1-10 助っ人参上?
「か、神尾さん?どうしてここに?」
僕は驚いた。
先ほど親切に道を教えてくれた神尾さんがこんなところに乱入してくるなんて思ってもみなかったからだ。
「ん?隊長からの・・・いや、副隊長からの指示でね」
「副隊長?」
副隊長?誰のことだろう?
「ん、ああ。木景の事」
僕はやっぱりかと思った。
木景さんが副隊長に見えてもおかしくないと思った。
・・・ん?待てよ?副隊長の指示ってことは・・・
「じゃ、じゃあ神尾さんも『銃弾の帰る場所』の一員だったんですか!?」
僕はびっくりして開いた口が塞がらなかった。
「そうだよ」
神尾さんはニッコリと笑う。
「途中にはいたんだけどね。
2人を見てたら横槍を入れるのは悪い気がいして、登場するタイミングを待ってたよ」
神尾さんはゆっくりこっちに歩いてくる。
それと同時に僕らを赤火さんの攻撃から守ってくれた壁も消えた。
「神尾か・・・、貴様一体どういうつもりだ?」
消えた壁の向こうでは赤火さんが僕らの方を見て睨んでいた。
「いやはや、ミッションの達成報告をしようと思って隊舎に向かってたら、木景に神谷君を助けるように言われてね~」
神尾さんは暢気そうに赤火さんの問いに対して返す。
「ほう、ということはヤツの差し金か?
木景がヤツの頼みなく、こんなバカげたことに手を貸すはずがないからな」
「で、そのバカ隊長なんだけど見なかった?
てっきり先に来てるものだと思ってたんだけど・・・」
隊長?
差し金?
僕にはさっぱりわからなかった。
そして僕がわかっていないということは奏佳にはもっとわかるはずがなかった。
「水瀬なら見なかった、いや、アイツが絡んでいるなら、今の現状に納得がいく」
「どういうことですか?」
赤火さんは何かに納得しているが、僕にはいったい何に納得しているかまったくわからない。
「これだけの爆音や叫び声が聞こえるのに、見回りの者たちが集まってこなかったからな。
おかしいとは思っていたが、アイツが『銃弾の帰る場所』を動かしていたのなら納得がいく。
大方、見回りに出していた者たちがすべて倒されるか捕らわれるかはしているんだろう?」
赤火さんはそういうと後ろを振り向いて、隊舎の上に座っていた影に言った。
「ご名答、悪いけど、見回り8人にはちょっと眠ってもらったよ~」
隊舎の上には水瀬さんが座っていた。
「お~い、バカ隊長とっとと降りてこ~い。
ほんと、煙とバカは高いところ好むっていうけど、ほんとに高いところにいたとは・・・」
神尾さんが水瀬さんに向かって叫んだ。
「うん、一言余計だけど、今降りる」
水瀬さんもそういうと隊舎からジャンプして飛んで落ちてきた。
「ほい、着地って、うぎゃぁ!!」
隊舎から飛び降りてきた水瀬さんは着地と掃除に横から走ってきていた久野さんのショルダータックルで飛ばされた。
「せっかく人が帰ろうとしていたのに呼び戻しやがって!!
しかも見回りを気絶させといてだと!?
ふざけんな!!」
久野さんはごみ屑となった水瀬さんに対して暴言を吐いた。
「いやいやいやいや!!
見回りを気絶させといてはたぶん木景の判断だから!!
俺の指示じゃないから!!
俺は見回りなんとかしといてくれたらいいなぁ~って思いながら別の用事をしに行ってたら、道行く道 で見回りが気絶してたの見ただけだから。」
水瀬さんは全力で否定していた。
「そんなことはどうでもいい!!
