<1>~赤井夢斗は女の子に出会い、才能を行使する。~ (2)
「あ、アンタ、何言ってんのよ、ば、バッカじゃないの!!」
今度はこっちに振り返ってきた。
首の骨大丈夫か? と、心配したくなるほどの振り返りだった。
そして、目に見えてその女の子は動揺している。
まぁ、いきなり知らない男に「手伝ってやる」なんて言われたら普通引くよな。
「追われてて、逃げてるんだろ?助けてやるって言ってんだ」
「ふざけないで!!」
明らかに女の子は怒っていた。
「なんだよ、いきなりあった奴と痴話喧嘩かぁ?じゃじゃ馬姫様よぉ」
向こうから嫌な声が聞こえてきた。
まるで何もかもを馬鹿にしているような感覚。
初対面の奴にこんな事考えるのもなんだが、こいつ嫌な奴なんだろうな。
「ほら、アンタが馬鹿なこと言ってる間に追いつかれちゃったじゃない!!」
その女の子の顔が一気に変わり、すごい勢いで立ち上がった。
「白道さん、じゃじゃ馬ってのも古いです」
「そうなのか?最近の流行ってのはよく分からんなぁ」
嫌な声の男は白道と言うらしい。
女の子を追ってきた二人組は、全身真っ黒いスーツを着ていた。
黒服、という呼び方がふさわしい二人だった。
「じゃ、止まれ」
白道、と呼ばれている黒服がそういった直後。
ピキンと。
一時停止したかのように。
止まった。
女の子が。
白道によって石にでも変えられさせたかのように。
「……?おい?」
最初は赤井もただ動いてないだけかと思ったが、どうもそうではないらしい。
まるでそこだけ時間が止まったかのようだった。
試しに目の前で手を振ってみるが、何の反応も示さない。
「なんで止まんねぇのよぉ、お前……」
「白道さんの才能が、聞いてない?」
向こうでは、黒服の二人も何かに驚いているようだった。
「もしかして、お前の“才能”ってやつか? これ」
「何なんだ、お前」
「まるで俺が化け物みたいな言い草だな。ま、そんな言い方するって事は、大方才能で間違いないか」
「だったら何なのよー!? だったか? ま、それはともかく、本当に何をした?」
「ハハッ、お前、どんな状況でも焦らないタイプだと思ったんだがな」
「俺もそういうタイプだと思ってたが、今日は本当久しぶりに驚いたぞ」
お互いの主張ばかりで、まったく噛み合っていない会話だった。
「こんなに女の子を追い掛け回して、何やってんだがっと」
赤井はゆっくり立ち上がるとおもむろに呟く。
「これが才能なら、こうすりゃ治るのか?」
赤井は止まってしまった女の子の肩に手を触れる。
瞬間。
「―――――何よ、いつの間に立ったの?ていうか、触れないでよ」
女の子が、元に戻った。




