<1>~二人は白道と共に“都市”へ向かい、ある男に出会う。~ (5)
「なんでそんなに驚いてるんだ、紅」
目を見開いて驚いてるとこ悪いが何に驚いたのかさっぱり分からんぞ。
「だって、3つも同時に……」
3つ同時?
もしもこれが才能のない世界ならともかく、ここは才能が溢れている世界だぜ?
何が不思議なんだ?
「そうか、赤井君はこれのすごさがわかんないのか。そうだよねぇ、“才能学”なんて普通の学校じゃ習わないもんなぁ」
“才能学”? 何だそれは。
「なあ紅、“才能学”って何なんだ?」
「“才能学”って言うのは簡単に言うなら才能を研究している学問。原理だとか。それでも色々と分かってないことは多いんだけど」
「で、どうしてそれが紅の驚く理由になるんだ?」
「才能学では、三重の才能は存在しないのよ。アイツは発炎、発雷、発氷の3つの才能を同時に使った、だからありえないのよ!」
ってことは。
今目の前のこの男は常識外れの才能なんてものがある世界の中でさらに常識外れなことをしたってことか。
それは驚くよな。
ん、待てよ?
「さっき才能学は色々と分かってないって言ってたよな。それなら例外がいてもおかしくないんじゃないか?」
世の中にはどんなことでも例外がありますから。
「確かにそうかもしれないわね。これはただ単に三重の才能者の例がいないってだけだから。もしかしたら世の中にもいるかもしれない。でも、例外があったとしても驚くのは一緒でしょ!」
……そうだな。
今まで習ってきたことを覆されていて、今まで見つかっていない三重才能者が目の前にいたとするならそれは驚きだ。
「さて、ぼちぼち雑談は終わったか?本題に入ろう」
創造主が冷たい顔でこちらを見ていた。
相談する時間は終了、って訳かよ。
「別にアンタに話すことなんて」
「中学一年、夏休み」
赤井の言葉を潰すかのように創造主は遮って言ってきた。
「それが……、何だよ……」
心なしか推理物で追い詰められている気分だ。
しょ、証拠はあるのか!? とか言いそう。
「君はその期間だけぽっかりと穴が開いているんだよ。何をしていたのか分からない。さしずめ『空白の夏休み』、と言った所か」
「どうやって……、その事を……」
「こう見えて私は一組織のトップなんでね。それくらいの情報収集は出来る。だが、ここだけは何も出てこなかった。何もだ。まったく情報が無い。ここを怪しんで当然だ。その反応だとやはりそこに何か、才能者との接触があった、ということか」
やばい。全部当たってる。
「まあ、白道も詮索をしなかったようだからしないでおくが、一つだけ答えて欲しい」
???。
え?
詮索しないの?
正直ここで迫られたらどうやって話を逸らそうかって何かデジャビュ。
「何ですか?」
もう安心だ。
あの時の事は正直好きじゃない。
そう思っていたが油断していた。
この男を。
「そのことが紅を助けた理由になっているのかも知れないな。todayの報告から赤井君はそこそこ戦闘経験もありそうな雰囲気だそうだったらしい。そして赤井君は空手等格闘技を習っていない。ならばその中一の夏休みに戦闘、もしくはそれに近いものがあり、実践的な戦い方を教えて貰ったのだろう。そして赤井君はこのことを語りたがら無い。それは赤井君の意思だけだとは思えない。誰かに口止めされているということかもしれない。そして赤井君の住所。すべてを考えたんだ結果だ、答えて欲しいものだが」
随分と長い説明をされたが、実はそれは全部当たっているわけで。
ここまで来ると本当は事実を知っているんじゃないかと不安になる。
何を質問されるのか。
「君が戦闘を教えて貰った人は、“崩壊”いや、『崩野響輔』ではないか?」