<4>~“都市”、乱れに乱れり。~ (4)
10:13、間之崎学園玄関前。
「さて、理事長先生。もうおしまいか?」
桜島が勝ち誇ったように言う。
その目の前には、体中を傷だらけにして倒れている理事長こと富士祈がいた。
「私は、負けるわけにはいけないの!!」
鬼気迫るような顔で、ふらふらしながらも立ち上がろうとする。
が、やはり力を入れきれずにどさりと地面に倒れる。
「何でそんなに頑ななのかねえ。とりあえず、手錠を掛けさせてもらうか」
桜島が倒れている祈に近づく。
私は、守れないと言うの?
あの人の、息子を。
確かに、他の人から見たら可笑しいかもね。
有り得ないか。
好きになった男の息子を、しかも自分のでも無いのに。
でも。
「まだ、負けてないんだから!」
這ってでも桜島から逃げる祈。
「何があなたをそうさせるのか……。まったく、美しい顔が台無しだ。俺はそんな執念深い女は微妙なんだがっと」
這う速度なんてもちろんたかが知れているもので、桜島はそんな祈の前に立った。
祈は手を庇うような姿勢を見せるも、何かの力で空中へと宙ぶらりんにさせられ、手錠を掛けた。
「さて、仲間の話だと帰ってきてない奴らが居るんだったな。まだ捕まってないのは……。あの生徒会長か。一番面倒くさそうだが、何とかなるな。探しにでも行くか……、何だありゃ?」
桜島は間之崎の校舎の方に戻ろうとして、轟っという音が後ろからしたので振り返った。
そこには、人を一人おんぶし足から炎を出している男が空に浮いていて、その男は見事に着地した。
「舞人……、桜島舞人か……」
炎を出しながら降りてきた男が桜島の名前を出した。
「おぉ。これはこれは焔先生。久しぶりですね」
桜島はその男、焔と面識があるようだ。
「お前、その服……。黒服共の仲間になってるのか……?」
「あれ、言ってませんでしたっけ? いやいや、先生の教えのおかげで、黒服でも幹部に。アンタよりもずっとずっと強くなったんだぜ?」
途中からだんだん口調が変わっていく桜島。
「若造が。抜かすな!!」
そう焔は言い、右手を前に突き出した。
そこから炎が噴出する。
「俺の才能、忘れたわけじゃないですよね」
桜島はそれを無防備に見ている。
炎が桜島に迫る!!
が、桜島はまる焦げにはならなかった。
噴出した炎は桜島を避けるように進んでいた。
それはまるで桜島の目の前に透明な球体のボールがあるように。
「“極めれリ念”……、いやアンタの才能をもじる必要もないな。“超・念能力”。この才能、勝てるか?」
「負ける気はしない」
焔はその場から足に炎を噴出させ飛び出した。
桜島も自らの才能、超・念能力を使って飛び出した。
その最中。
太陽と祈は、お互いの顔を見て驚いていた。
「お前……、祈じゃねぇか……」
「太陽!? 何でこんなところに!?」
太陽と祈もどうやら知り合いのようだ。
「ところで祈、大丈夫か!!」
「見た目よりはそうでもないわ。とにかく、この手錠を外してくれないかしら?」
太陽は傷だらけの祈に心配したが、どうやらそうでも無いようだ。
焔にしたように太陽は大剣でバギンと手錠を切って外す。
「向こうに居る叶も助けてあげて」
そう祈が指差した方を見ると、叶の姿が。
叶も大剣で手錠を外すと、こっちに連れてきた。
「これで何とかなったわね」
祈は手首の辺りを見ながらさすっている。
「ありがとう、太陽!!」
叶は元気にこっちに笑顔を振りまいた。
「どうしてお前がここに……?」
太陽は祈と叶が何故ここにいるのか分からなかった。
「それは別にいいでしょ。それより太陽、あなたが何でここに居るの? ここは都市よ。才能が無ければ入るのが難しいのよ?」
「いやいや、俺の息子がここに居るはずなんだ」
太陽がきょろきょろと周りを見た。
「そういえば、私が戦ってるときにはもう居なかったわね。確か桜島はそこの木の下に置いていたはず……、ってあれ!? そこにあったトラックが居なくなってる!?」
「ちょっと前にここを出てたよそのトラック!!」
祈と叶がそれぞれ怪しいトラックを確認していたようだ。
「それさっき見た! こんな状況でトラックなんておかしいとは思ってたが……。その中に夢斗が居たわけか……」
どうやらすれ違いに近いものになったらしい。
そのトラックに追い着こうにも足が無い。
焔は目の前で桜島とバトルを始めてしまったのだ。
「そうよ! あの男、桜島と戦ってはいけないわ!! 赤井夢斗、あなたの息子の力で封じないと、あの才能は危険すぎるの!!」
「そうなの!! 赤井君の才能が必要なの!!」
焔が戦いを始めたのを見ていると、必死な形相で祈と叶がこっちに話しかけてきた。
「だが、見た感じ焔は強いぜ?」
「そんなの関係ない!! あの男はそういう次元の上に居るの!! 赤井を早く取り戻さないと……」
祈がここまで叫んでいる。
これは本腰を入れないといけないほどの相手なのだろう。
「ならトラックを追いかけて見るか」
「でも、もう見えないわよ」
祈が門の向こうを見るが、もうそこには平坦な道しか見えなかった。
念能力についての説明。
念能力とは手を触れずに物体に力を及ぼす能力です。
説明できなかったので念のため。
念能力だけに。




