1-9 無謀な頼み
「一体赤火さんの隊舎はどこにあるんだ?早くしないと水瀬さん達が追ってきてしまう」
僕は焦っていた。勢いで飛び出したのは良いがどこに行っていいのかわからない。そんな時前から少し大柄、久野さんよりちょっと大きいぐらいの人が歩いてきた。
「あの~すみません。『紅蓮の業火』の隊舎ってどこにあるんですか?」
僕はその人に訊ねた。この人は良さそうな人だし、簡単に教えてくれそうな気がした。
「ん?君は誰だい?新入生?」
「あ、はい。1年の神谷柊太といいます。」
僕は自己紹介をする。ヘタに変な対応を取ると怪しまれてしまう。
「へぇ~。俺は3年の神尾 正義ってんだ。『紅蓮の業火』になんか用事でもあんの?」
「は、はい。ちょっと用事が・・・」
嫌なところを突っ込まれた。しかしなんとかはぐらかす。
「ふ~ん、ま、いいや。『紅蓮の業火』の隊舎ならこの道をまっすぐ行って、100M先ぐらいを右に曲がってまっすぐ行けばあるよ」
しかし神尾さんは余計な詮索はしないで、あっさり教えてくれた。この人に聞いて正解だと思った。
「ありがとうございます」
僕はお辞儀をして先を急いだ。
「変わった子だったな」
神尾がそうつぶやくと、神尾の左の空間から木景が出てきた。
「ここにいましたか、神尾さん。」
「木景か?いきなりどうした?」
神尾はまったく動揺しない。というよりも現れてもなんら不思議と思っていないようだ。
「隊長からの頼みです。今すぐ『紅蓮の業火』の隊舎に行って、隊長ならびに新入隊員を助けてあげてください」
「なんか大事だな?」
神尾は神谷の走って行った方を見た。
「柊太君と出会いましたか?なら話は早い、彼を追ってください。」
木景はそれだけ言うと、次の目当て、久野の方に向かおうとする。
「了解した、隊長は?」
「バカ隊長なら先に行きました。なので、バカをしていなければ先についてると思います」
木景の体はもう半分ほど空間の中に入っている。
「・・・あの人はバカだからな~」
神尾と木景は遠くを見た。
「じゃあ行ってくるな」
「頼みましたよ」
神尾はそういうと神谷がいた方に向かって走り出した。木景も久野を探しに行くため空間の中に入って行った。
「ここが、赤火さん率いる『紅蓮の業火』の隊舎か・・・」
『紅蓮の業火』の隊舎は『銃弾の帰る場所』の隊舎よりも一回り大きく、きれかった。
「さて、入り口は・・・!!」
僕はとっさに近くの草むらの中に隠れた。
「なんか今こっちの方で気配がしたような気がするんだが・・・」
「この時間帯にか?この時間帯に今日は入学式やらいろいろあったから隊での練習は禁止されてるし、競技棟での勧誘許可時間はとっくに過ぎてるんだからみんな帰っただろ?」
「そうだな、あとは俺ら見回りぐらいだけだもんな」
『紅蓮の業火』の隊舎の前では2人の見回り役の人たちがいた。もし僕がもう一歩歩いていたら多分見つかってしまうところだった。
「さて、この辺りの見回りも終わったし、次は校舎にでもいくか」
「そうだな、しかしなんで俺らが見回りなんてしないといけないのか」
「そういうな、これもトップに立つ隊の隊員の責務だ」
彼らはそういうと校舎の方に向かって行ってしまった。
「ふう、危なかった。見つかったら面倒なことになるから、なるべく赤火さんに出会うまでは見つからないようにしないと・・・」
僕は、隊舎にあった窓を近くから1つずつ調べてみた。
「やっぱり開いてないかな」
窓はどれもきっちりと施錠されており、開く気配はなかった。
そして入り口の近くまでの窓をすべて調べ終えたが、やはりどれも開いてはいなく、仕方なく扉を開けて、堂々と入ってやると勢い込んだとき。隊舎の扉が勝手に開いた。僕はまたとっさに隠れようとしたが、開けた人間がそれを許さなかった。
「こんなところまで来て何をしている?」
扉を開けたのは、赤火さん本人だった。
「隊舎のまわりをこそこそしよって、一体どういうつもりだ?」
赤火さんは僕を睨んだ。僕はひるんでしまったが、なんとか自分の要件を伝えることができた。
「そ、奏佳の罪をなくしてもらおうと思って頼みに来ました」
