~お見舞いへもう一度行く相馬。~
「篠崎さん、大丈夫でしょうか……」
相馬は走って、篠崎のいる寮まで戻っていた。
すっかり辺りも暗くなってきていた。
考えながら、走っていると篠崎の寮の前まで着いた。
その時だった。
何かが寮の二階のある一室から飛んで道に落ちた。
つまり、相馬の目の前に。
「……」
それは人の形をしていた。
そして常人なら二階とは言えしばらく動けないはずなのに、すぐに立ち上がってこちらを振り返ってきた。
暗くて顔はよく見えないが、注目すべきところがあった。
目と歯である。
その目は本来人間で言うところの白目が赤く、黒目は緑、その奥の瞳孔には深緑が控えていた。
歯は犬歯が人とは思えないレベルで伸びていて、キラリと一瞬何かの光を反射した。
「どうやら、後で染山に謝らなければなりませんかね……」
今日聞いた都市伝説を思い出しながら、冷や汗を流していた。
とはいえ、逃げ出すほどではないが。
「すみませんが、私に何か御用ですかね」
一応言葉を掛けてみる。
「……」
だが、その人影は答えない。
ドンッといきなり音が聞こえた。
すると、一瞬で間合いを詰められる。
そのまま拳が腹へと迫る――――――――――――、が。
その拳はあたるぎりぎりで止められた。
「おや、本当に都市伝説通り……」
本格的に染山に謝らなければならなくなった。
「そ……うま……?」
その時、赤い目がこちらを向いた気がした。
人影はそのまま後ろへ飛び去り、走って闇夜に消えていった。
「…………」
闇夜に消えるその背中を無言で見つめる。
「今の声……」
聞き間違えたとは思えない。
あの声は。
「篠崎さん……」
信じられないようなことだが。
「それに篠崎さんの部屋から飛び出して来ましたし」
相馬は、あの人影が篠崎のような気がしてならなかった。
「確証はありませんが、少し動いてみますか」
次の日、5月9日(火)の昼休み。
「染山、昨日の都市伝説で他に詳しく分かっていることはありませんか?」
相馬は染山に詰め寄っていた。
「珍しいじゃん、一番こういう眉唾な話に首突っ込まなさそうなのに」
「少し気になっただけです。とにかく話してくれませんか?」
「確か、吸血鬼伝説とも言われ始めてるんじゃん」
「吸血鬼?」
また話が混迷しているが、あの姿を見れば頷けるかもしれない。
「そう、吸血鬼じゃん。目が赤くて犬歯がとても発達してるらしいじゃん。ここまでくると、もう俺としても興味はないじゃん」
「どうしてですか?」
「だって吸血鬼じゃん? 怪しすぎるとは思うじゃんよ? 人為的臭くもあるから、もうあんまり深く知るつもりは無いじゃん」
「そういわず、他に情報はありませんか?」
「とはいっても、襲うぎりぎりでやめるってのは変わってないじゃん。他の情報っていえば……。あ、そういえば!!」
染山が急に思い出したようだ。
「その吸血鬼ってのは女らしいじゃん!!」
「そうですか……」
はぁ……、と息をつくと相馬はありがとうございましたと言って歩いていった。
「相馬、どうしたんじゃん?」
吸血鬼、ですか。
あの姿、様子を見るとあの腐れ野郎のことを思い出しますね。
相馬はあの“5.01事件”のことを思い出していた。
「“鳥”……」
自ら吸血鬼と名乗り、篠崎に襲い掛かった―――――――――――。
「まさか!?」
相馬は何かに閃き、図書館へ走っていった。