<1>~二人は白道と共に“都市”へ向かい、ある男に出会う。~ (6)
崩野響輔。
そうだ、崩野だ。
俺があの時助けてもらった。
でも、口止めされてんだよな…。
“そうそう、俺と関わったことは誰にも言わないでくれ。俺も追われてる身なんでな。”
そんなことを言っていた。
だけど、この男の鋭さは知っている。
ここで嘘をついたところでバレるだろう。
ごめんな、崩野。
「……、ああ、そうだ。俺は崩野に助けてもらったんだ」
「……そうか、やはりな。あの男、死んでなかったか。殺そうとしても死ぬような男ではないと思っていたが」
今まで感情をほとんど表に出していなかった創造主が、ここだけはすこし感情を出ているように見えた。
憎悪の感情。
俺がそんなことを感じていると、創造主は一瞬だけフッと笑った。
怒り。
憎しみ。
化○語風に言うなら凄惨に笑っていた。
その時の顔には、寒気がした。
普通の奴には何も感じないかもしれない、というかあんな一瞬気づかないかもしれない。
でも俺はわかった。
この二人に何があったのかは知らない。
だが、凄まじい何かがあったのだろう。
「そうか、わかった。では以上だ。私は帰る」
いつの間にか創造主の顔は元に戻っていた。
あの顔に気づいたのはどれくらい居るんだろう。
紅は別に普通の顔をしている。
白道はニタニタと気持ち悪い笑いを顔に貼り付けていた。
こいつはやっぱり気づいてたか。
「白道、処置は言ったとおりに。赤井君、8日後にまた会うと思うがそのときはよろしくな」
創造主は意味深な言葉を残してその場を去った。
残ったのは3人。
「さてさてぇ、あの男があんなに感情を出すとは、余程のことだったんだろうねぇ。崩野ねぇ」
白道がぶつくさ呟いている。
そうしていると、不意にハッとした感じでこちらに振り返った。
「っと、仕事しなきゃいけないんだよねぇ。赤井君とじゃじゃ馬ちゃんにはこの“都市”で生活してもらうんだけども」
「生活?」「どういうこと?」
二人が聞く。
「これから普通にこの“都市”で生活してもらうってことだ。それが創造主の命令。赤井君は紅と同じ寮に入ってもらって、紅と同じ学校に通ってもらう」
え?
それって?
「俺に、“都市”で住めってことか!? 訳わかんねぇ!!」
「私も口封じとかされないの?」
まさか俺に“都市”で暮らせなんて言われるとはな。
俺は普通な世界で普通に暮らす予定だったんだけど。
「しゃーねーもんよぉ。俺は金で雇われた傭兵でな。命令以外は聞く気ないし、理由も聞いちゃいないからなぁ」
なんだそりゃ。
今時傭兵なんていたんだな。
「ちょっと、確かにその処分は嬉しいけど、私はあなた達の秘密を盗んだのよ!?どうして生かしているの?」
そりゃそうだ。
普通なら口止めで殺されてもおかしくない。
「だぁかぁらぁよぉ、俺はしらねぇの。詳しくは創造主、ってもう居ないけどよ。いいじゃねぇか、死ななかったんだから。よかったな。それと、お前の危惧していた秘密のことだがな」
白道はそこまで言うと、絶望的な一言を言い出した。
「“風”さんがお前の家に行った。意味は分かるよな」
それはつまり。
USBはもちろん奪われたのだろうが、そんなことよりも。
桜さん。
紅のお兄さんが危ない。
あの人は強いそうだけど、それでも相手は敵の幹部クラス、それに才能を持っている。
これは紅大丈夫かな…。
そう思っていると、今度は紅が驚くことを言い出した。
「まぁ、お兄ちゃんなら大丈夫でしょ!!」
「どんだけブラコンなんだよ!! どんだけ過信してんだよ!!」
もう驚きすぎて間髪いれずに突っ込んじゃったよ!
どうやらこの気持ちは白道も同じだったようで、口をあけて驚いていた。