<5>~異変は全てを語る。~
「知って、いるのか?」
廻家は急に重い顔になった。
「あぁ。俺と“創造主”は記憶こそ一致してないが、知識は一致する。難しく言うなら、エピソード記憶は繋がってないが、意味記憶は繋がってるって所だ。それに、俺が生まれたのはあの事件が起こる前だしな」
“影”は伊達や酔狂でなく知っているようだ。
「廻家さん……、あの事件って、崩野の」
「だろうな」
赤井は廻家から聞いてその事件の詳細まで知っている。
正直、最悪の事件だ。
「回想とかはだるいから、あった事件だけ教えてやる」
「こいつは、普通に生活していた。友達だって多くいた。その中でも、親友と呼ばれるような存在だっていたわけだ。分かるだろう?」
「“創造主”達には親友同士だけの呼び名とかがあったんだ」
「親友は四人。才能から取った名だろうが、“創造”、これは今の“創造主”、他は“崩壊”、“光輝”そして“閉路”だ。周りの奴らからは敬意からか“4C”なんて呼ばれてたがな」
これなら、“創造主”が初めて赤井と会ったときに『“崩壊”いや、崩野響輔ではないか?』って聞いた理由も分かる。
「敬意? どういうことだ?」
ここで初めて太陽が質問した。
「こいつら四人は特異な才能を持ってたんだ。“創造主”も然りだろ。そして各方面に優秀だったしな。例えばこの“創造主”はかなり頭が良い。IQ220とか言ってたな」
『IQ220!?』
叫んだ赤井、染山、紅、太陽、叶、祈の声がハモる。
「とはいっても頭に血が上りやすかったりして、いじられやすいキャラだったけどな」
「想像ができねぇ……」
いじられやすい秘密結社のボスってどうなの?
「良くも悪くも口車に乗りやすかったり、騙されやすいってことだ。ここは関係ないがな。で、本題だ」
「赤井君は聞かれたろう? “崩壊”こと“崩野響輔”に出会ったのではないかってな」
「……あぁ」
赤井はだんだん顔が暗くなる。
この先の展開を知っているからだ。
「“崩野響輔”はな、“創造主”がいた学年の者達のほとんどを虐殺したんだよ。その中には“創造主”が好きだった“閉鎖”も含まれてた。生き残りは、『円卓』にいる一星の輝、こいつは今言った“光輝”だ。そしてそこの廻家界視もそうなる。他にも“光輝”が守った数人がいるだろうが、あんま今は関係ないな」
「は?」
「廻家さん、本当じゃん!?」
いち早く廻家が染山に聞く。
「本当だ」
嫌なことを思い出したように、廻家は答える。
「“創造主”は絶望し、こんなくだらない世界をぶっ壊そうと思ったわけだ。そりゃまぁ、信じていた奴に好きだった奴を殺されたしな。これが理由だ」
全員が静かになる。
その中で、落ち着いている男が一人いた。
「どうして、相馬は落ち着いているじゃん?」
「だって、知っていましたから」
『何!?』
こんどは全員が驚く。
「いえ、捕らえられている皆さんを助けるときにマスターキーを取りにいったんですが、その鍵を取りに行った部屋にあったパソコンがありましてね。そこで読んだんですよ」
「そういえば、帰ってくるのが遅かったな」
赤井は思い出していた。
あの時鍵を取ってくるだけだったのに、やけに相馬が帰ってくるのが遅かったのだ。
「へぇ。成程、だとするとお前は凄いな。そんな事情を知っていながら戦えた、ということか」
「同情なんて抱きませんよ。大切なのは今していることですから。過去には生きません。私達が生きているのは現在です」
「……随分と、卓越した考えだな」
“影”は素直に驚く。
高校生風情にそんな考えが出来たことに。
「あ、一言言い忘れてたわ」
“影”は色々なことに驚いて静かになった全員に構わず言う。
「さっきよ、俺に敵意があるのかって聞いたろ? 俺はこんな世界征服なんてくだらない野望に乗る気は無いけどよ」
すると、“影”はいきなり黒い矢の様な形になり凄い速度で飛んでいくと廻家に突き刺さった。
そのままその矢は廻家の中に入っていくと、消えてしまった。
「な、何だ今の!?」
全員が廻家を見る。
「野望が無え訳じゃねえよ!!」
その声は廻家そのものだったが、喋っていることは“影”だった。
ちなみに意味記憶とは文字通り意味の記憶でー、『信号は赤で止まる』『火は熱い』などのことですー。
エピソード記憶とは思い出の記憶です。高校の記憶とか、何をしていたかとかの生活の記憶なのです。
解説終わりー。