<3>~“都市”、いたるところで戦闘開始。~ (3)
ギィィィン!!
そんな音が鳴り響いた。
「切れない……?」
黒服がそう呟いた。
藤崎の服が斜めに引き裂かれてはいたものの、身体自体には別段傷は無かった。
「“硬化”、ぎりぎり成功かよ。危ない危ない」
「そうか。服の方を硬化したのか」
そう、藤崎の服を硬化させることで鎧の様な役割をさせ刃から守ったのだ。
「とはいえとっさのことで硬化の能力が薄めになっちまったがな。普通にやってればそれくらいの刃では斬られなかった」
「そうかよ。だが、お前の武器は燃やしたぜ?」
「俺の才能はまだまだこんなところで終わらないってことだ。全力を出させてもらう。天音!!」
藤崎が天音の名前を叫ぶと一旦二人とも後ろに下がった。
「電気頼む!!」
「うん!!」
二つ返事で藤崎の言葉に答えると、天音が指を突き出しそれに藤崎が手を合わせた。
「“指電改”!!」「能力付与、“斬化”、“強化”!!」
そうして電気が放たれた。
その電気は先程よりも大きく、強大で。
黒服を引き裂いた。
「かはっ! 電気で人が切れるなんて聞いてないぜ……?」
黒服は体中を切り傷で血まみれにしながらも立っていた。
「俺の“斬化”は物体に切れ味を持たせる。“強化”はその物体のポテンシャルの上昇。そんな攻撃を受けても、やっぱり立ってやがったか……。ジークフリート(笑)さんよぉ」
「さりげに馬鹿にしやがったな!?」
「驚き……」
漫才のような会話のやり取りの後。
「ったく、これ以上俺の才能をバラす訳には行かないよな。皆殺しにするならともかく、片方には絶望を与えたいし。赤井の仲間だったことを後悔しとけ」
「何言ってやがんだ?」
急に黒服がまたも不思議なことを言い出した。
「俺はその“値上昇”を支配したいから、とりあえず、いらない方は死んどけ」
黒服がそう言うと、一瞬で藤崎の隣にいた天音に詰め寄った。
それこそ瞬間移動のように。
「お前にはデッドエンドを与えてやる」
黒服はキラリと手刀を光らせた。
そしてそのまま斜めに振り下ろそうとしていた。
「……!?」
天音は驚いて動けないでいる。
死ぬ。
天音が、死ぬ……?
「危ねぇっ!! 天音ぇ!!」
気がつくと俺は、天音を突き飛ばしていた。
ズバッ。
そんな陳腐な音で。
「……えっ……?」
天音は目の前で起きたことが未だに信じられない。
藤崎が、斬られた。
左の肩口から右の腰辺りまでザックリと。
藤崎がよろめく。
そしてドサリと倒れこんだ。
倒れこんだ藤崎から血がどんどん同心円状に広がってきている。
「藤崎ぃぃぃいいぃいぃぃぃいぃぃいいぃぃ!!!!」
絶叫。
「ああぁぁっぁぁあああぁぁっぁぁああっぁぁあっああっぁっぁぁぁぁぁあああああああああぁっぁ!!!」
狂ったとも言うほどの乱れ具合だった。
「まったく……。俺はお前の方を殺すつもりは無かったのによ。まあ、そこまで絶望に心震わせてくれているのなら俺としても嬉しい限りだな」
黒服は静かに倒れこんでいる藤崎を見、絶叫している天音を見る。
「……良かった……。お前はさっさとここから逃げろ……」
「あああぁっぁっぁあああぁ、藤崎!?」
藤崎のかすれた声を聞いて、天音の叫びが一旦止まる。
「どうしてそんな真似したの!?」
「別に良いってことよ……。お前に生きていて欲しかっただけだ……」
「ふざけないでよ!!」
「た、確かにな……。お前の秘密を知ってる奴も、これで居なくなっちまう訳か……」
「やめて!! いなくなるとか言わないでよ!!」
藤崎の顔がどんどん生気を失っているのがわかった。
「やべぇ……。視界が重い……、暗くなって、来やがっ……」
そこで声が終わった。
「いやあぁぁっぁあああぁっぁぁあぁっぁああっぁぁぁあっぁああっぁあぁっぁぁ!!!!!」
天音はまるで女子のような声を上げて叫んだ。
藤崎が……、
死んだってことなの……?
「うわあぁぁあっぁああっぁああぁっぁぁっぁぁぁあっぁああぁっぁああぁ!!!」