<3>~“都市”、いたるところで戦闘開始。~ (7)
9:31、廃ビル外、東に1kmの地点。巡家side。
「はさみこまれちまったな」
廻家が言葉とは裏腹にまったく恐れていないようだった。
「もう敗北は許されん、許されんのだ!!」
“風”は切羽詰ったような感じで声を上げる。
「ごめんなさい。ちくっとするかもです!」
まるでこれから注射をするかのように“DBY”は言う。
仕掛けたのは、“風”だった。
「ふんっ!」
才能、“滅亡の右手”による一突き。
それを左回転して距離を半歩分ほど下げ間合いを外すと、その回転のまま裏拳を叩き込む。
“風”はその裏拳を左腕でガードする。
廻家はそのまま回転して後ろに回る。
“風”も後ろを向く。
「“巡る輪廻”、まったく厄介な才能だな。無条件で回転をかけられては、間合いを外されてしまう」
「だろ?」
廻家はそのまま地面に手をつける。
「こんなことも出来ちゃうんだな!!」
すると、道路のコンクリートと土がめくれ上がり“風”に向かって吹き飛んだ。
「なっ!?」
“風”は多少動揺するが、すぐに持ち直し難なく避ける。
だが、避けた先にあったのは廻家の拳だった。
「あーらよっと!!」
身体全体で回転するようにして打たれたパンチは“風”にヒットし、“DBY”が待機している後ろの方まで吹っ飛んだ。
「……回転の力でコンクリートと土を巻き上げ、拳には威力を増させることが出来る……。強いな」
“風”は不意打ちのような攻撃でさえ耐え切って見せた。
「当たり前だろ? 俺は“創造主”と同期なんだから」
「そういや、そんなことも……。いやいい。“DBY”、準備は?」
「室内じゃないからまだ時間がかかりそうなんですごめんなさい!!」
“DBY”は本当に申し訳なさそうに腰を曲げて謝る。
「別にいい。なら、俺もこの才能に慣れないといけないな。」
触れた物体をすべて回転させる?
上等だ。
俺は触れた物体をすべて腐らせてきたんだからな!!
また“風”の猛攻が始まった。
それを右へ左へ回転しながら飄々(ひょうひょう)と、時には紙一重で避ける。
まったく動く予兆の無い回転。
どちらに回転するか分からない。
それが“巡る輪廻”の強みだ。
「反撃させてもらうぜ?」
そしてノーモーションで右足をいきなり蹴り上げる。
“風”はそれをぎりぎりで気づき、上体を反らして何とか避ける。
“風”の顔の前には靴が見える。
その靴のかかと辺りには球体の何かが入っていた。
大方それで回ったりなどのスムーズな動きを行っているのだろう。
その靴が近づいてきた。
「!?」
そのまま“風”の顔面に当たり、威力はそれほど無かったもののバランスを崩して倒れる。
それは残していた左足のボールを回転させ前に突っ込んできただけだが、普通の人間にはもちろんそんなことは出来ない。
廻家はまた右足を高く上げると、“風”目掛けて振り下ろした。
倒れこんだ“風”目掛けて踵落としが炸裂……
とはいかなかった。
廻家の踵落としは“風”の身体の15㎝上ほどで止まっていた。
「間に合いましたよ、“風”さん!!」
“DBY”が嬉しそうに声を上げる。
「……、ぎりぎり、ってところか。お前に助けられるとはな」
流石の“風”もこの状況には冷や汗を流していた。
「これは……、さっきのやつか……」
廻家の振り下ろした右足の下に、よく見るとキラリと光る糸のようなものがある。
それに止められたのだ。
思い切り振り下ろしたので、足を少し切ったようで、血を流している。
「“有私鉄尖”、発動です」
廻家の周りにもキラリと光る糸が無数に乱雑な方向から出ていた。
その糸のせいで廻家は動けない。
「鉄の糸……? “発鉄能力”か?」
「僕はそんなものじゃない。“操鉄能力”だ!」
“DBY”が珍しく強気で言う。
「危なかった。やはりこちらに“DBY”をおいて正解だったな」
いつの間にか地面から立ち上がっていた“風”がこちらを向く。
「王手だ」
そして動けない廻家は、手錠を掛けられた。