~積極的に語る相馬、秘密を知る篠崎。~
「やはり、篠崎さんは吸血鬼になってしまったという考えでよろしいでしょうか?」
「……、えぇ。そうなるわね。あのへんてこな怪物と同じ目をしてる、から」
悲しそうな顔をして篠崎が答える。
「失礼、少しデリカシーに欠けましたね。では、やはりあの“鳥”とかいう男に血を吸われた時でしょうか」
「多分。そのときからずっと、気分が悪いっていうか、体中が熱くなってる気がして……」
「そうですか。しかし、気づけなかったのは私のミスです。申し訳ありません」
「しょうがないよ。こんなことになるなんて、私も思ってなかったから」
「ですが、女性がここまで苦しむような事態に気づけなかったというのは、本当に、申し訳なく思います。どう謝ればいいのやら……」
相馬は歯軋りしていた。
自分が情けなく感じていたのだろう。
「そういえば、どうして相馬はそんなに女の子に優しいの?」
よく考えれば、当然だった。
「そう大層な理由ではありませんよ。私は、一人の女性を泣かせました」
相馬は、思い出すように淡々と語りだした。
「その人は、初めて私が好きになった人だったんですけどね。笑える話じゃありませんか」
「その人は、私がそのことに謝る前に、交通事故で死んでしまいました」
「え……!?」
そんな暗い話があったなんて……。
「その時からですね。私がこんな口調になり、ほとんど恐怖を抱けなくなり、そして全ての女性に腫れ物に触るように接するようになったのは」
ハハッと自嘲的に相馬は笑った。
「ごめんなさい、こんな話させちゃって……」
「別に構いませんよ。私が勝手に話したことです。ですが、こんな話をしたのは篠崎さんが初めてですね」
「で、でも……」
「いいんです。こんな話をしてないで、状況を整理しましょう。夜、私を襲ったのは篠崎さんで間違いないんですね」
「……、ごめん」
「それも気にしてないですよ。実質的な被害は出ていませんし。あれは……」
「夜は血が滾るって言うのか、吸血鬼化するの。話も通用しない化物にね。吸血衝動ってやつなのかしら……」
「血は、まだ吸っていないんですよね」
「ええ。ぎりぎりで衝動を止めてるの。でも、だんだんこの衝動が強く、長くなってる」
「そうですか……。その衝動が出てから何日ですか?」
「今日が9日なら、もう五日になる」
「おかしいですね」
「おかしい?」
「もう正気が無くなっておかしくなってもしょうがないのに、まだ篠崎さんは私を前にしても日が出ていれば正気を保っている」
「そ、そうなの……?」
「ええ。調べた中では、ですが。どうやら、吸われた血の量が少なかったようですね。本来吸血鬼というのは、人間から血液を吸った後はその人間が吸血鬼化しないように一撃で殺すようです。ですが、その前に私達が“鳥”を倒してしまった。ですから、こんなことになっている。ですがもちろん、篠崎さんに死んでもらおうだなんて物騒なことは考えていません。策が、無いわけじゃないんです」
そして、相馬は少し笑った。