1-8 罪罰
僕はいったいどのくらい眠っていたのだろう?僕が起きた時には外には夕焼けが見えた。
「あ、起きた?おはよ~う」
水瀬さんがにっこりと笑い僕の方を見る。
「僕はいったい・・・」
自分を見てみると、いくつかあった切り傷は処置してあった。
「いや~まさか赤火さんに向かって殴りかかるなんて、とんでもないないね。
やっぱり柊太君はおもしろいや」
水瀬さんはニシシと笑う。
「・・・そうだ、奏佳は!?奏佳はどうなったんですか!?」
そうだった。確かあのとき僕は赤火さんに殴りかかって、でも逆に吹っ飛ばされて気絶したんだった。
「判決なら決まりましたよ。」
木景さんがちょうど奥にあったドアを開けて入ってきた。
「判決は?」
正直聞くのは怖かった。でも聞かないといけなかった
「まず柊太君に対しての判決は、いえ、私たち『銃弾の帰る場所』に下された判決は今年度の新人生に対する勧誘及び入隊の禁止です」
「え?」
僕は自分の耳を疑った。
「もう一度はしんどいので言いたくはないのですが?
ああ、柊太君はこの判決の適用外ですよ。
判決が下るまでに手続きは終わってましたから」
木景さんが得意そうに言う。しかし僕が気にしたのはそこではなかった。
「な、なんで僕ではなく隊の方に罰則が!?」
あの騒ぎを起こした原因が僕にある。なのになんで『銃弾の帰る場所』が罪を背負うことに?
「それは、あなたがこの隊の一員だからです。
知らなかったんですか?
隊に入れば隊員の罪は隊の罪。裁かれるのは隊になります」
木景さんは僕の方をしっかりと見て言った。
「そ、そんな・・・。
僕は、こんなことになるぐらいなら隊をやめておいて僕自身が裁かれるべきだったんだ・・・」
僕は、どうしようもない、やり場のない気持ちに包まれた。
「うぬぼれないでください。」
そんな僕に木景さんは叱咤する。
「あなた一人でこの隊がどうかなるなんて思わないでください。
あなた1人ぐらいの罪でどうかなる隊ならとっくにつぶれてます、こんな隊なんか」
「そ、それは言いすぎじゃない?木景」
水瀬さんは僕を庇おうとする。
「あなたみたいなバカ隊長が隊長の隊がこんなに長く存続できるなんて奇跡みたいなものです。」
木景さんは無情に言い放つ。
「あ、はい。すみません、ちょっと目から汗が出てきたので隅っこ言ってます」
水瀬さんはそういうと部屋の隅っこで足を抱え込んでしまった。・・・本当になんであの人隊長なんだろう?
「それにあなたが問題を起こしてるのを見ているにも関わらず、あなたをこの隊に入れたんですよ?
このくらいの覚悟はできてますし、どうせ勧誘や新入隊員なんてしませんし、入れません。
そもそもこのバカ隊長1人で手一杯です」
「・・・すみませんでした。」
僕は頭を下げる。それ以上の言葉は出てこなかった。
「わかればいいんです。・・・さて本題の宮野奏佳さんの件ですが・・・」
僕はハッとなった。自分が隊に迷惑をかけたことよりも今はそっちの話の方が気になった。
「奏佳はどうなったんですか?」
僕は一度息の飲む。そして聞く覚悟改めて決める。
「奏佳さんは3か月の謹慎処分、または1か月の学牢となりました。」
「そ、そんな・・・」
僕は次の言葉が出なかった。
その結果は僕の斜め上を行くほどひどい者だった。
3か月の謹慎処分、または1か月の学牢だって?
それじゃあ風音は最低1か月の間隊には入れない。
ということは今年の法皇の連夜祭は見れなくなってしまうじゃないか!!
そんな、そんなのってないよ!
