<3>~“都市”、いたるところで戦闘開始。~ (8)
9:58、間之崎学園から北に500mの地点。桜side。
「さっさと片付けさせてもらうかいのぉ」
大男は桜に向かってそういった。
「そう易々と言うなっての」
桜はその言葉にちょっとムッとした。
先に動いたのは大男だった。
その丸太のような太い腕で殴りかかってきた。
技術など無い純粋な力による一振り。
その先端、拳は前に殺した者の返り血が付いていた。
桜はそれを難なく左に一歩すっと進んで避けると、そのままがら空きになっている腹に右ストレートを叩き込んだ。
ガンッ!と音が鳴った。まるでとても堅いものを叩いたような。
桜が殴った後バックステップですぐに三歩下がる。
そして殴った拳の方を見る。
「……、才能か?」
その拳は赤くなっていっていた。
「ガッハッハ!! おぬしは今ダイアモンドを直接殴ったようなもんじゃからのう! もうその右は使えまい!」
大男は快活に笑った。
「どういう意味だ? ダイアモンドってのは」
桜は意味が分からず問いかける。
「わしの才能は“肉体硬化”。その名の通り、身体がダイアモンドのように堅くなる才能じゃあ! もちろん、柔軟性を残したままな! 銃弾ですらわしの身体には傷一つ付けられんじゃろう!」
“肉体硬化”。
USBの中に入っていたデータからすると、こいつが“yesterday”なのだろう。
「確かに、おかしいとは思ってたのさ。どうして拳に返り血が付いていたのかだ。アンタみたいな体格だ。バンテージをつけて人を殴らないと自分の拳の方もいかれちまうはずなのに、アンタはバンテージを取り出すことも無くそのまま俺との戦闘に入ったからな」
かなりの激痛が右の拳から走っているはずなのに、なんともなしに桜は言う。
「ここでアンタの伝説も終わりじゃのう。紅桜。“風”を倒したとか聞いたから期待しておったのに」
さも残念そうに言う“yesterday”。
「まだ俺は五体満足だっての。終わってないぜ?」
あくまでも傷などおっていないかのように桜は挑発する。
「あれだけの威力のパンチじゃ。骨が折れておってもおかしくない筈じゃのに。そこまでお望みなら、砕け散ると良いのぉ!!」
“yesterday”はその大柄な身体とは裏腹に俊敏に動くと、桜の前まで一瞬で詰め寄ると。
そのままタックルした。
かなり“yesterday”は大柄なので避けられなかったのだろうか。
桜は思い切り正面で受けてしまった。
トラックに跳ねられた人のように桜が宙を舞い、3m程吹っ飛んだ。
そのままごろごろと転がり、止まる。
桜はピクリとも動かなかった。
「おやおや、死んでしもうたかいのぉ。“創造主”には生かして連れて来いと言われとったんじゃが……。でも、こんなところで死ぬ男ならこの先もいらんかいな」
それでも“yesterday”は念のためと一応近づく。
ガンッ! と、“yesterday”の顔面に両足蹴りが炸裂した。
「まだ、終わって無い」
桜はところどころから血を流していたが、生きていた。
「そうこなくてはのぉ!!」
“yesterday”は凄く喜んだ顔をした。