<1>~すべての人物が集結する。誰かが仕組んだことなのか。~ (5)
ブンッと“月”のパンチは。
空を切った。
「???」
“月”が訳のわからないような顔をする。
何故なら、今まで引き寄せられていた高原が急に目の前から消えたからで。
「全員の死角、盲点」
その声は全員が見ていなかったエレベーターの陰から聞こえた。
「それを観察して、ただ立っていただけ。それだけで消える事だって出来る」
そこから現れたのは先ほど消えたと思われていた高原だった。
「どういうこと!? さっきまで私が引き寄せていたはず!! あなたの才能は“観測者”ってやつじゃないの!? 今のは“瞬間移動”!?」
“月”が高原の訳の分からない行動を聞く。
「皆さん、“月”という女性の弱点を発見したので、私がGOと言ったら階段まで走ってください」
高原は“月”を無視して六人に言う。
「おいおい、お前だけ見捨てけってか!?」
太陽が叫ぶ。
基本こういうことは嫌なタイプなのだ。
「いいんです! では、行きます。合図したらお願いします!」
「おい!?」
太陽の制止も無視し、高原はまた“月”に走っていく。
「いいから。あの男を信じなさい。相当凄い男よ、彼は」
「随分と買ってるじゃねぇか。祈。お前にしては珍しいな」
太陽を祈が抑えた。
「もうっ!! 私の話を聞かない男なんて今度こそ倒してあげるんだから!!」
“月”に向かっていった高原にまた手を向けると、グッと引き寄せられる力が高原に掛けられた。
「じゃ、GOで」
高原は“月”に引き寄せられながらも平気な顔をして言った。
「行きましょう」
「おい、マジで行くのかよ。祈」
「大丈夫だよ太陽さん。あの高原衣、生徒会長だから」
「それは理由になるのか……」
「衣……」
「あの少年、何か普通じゃないな」
六者六様。
ちなみに上から祈、太陽、叶、廻家、姫岸、桜だ。
そして六人はなんだかんだで階段へと向かって走り出した。
「“月”ちゃんの弱点はこれだよね」
本当に小さい子の相手をするような高原の声が、“月”の後ろから聞こえた。
「えっ!?」
前で引き寄せている高原がいるにも関わらず“月”は振り返る。
その瞬間、体の体重が無くなった。
ジェットコースターで味わうような、あの無重力感。
何故か後ろにいた高原に“月”は腰をがっしりと掴まれてヒョイと横に放り投げられてしまった。
「やっぱり背丈と同じで軽いのなー」
放り投げられた“月”は先ほどまでいた方を見ると、高原が二人居た。
「双……子……?」
「驚いたな、いきなり後ろからもう一人目が現れるとは」
「だから言ったでしょ太陽。彼は強い。ただ弱いとすれば、ナチュラルジゴロなところかしら」
「そーそー。太陽さんみたいな」
「お前、そういうタイプなのか?」
「ふぅ……、この親にしてこの子ありか」
今度は五人。祈、太陽、叶、廻家、桜だ。
「まったく、あの馬鹿。これ以上女子を落として何がしたいのかしら」
「痛い!」
階段まで走っていた姫岸は途中で止まり、バコンと高原の頭を叩いた。
「姫ちゃん!! 早く降りてって!」
「衣、アンタにあの子が泣かされないように私が見張っておくことにするわ」
「俺は姫ちゃん一筋だって」
「……!! も、もう!! このロリコン!!」
「赤い顔ですごい罵倒された!?」
姫岸は高原の言葉で真っ赤になりながら、照れ隠しで罵倒しているだけというのに高原は気づかない。
いや、本当は気づいているのだろうか。
「あっ……、通しちゃった……」
“月”が呟いた。
「これじゃあ、“創造主”に怒られちゃうね」
“月”はゆっくりと立ち上がる。
「せめて、あなた達だけは本気で倒させてもらうから」
“月”はこちらを睨んだ。