「また、その話か・・・。くだらん、一度決まった決定は覆らない。彼女は1か月の学牢、もしくは3か月の謹慎処分だ」
「そこをなんとかお願いします」
僕は目一杯頭を下げる。
「だから無駄だと言っているだろう?それに本人もそれで了承した」
「そんな、それは嘘だ!!奏佳がそんなこと・・・」
僕が最後まで言い切る前に僕の言葉はさえぎられた。赤火さんによってではない。そう・・・
「私がそれで了承したわよ。」
宮野奏佳本人によって・・・
「奏佳!!な、なんでそんなこと了承したんだよ!奏佳は僕を・・・」
「庇っただけ?そうじゃないよ、シュウ。私は私の理由であの人たちと乱闘騒ぎを起こしたの。シュウは関係ない。これは私の自業自得よ」
奏佳はそういうと僕に手を差し伸べてきた。
「もう帰ろう、シュウ。さすがに学牢だとなにもできないから、謹慎3か月の方を選んだから帰れるの。まあ謹慎中でも家で自主練はできるから、別にシュウが心配することないよ」
奏佳は優しく言う。
「じゃ、じゃあ、『法皇の連夜祭』はどうするんだよ!奏佳、中過程の頃から楽しみにしていたよね?今のままじゃあ、見れないんだよ」
僕は必死に食い下がる。
「それはもう仕方ないよ、諦めるしか。大丈夫だよ、来年があるじゃん。来年どっかの隊に入れば見れるよ、今年はもうあきらめて来年に期待するよ」
奏佳はそれだけいうと、僕の手を取り帰り道に向かって歩こうとした。僕もそのあとについていくしかなかった。僕がもう何を言っても無駄だと思った。一番苦しいのは奏佳のはずなのに奏佳は普通でいようとしている。なら、僕にできることはそれに従うだけだ・・・・・そう思った。
バシっ!!
しかし僕は奏佳の手を振り払っていた。
「シュウ?・・・どうしたの?早く帰ろう?」
「なんでだよ、なんでそんな冷静でいられるんだよ!!」
僕は叫んでいた。
「シュウ・・・。シュウが怒ってくれるのはうれしいよ?でももう決まっちゃったものは仕方がないじゃん。それにもう別にいいんだよ?私来年にかけるって決めたんだから」
「いいわけ、・・・いいわけがあるか!!僕はこの学園に入って『法皇の連夜祭』を見るのを楽しみにしていた。隊に入っていろんな人と交流ができることを楽しみにしていた。勇人や奏佳と一緒にミッションを受けて、クリアして喜びを分かち合いたかった。僕はそれを楽しみにしていたんだ!!奏佳はどうなの!?楽しみじゃなかったの!?」
僕は奏佳から一切目を逸らさず、ジッと見据える。
「楽しみに、楽しみにしていたに決まってんでしょ!!」
奏佳は涙を流しなら、そう叫んでいた
「シュウと一緒に中過程の時に話し合った時から、いや、ずっと前から楽しみにしていたわよ!!でも仕方がないじゃないシュウを助けるためとはいえ、勧誘をしていた競技棟で思いっきり乱闘騒ぎを引き起こしちゃったんだから!!・・・どうしようもないのよ」
奏佳はうつむいて静かに涙を流し続ける。
「頼もうよ、赤火さんに」
僕はそんな奏佳に手を差し伸べながらそう言う。
「え?」
奏佳は流れている涙を隠そうともせず、顔を上げて僕をみる。
「二人で赤火さんに頼んで、奏佳の罪を許してもらおうよ。僕も一生懸命お願いするから、奏佳も一緒にお願いしようよ」
奏佳はしばらく考える振りをする。そして考えがまとまったのか、僕と一緒に赤火さんの方を見ると、頭を下げて言った。
「競技棟で乱闘騒ぎを起こした件は申し訳ありませんでした。そして乱闘を起こした身分で言えた話でもありませんが、今回の件を見過ごしてはいただけませんか?私はシュウと一緒にこの1年も、その先もこの学園生活を楽しみたいんです。わがままで自分勝手なのはわかっています。しかしでもお願いします」
「お願いします」
僕も奏佳の横で頭を下げる。そんな僕らを見た赤火さんの反応は・・・
「断る。罪は罪だ、見過ごすわけにはいかない。」
無情なものだった。今自分の前で繰り広げられら会話も、まるでなかったかのように非常にも無情に言い放った。
「それでも、お願いします。どうか奏佳の罪を許してください」
それでも僕は食い下がる。絶対に許してもらうまであきらめるつもりはない。
赤火さんはしばらく黙っていた。しかししばらくするとゆっくり言い始めた。