お前あとで晩飯おごりな、ただ働きはごめんだから」
久野さんはへたり込んでいる水瀬さんに言う。
「ええ~!!俺も今月はちょっとピンチなんだけど・・・・・」
「それは良いことを聞きました。
今日の晩飯代が浮きそうです」
いつの間にか木景さんも現れていた。
水瀬さんの目には若干の涙が見えたのは僕の気のせいだろう。
「あれ、肉な、肉。
贅沢言わないから食べ放題の肉でいいから、あと焼いてね」
神尾さんもはしゃいでいた。
・・・緊張感の欠片もない
「ねぇ、シュウ、これどういうこと?
なんで『銃弾の帰る場所』の人たちがここにいるの?
たしか赤火さんにシュウが『銃弾の帰る場所』に入隊させられたのはきいたけど・・・」
奏佳が僕の近くまで歩いてきて聞いてきた。
っていうか僕が『銃弾の帰る場所』に入隊してたの知ってたんだ。
「さ、さぁ?たぶん僕を助けに来てくれたんだろうけど、この人たちを見てると自信がなくなってきた」
この人たち、僕を助けに来てくれたんだろうか?それともただ騒ぎたいだけなのだろうか?
「確かに『銃弾の帰る場所』のメンバーは変な人たちが多いって聞くけど、ここまでとは・・・」
奏佳もドン引きしていた。
「おい、そこ!!
二人だけの世界に入らない!!
先輩と後輩のコミュニケーションは大事にしないと!!」
水瀬さんが僕らを指さして叫ぶ。
・・・アレってたぶんいじられる的を増やしたいだけじゃないの?
「・・・そろそろいいか?」
律儀に待っていてくれた赤火さんがこのままでは埒があかないと判断したのか、この騒ぎを止めに入った。
「あ、ごめん、ごめん。赤火さんのこと忘れてた」
水瀬さんが赤火さんに笑いながら話しかける。
よくそんなうかつなことが言えると思う。
「遠回しな言い方をしてもはぐらかすだろうから、単刀直入に聞く。どうするつもりだ?」
「ん?それはねぇ~」
水瀬さんが答えるよりも先に答えた人がいた。
「はいは~い、ちーちゃんのことも忘れないでね~」
水瀬さんが何かを言おうとすると突然小さな女の子が水瀬さんと赤火さんの間に現れた。
「水瀬さん、この子は一体・・・?」
見た目は明らかに10歳ぐらいで、身長も140cmにも満たないぐらいの女の子、髪はショートで薄い緑がかった色をしている。
そんな子が水瀬さんの顎にヘッドバットを食らわせ、登場してきた。
「あ、バカ隊長、ついに小さな子に手をかけたか!?」
「はぁ~、とりあえず国家警察隊に連絡と・・・」
「バカだとは常日頃から思ってたけど、ついに犯罪に手を染めるとは・・・牢屋行き決定だな。
ちなみに焼肉代はおいて行ってね」
久野さん、木景さん、神尾さんはまるで示し合わせたかのように水瀬さんに言い出した。
「ええい!!
誰か小さい子に手を出すか!!
確かにロリコンだけれども、ちゃんとルールは守るロリコンだ!!」
・・・ダメだ、この人なんとかしないと・・・
「ちーちゃんは小さい女の子じゃありません!!
