<1>~“都市”、いたるところで異常発生。~ (5)
5月1日月曜日、9:20 黒峰学園体育教官室。
「なんか胸騒ぎがする」
そこには紅桜がいた。
今は体育の授業も無く体育教官室でコーヒーを飲んでいた。
「どう胸騒ぎがするんですか?」
桜の独り言に答える声が。
教官室の戸をカラカラと開け、一人の女性が入ってきた。
彼女は国語科の梶原先生。
今年四月に入ってきた新任の先生のようで、髪は腰までかかる黒い髪を一つに束ねていた。
目は二重で濁りは無く、服装は黒いレディーススーツだった。
「ん、梶原先生。いやいや、虫の知らせってやつですよ」
「虫の知らせですか……」
梶原先生は呟いた。
「当たってますね。」
梶原先生は桜に向かって言うと、カチャリと桜の後ろで音がした。
撃鉄を鳴らす音だった。
「どういうことですか?」
「振り向かないで! 撃つわよ」
振り向こうとした桜を制する。
大体想像は出来た。
後頭部に拳銃が押し付けられている。
「いやいや、あなたが拳銃をつきつけてきたのはもうどうでもいい問題なんです」
過ぎたことはもう言わない。
過去は帰ってこないから過去なのだ。
「……? 何が言いたいの……?」
頭に?を浮かべている。
「どうして俺があなたが拳銃を抜いて撃鉄を起こして後頭部につきつけるまでのこのことに気がつかなかったのかってことです」
「は……?あなた何を言っているの?」
まぁ、常人にはそう取られるさ。
だが、俺は俺に自信がある。
自分のことは自分しか分からないというのなら、俺がこんなことに気がつかないはずがない。
まるで俺が入ってきた梶原先生に注意するなとでも思わされていた、いや惑わされているかのような……。
「自意識過剰にも程ってものがあるんじゃない?」
「確かに……、そう思われても仕方が無いな。だが、俺は気づけたはずだ」
「じゃあ、どうしてあなたは気づけなかったのかしら?」
そりゃ当然の質問だ。
ここで考えて欲しい。
別に考えなくてもすぐ分かるか。
ここはどこだ?
「才能……。人の注意を逸らすとか、そういう感じの才能があるんじゃないですか?」
「……、面白い話だけれど、そんなものを使える人がここにいるのかしら?」
「こんなことが出来たのは一人しかいません。それはあなただ!!」
でーん。
確実にそんな音がしたのだろう。
「し、証拠はあるの!?」
「それは、あなたまだ持っているんじゃないですか? その上着の左ポケットに!!」
「なっ!! …………、ってもうこの茶番いいかしら?」
「そうだな、随分と梶原先生がノリのいい人ってのは分かった」
なかなかここまでボケ通せる人もいないよね。
しかも俺の後頭部に銃つきつけながら。
「そうね、確かにあなたの注意とかを逸らしたのは私の才能よ。でも、だから何?」
「だからねぇ……。ところで、アンタは普通の梶原先生って言うんじゃないのなら一体誰で、俺に何の用なんだよ」
まだ、俺が狙われる理由はわからない。
だが、誰が狙ったのかは分かる。
「そうね、あなたも知っていると思うけれど、私は“統一された幸福な世界”の“恋”って名乗らせてもらっているわね」
「コードネームってやつか。幹部クラスで間違いないか?」
「“創造主”様の側近が幹部というのなら」
そりゃ幹部だよ。
さて、どうやって逃げ出したもんか。
「どうやっても逃げ出せないと思うけど?」
「……。そういう人の心を読んだりするのがアンタの才能ってわけか」
それは非常に逃げづらいな。
“統一された幸福な世界”ってやつにも戦闘専門以外のやつがいるってことか。
もしここまでが“創造主”の配牌なら凄いな。
俺には肉弾戦で挑むよりも心理戦でってことかよ。
しかも俺は心とか読めないから心理戦もクソもないし、ましてや女を倒す趣味など無い。
何この防具と武器持たずにリオレウス狩りにいった感じ。
しかも自分で自分を裏切っているような考えをいつも持ちながら。
蹴りだけで勝てってか?
本当に嫌なことだが、“創造主”ってやつの配牌だな。頭の良さがやばいっつってたし。
「私の才能は別に心を読むだけって訳じゃないわよ。さしずめこれは才能を使っていると自然に起こるものに近いだけだし。後残念だけれどこれは“創造主”の配牌よ」
きっちり心まで読みやがって。
「じゃ、諦めて手錠をかけられてもらおうかしら」
「手錠?」
流石にそういう束縛が趣味の女はちょっと……。
「勝手にマジ引きしないでよ!!」
あ、心読まれるんだった。
「これは“創造主”の命令よ。作戦名『ハッピーエンド』。今頃教室では生徒達が拘束されているわ」
「警察は何をしているんだ?」
「もう大体拘束済みね。夜中のうちに」
随分と計算された作戦だこと。
さて、逃げるか。
「あなた何を言っているの? いや思っているの?」
俺の心を読んで驚いている“恋”。
そしてさらに驚愕した顔をする。
「そんなこと、出来るはずが……」
「俺は出来る」
心を読まれるのならもう良いか。
動くぞ。
そう思い、座っていたローラー付きの椅子を後ろに押し出して“恋”に当てる。
きっとこれは想像できていたことだろうが、反応できなかったのには理由があるだろう。
それはきっと俺の次の行動に起因するんだろうな。
桜は何のためらいも無く。
窓ガラスを割って窓から飛び出した。
「ここは4階よ!?」
そんなことは分かってるさ。
2階とかなら飛び出しても死なないだろうが、ここは本気で死ぬ高さだしな。
もちろん俺も考えなしで飛んだわけじゃない。
壁にかかとを擦らせつつ落ちて速度を下げながら、自転車置き場(下にあった)のトタンにドスンと落ちる。
これは力技だ。
身体の丈夫さにかこつけた理論もクソもない。
バターンとトタンを破りそうな勢い(実際そこはかなりくぼんだ)だったわけだが、
見事に着地した。