「・・・ここはミナトの高い者たちが集まる学園だ。そういう者たちが集まる場所には暗黙の掟がある。」
「暗黙の掟?」
はじめて聞く話であり、先ほどまでの会話とまったく結びつかず、僕は混乱した。
「そうだ、暗黙の掟だ。そしてその暗黙の掟とは『正義は力を持って示せ』。いわゆる強い者が正義だ。その女の罪を許してほしければ俺を倒してみろ、2人がかりでも構わん」
赤火さんはそういうと軽く臨戦態勢を取る。
「赤火さんと戦って勝つ?」
「そうだ」
そんなの無理に決まっている。たとえ僕と奏佳のふたりがかりであっても、仮にもあっちは学園最強。指一本触れることさえできず負けるのは目に見えている。・・・・・でも僕は自分のミナトを集中して高め、戦おうとした。
「ほう、来るか?」
赤火さんはまさか本当に向かってくるとは思ってもいなかったみたいで、軽く驚いていた。
「負けるのは目に見えている、でもあきらめたくない!!」
僕がそう叫ぶときには奏佳もすでに槍を構えていた。
「コンパクト型の槍か、懐に隠し持っていたか」
僕には特になにも武器はないが、それでも突っ込む準備はできていた。
「いくよ、シュウ」
奏佳はそういうと赤火さんに向かって一目散にかけて行った。奏佳は自分を風のミナトで強化し、槍を突出し突進攻撃を繰り出した。
「くだらん」
しかしやはり赤火さんの力は僕らより数段も上で赤火さんに届く前に見えない力に弾き飛ばされてしまう。
「はぁああ!!」
しかしそんなことではあきらめない。奏佳が態勢を取り戻す時間稼ぎとして僕は手に水のミナトを宿し、殴りかかる。
でもやはり見えない力にはじかれてしまうが、そのころには奏佳も態勢を取り戻しているため再び槍で攻撃を行う。それもはじかれてしまうが、次は僕も態勢を立て直しているため攻撃を繰り出す。そして僕と奏佳、両方が交互に連続で攻撃を繰り返す循環ができていた。
「シュウ、ちょっと時間稼いで!!」
そのとき奏佳が後ろに飛びのいて、力を溜め始めた。
「わかった、なんとかしてみる」
僕は今まで水のミナトの力を右手だけに宿していた行為を左手にも宿す。しかしそれは今までの2倍のミナトを消費する行為。僕は持てる力を最大限に振り絞って、奏佳が攻撃する時間を稼ぐ。
「何をしたいのかわからんが、もうやめたらどうだ?お前らの力では俺に届きすらしない」
「僕は、僕たちは諦めない。絶対に奏佳の罪をなかったことにしてもらう」
「くだらん。」
赤火さんはそういうと軽く力を込めるそぶりを見せ、衝撃波を放った。赤火さんにとっては軽く出しただけだろうが、僕にとって軽くはないわけで、何の抵抗もできず吹っ飛ばされてしまう。しかし・・・
「シュウ、時間稼ぎご苦労様。」
奏佳が吹っ飛ぶ僕を通り越して、赤火さんに溜めた力を開放すべく、攻撃を仕掛けた。
「宮野流槍技奥義、風流鳳仙」
ドォオオン!!!
赤火さんの周りを暴風が襲う。赤火さんの周辺は砂埃で何も見えなくなっていた。
赤火さんに対して奏佳の風流鳳仙が決まったんだ。
「やった?」
僕は奏佳を見る。
「どんなものよ!!」
奏佳もそんな僕に答えるようにガッツポーズをする。
槍に宿った風のミナトを攻撃と共に一気に開放し、爆風と共に相手に攻撃を仕掛ける奏佳の得意技、風流鳳仙。さすがにこの技を直撃で、なおかつ力を解き放った無防備なところに放たれたら、いくら赤火さんでも・・・
「それでおしまいか?」
無傷だった。何事もなかったかのように、無傷で堂々と立っていた。
「そ、そんな奏佳の本気の一撃を無防備になるタイミングで決めたのに、無傷だなんて・・・」
奏佳も驚きのあまり目を大きく見開いていた。
「もう終わりのようだな、消し飛べ」
赤火さんが右手を払うようにして振った。あれだ、僕が『銃弾の帰る場所』の隊舎で吹っ飛ばされたあの・・・。もうダメなのか、こんなところで終わってしまうのかな・・・
「グランドウォール!!」
そんな声が聞こえたかと思うと、僕と奏佳の前に岩の壁が立ちふさがった。そしてその岩の壁が僕らを赤火さんの攻撃から守ってくれた。
「大丈夫かな?」
僕らの後ろに手を合わせた状態で立っている神尾さんがいた。
更新できました。
今後もよろしくお願いします。