「僕、赤火さんのところに行ってきます」
僕はすぐにこの隊舎を出て、赤火さんのところに向かおうとした。
しかしそうはさせてもらえなかった。
空間から現れた鎖に捕らわれていた。
「ダメです。あなたを行かせるわけにはいきません」
木景さんが力ずくで僕を止める。
「お願いします、木景さん。僕を赤火さんのところへ行かせてください。」
僕はそれでも前へ進もうと足を出す。
「何度も言わせないでください。
ダメと言ってるんです。
それにあなたが行っても結果は変わらないでしょう?」
木景さんは鎖で締め付ける力を上げた。
「そうかもしれません。
でも、もしかしたら変えられるかも知れません。
その可能性があるなら僕は諦めたくありません!!」
僕は自分の持つ水のミナトを使おうとした。しかし水のミナトは使えないどころか、使える気すらしなかった。
「無駄です。僕のこの『無情の鎖』は捕らえた相手のミナトを使えなくします。
だからあなたが水のミナトを使おうとしても使えませんし、それにたとえ使えてもあなたごときにこの 鎖は切れません」
ミナトを無力化させる鎖に高度な空間制御。
そうか、だから『闘牛の突撃』の人たちはミナトを使えないって叫んでいたのか・・・。
木景さんはやはり相当な実力者なようだ。
僕が逆立ちしても絶対に勝てない、逆らえない。
でも僕はあきらめない、いや諦めたくない。
「自分の正しいと思う行動をひたすら行えればよい結果が得られるかもね」
隅っこで丸くなっていた水瀬さんがこっちを向いてニコッと笑った。
僕の中で水瀬さんの言った言葉がはじけた気がした。
頭の中で何回も響いてくる。
正しいと思う行動、それを続ければ・・・。
諦めずに、僕が正しいと思う行動を!!
そのとき僕の中から何か不思議なものが浮き出てくるような感じがした。
それは僕の心臓、いや心の底の底から。ミナトが溢れてくる感覚に包まれる。
そのミナトを、その力を本当に僕なんかが使っていいのか?
僕は少し迷う。しかしすぐに迷いは断ち切れた。
僕はそれを必死に手繰り寄せよせる。
これがあれば、この鎖を断ち切ることができるかもしれない。
この鎖を断ち切り、奏佳の元へとむかっていけるかもしれない。
「ぼ・く・は・行くんだ!!!」
一瞬視界が真っ白になる。僕は前に進むことができた。
僕を縛っていた鎖はもうなかった。
僕はそのまま止まらず、まっすぐ走った。
水瀬さんと木景さんが追ってこないことを祈りながら。
「水瀬、見ましたか?」
木景は柊太の出て行った方を見て驚きを交えた声で言った。
「ああ」
いつの間にか隅っこにいた水瀬は木景の隣にいた。
「あの子、右目の色が一瞬蒼く光ましたね」
「ああ」
水瀬も神妙な顔をしてうなずく。
「もしかしたらとんでもない子を引き入れてしまったのでは?」
木景は水瀬の方は向かず、柊太が出て行った方だけを見ている。
「・・・さあな。とりあえず俺は後を追うから、木景はいろいろと頼むわ。
あと久野はまだ学園内にいると思うから呼んどいて。
あとアイツもミッションの達成報告が今日のはずだから探して呼んどいて。
他のやつらはミッション行ってて、たぶんまだ帰ってこれないと思うからいいや。」
水瀬は木景にそう伝える。
「・・・それは、隊長命令ということですか?」
木景は水瀬のことをじっと見る。
「俺が強制させる命令したことあったけ?
嫌なら、それでいいから。オレ一人でもなんとかできるだろうし」
水瀬はそう言う。木景は無言で右手を振りかぶる。そしてそのまま水瀬の頭をすぱーんと殴る。
「・・・了解しました。じゃあ先に行っといてください、バカ隊長」
水瀬は頭を押さえながら木景を見ると笑って言った。
「ああ、行ってくる」
水瀬はそういうと、隊舎を出た。残った木景はぼそっとつぶやく。
「僕たちがあなたに本気で頼まれて拒否するはずないでしょう。
・・・しかしあの柊太という子もしかしたら、水瀬と同じ、いや同じはずはないか。
しかし同じ系列に属する力を持っていそうですね。
そうでなければ僕の『無情の鎖』は切れませんから。
ただそれを自らの意思で使えない。
またはそのような力を自覚してないみたいですね。まだ救われる余地はあるということですか・・・」
そういって木景は隣に空間の穴を空け、そこに入った。
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