ちーちゃんは『飛天の双翼』の隊長さんなのです」
えっへんとその小さな胸を張る。
「「ええ~~~~!!!」」
僕と奏佳の声が重なった。
「「「まあ、知ってた(ました)けどね」」」
僕たちとは違う意味で声が重なった。
「ちーちゃんは風夜千里です。『飛天の双翼』の隊長さんで、結構えらいんですよ?」
「で、そのえらい隊長さんがなんでここにいるんですか?」
神尾さんがもっともの質問を行う。実際一触即発の空気がまた壊れてしまった。
「あ、はい。今日は宮野奏佳という子を見に来ました。」
「私を?」
僕の横に立っていた奏佳が自分を指さす。
「そうです。水瀬君が勧誘してみたら?って言うからちょっと気になって見に来ました」
「え?」
奏佳が驚く。
「まあ千里さんは風のミナトの達人だから、奏佳ちゃんに丁度良いかな~って思ってね。
それで千里さん、奏佳ちゃんは合格ですか?」
水瀬さんは風夜さんに尋ねる。
「いいよ~うちの隊に入っても。風流鳳仙、気に入りました。育てがいがありそうです~」
水瀬さんと風夜さんの中では奏佳をどうするかの相談が行われていて、本人の了承なしに奏佳の入隊は決定しまったようだ。
「ってことで、よろしくね、そうちゃん。」
風夜さんは奏佳の手を取るとぶんぶんと振りまわす。
「え、え~と、ええ、あ、その、よろしくお願いします」
奏佳もよくわからない空気に惑わされて入隊すると言ってしまった。
「ちょっと待て」
そこに赤火さんが割って入る。
「その女は今謹慎処分となっている。
謹慎処分の生徒は隊に入隊することは認められていない。」
・・・これでは奏佳は入隊することができない
「あの!「ねぇ、赤火さん。」」
僕が言う前に水瀬さんが割って入る。
「・・・なんだ?水瀬」
「ここで提案。罪を消せとは言わないから、その罪を奏佳ちゃんから『飛天の双翼』に対して、に変更できないかな?」
水瀬さんの提案は実に魅力的に思えた。
そうすれば『飛天の双翼』には迷惑がかかってしまうが、奏佳は謹慎処分でなくなる。
「もう決定はされた。今さらの変更はできない」
しかし赤火さんはこの提案も却下する。
「・・・あと1つ提案」
ここで今までとはまったく別の、そう強者と強者が対峙した時の空気に変わった。
「3分、俺が赤火さんと戦い、赤火さんの納得のいく戦いができたら、さっき言った提案を受け入れるってのはどう?」
水瀬さんからミナトから溢れ出てくる。
「ほう?貴様が俺を満足させることができる戦いができると?」
対する赤火さんからもミナトが溢れ出てくる。
「赤火さんって俺が本気で戦うところ見たことありましたっけ?」
水瀬さんと赤火さんの間に火花が飛び散る。
「ちょっと待ってください」
そこに木景さんが割って入る。
「ここで戦うのはまずいでしょう?
赤火さん、『紅蓮の業火』の競技場に連れて行ってはもらえませんか?
そこでなら思いっきり戦えるでしょうし」
確かにこの2人が本気でぶつかり合う事になれば、こんな隊舎の前という場所はふさわしくないと思う。赤火さんも木景さんの提案は納得なようで、水瀬さんに背を向け、隊舎の扉の方に向かう。
「・・・いいだろう。付いてこい」
赤火さんは隊舎の扉を開けて入っていった。
「さて、行きますか。」
水瀬さんもそれに続いていってしまった。
そしてその後ろには僕と奏佳、風夜さん、木景さんが続こうとする。
しかし・・・。
「俺らはもう帰るわ。ここまできたら俺ら必要ないでしょう?」
久野さん、神尾さんはここで帰るといった。
「そうですね。あとは僕がいれば十分なので、二人は帰ってもらってもいいですよ。
突然の呼び出しですみませんでした」
木景さんはそれを止めようとはしない。
「いいって、別に」
「そうそう、バカ隊長に焼肉おごってもらうだけだから」
久野さん、神尾さんはニッコリと笑う。
「そうでしたね、それではさようなら」
「お疲れ様です、久野さん、神尾さん。今日はいろいろ助けていただきありがとうございました」
僕もお辞儀をして2人を見送る。
久野さんと神尾さんは僕のお礼に答えるように片手をあげて帰っていた。
「それでは行きましょうか。バカ隊長と赤火さんは先に行ってるでしょうし」
木景さんがそういうと僕らも水瀬さん達を追いかけて行った。
最近暇なせいか手が進みます。
更新できました。
今後もよろしくおねがいします。