<3>~一般人にして他称世界最強が動き、“創造主”を驚かす。~ (4)
「ちっ!!」
“風”は一気に立ち上がり、桜から距離をとった。
今の目に、心底ゾクッッとした。
深い闇のような黒目。
吸い込まれそうな目。
「しょうがない。こいつを使わなければならないか……」
そういうと、“風”は燕尾服を脱いでワイシャツになった。
そしてワイシャツの袖の右側だけを捲り上げた。
そのとき桜があることに気がついた。
「……、お前なんでそんな長い手袋してんだ?」
“風”の両腕に白く長い手袋がしてあった。
それは二の腕についてる薄いわっかのようなものまで続いていた。
というか、そのわっかでずれるのを防いでいるんだろうか。
日焼け止め……っていうか男だよね。
「ああ、すぐにわかることになる」
そういうと“風”は口で右腕からその手袋を咥えて取った。
そしてそれを左手で取ってポケットに入れた。
「ん、お前黒人……、じゃないよな?」
桜がいきなりとんちんかんなことを言い出した。
だがそれもこの状況を見れば納得していただけるだろう。
茶褐色。
右腕だけが茶褐色になっていた。
「これが俺の才能、“滅亡の右手”だ。もうお前に隠す必要もないだろう。この白い手袋はこの才能を封じるためにある」
「“滅亡の右手”? なんじゃそりゃ」
素直に聞き返す桜。
「助言などやらん。一撃で決める」
すると“風”が今度は無謀ともいえる突進をしてきた。
そして隙ありありのまま右手を突きだしてきた。
まずい。
この手はなんかやばい。
そう思った桜は、右におもっきり飛んだ。
横っ飛びー!
幸い何も起きなかったが、警戒は解かない。
なんせあれは才能が宿っているらしい。
今まで人が何十年何百年も掛けて確立させてきた法則をぶち破るのが才能だ。
それならば過剰な反応こそ通常な反応だろう。
「おやおや、俺の才能が何か知ってんのかよ。まあ、その反応は正解だと思うけどな」
“風”は口調がだんだん落ち着いてきていた。
桜の人並みに過剰な反応に相手は無才能で普通の人間だと思い出したのだろう。
「もしかしたらその腕が一撃必殺の威力を秘めてるかも知れねーんでな」
そうは言いながらもファイティングポーズをとる桜。
「そうか、なら死んでもらうぞ」
そう言って“風”はゆっくりと間合いを詰めていく。
そして互いの距離が2メートル程になったところで構えた。
不思議な構えだった。
右手を身体の前に押し出すように手刀で出し、左手は脇辺りに置いていた。
まるで右手を完全に見捨てているようかの構えだった。
いやむしろ右手に触れさせるような構えだった。
「怖いな、その構え」
そう桜が呟いた直後。
“風”が動いた。
出していた右腕を突き出した。
ただし今度は非常に速い突きだった。
まるでフェンシングのように。
桜はそれを上手くかわす。
が、
“風”はそれだけでは終わらなかった。
それをひたすら連射した。
突き、突き、突き、突き、突き、突き――――――
手刀で行われるその突きは、まさしく剣で突き刺しに行こうとしているかのようだった。
まさしくフェンシング。
桜はそれを紙一重でかわし続ける。
今のこの状況もマト○ックスの銃弾を避けるエージェントス○スの名シーンのようだった。
むしろバイオハザードのウェ○カー避けかも知れない。
ふむ。
これは触れることで発動する感じの才能か。
この突きの雨を見事に避けながら桜はそんな暢気なことを考えていた。
そして防戦一方に見えた状態から、行動した。
「十撃よ」
そう桜は言い――――――――――――、
そして見事に反撃を開始した。
「破っ! 破っ! 破っ! 破っ! 破っ! 破っ! 破っ! 破っ! 破っ!」
連射される突きの一瞬の隙(一般人には隙に見えない隙)を見て、鋭い十連撃を繰り出した。
右脇腹、左脇腹、左肩、右肩、顎、右肩、左肩、右脇腹、左脇腹と打ち放つ。
「かっ、くっ、あっ、なっ、あっ、ううっ、がっ、いいっ、やっ、くっ」
“風”の口から声が漏れる。
そして“風”はその連撃で後ろへ押しやられよろめいた。
「十破に、―破竹っ!!―」
桜はそういうと、足から腰、腰から肩、肩から腕へと力の移動が傍から見てもわかるような滑らかで美しいフォームで、右ストレートを打ち出した。
ブンッ! と風の音がするほどのストレートだった。
“風”はよろめいてはいたが流石にこの一撃はまずいと思い、両腕で必死にガードした。
「そぉい!!」
またもブンッと音がして、“風”の目の前でその殺人的なストレートが止まった。
「そういやその右腕はなんかよく分からんけど触れちゃいけなかったんだよな、危ない危ない」
その止め方は腕が外れかねないような感じ。
なんとも暴力的な止め方だった。
桜は才能があるのであろう右腕が防御に回されているのを見て、咄嗟にストレートを止めたのだ。
「……、はぁ、ぐっ……」
流石に今までのダメージが効いているのか、“風”が片膝をついた。
先ほどのストレートを守ろうとした腕は、ほぼ無意識かのものだったらしい。
目がうつろになっている。
「さて、どうしたもんか。アンタ、ひとつ俺の願いを聞いてくれないか?」
桜はまだまだ暢気なものだった。
「なん……、だよ……」
どうやら意識は持っているようだった。
「俺を“都市”に連れてってくれよ。それくらい出来るだろ?」
それが、桜の願いだった。




