過激化していた。
先生たちは自分たちが2人の隙をなんとか作るからと言い、そこを風夜が強制的に気絶させるように言った。
先生のうちの1人は全治3週間の入院を余儀なくされるほどのけがを負ったが、そのかいもあり、隙が生まれ、そこに風夜が割り込み、なんとか騒動は収まった。
もちろんそのような騒動をおおやけにするといろいろと面倒なので、極秘という処理で落ち着いた。
それから赤火の前にその男が現れることはなかった。
しかし・・・
「赤火さん!聞きましたか、1年の話」
赤火の1つ下になる後輩が、話しかけてきた。
「なんのことだ?」
赤火は自分の整理している書類に目を通しながら返事をする。
「1年の水瀬っていうやつが隊を作って、今ものすごい勢いでランクを上げてきているらしいですよ」
隊員は大変興奮した様子だった。
わからなくもない、1年で隊をつくり隊長を作ったものが今までいなかったということもあり、注目の的になるのはわからない話でもない。
それがどんどんランクを上げていると言われればなおさらだ。
「そうか。」
しかし赤火には興味がなかったので軽く受け流す。
「いや~すごいですよね。
新しく隊を作る場合って先生たちの全員認可は不可欠で、許可をもらえるってことは先生全員に認めら れているってことですから。」
赤火の耳にはもうそんなどうでもいいことは聞こえていなかった。しかし・・・
「あの隊を作った水瀬っていう奴、すごい水のミナトだったな~。
しかも蒼い髪と目って水のミナトとばっちりの容姿だったな~」
隊員は赤火に相手をしてもらえないと悟ると、そんなことを言いながら出て行った。
「蒼い髪と目を持つ水のミナトを扱うヤツだと・・・」
赤火は少し前のことを思い出す。そう自分の命を狙われたことの事を。
「・・・もしや、ヤツが作った隊なのか?」
赤火はそれを確認すべく、水瀬が作ったという『銃弾の帰る場所』の隊舎へと向かった
そして赤火が見たものはあの人はまるで別人のような雰囲気を持つ水瀬だった。
赤火はその様子を少し離れた場所で見る。水瀬の隊では笑顔が絶えなかった。
水瀬に勧誘されたであろう者たちと楽しく過ごしていた。
赤火はその日以来『銃弾の帰る場所』の状態を常に確認するようになった。
『銃弾の帰る場所』はあの後輩が言っていたように、すごい勢いでランクを上げてきた。
たった半年の間にSランクの任務を受けられるようになると、1年後には学園3位の称号を手にしていた。
しかし『銃弾の帰る場所』の勢いはそこまでで、それ以上ランクを上げてくることはなかった。
赤火がふと時計を見るととっくに最終下校時間を過ぎていた。
そして赤火は一言、水瀬が見せた力について言葉を漏らした。
「アレは神の領域に足を踏み入れた者が使うような力だぞ・・・」
赤火は窓のカーテンを閉めると、部屋の電気を消し、帰って行った。
更新できました。
今後もよろしくお願いします