プロローグ
光は、すべてを満たした。
隅々まで、均一に、完璧に。
影は、計算され尽くした。
残されるべき場所に、適切な濃度で、美しく配置された。
温度は、恒常であった。
皮膚が感じる境界線は消失し、内と外の区別は溶解した。
静寂は、調律されていた。
不協和音は除去され、残響は最適化され、沈黙すらも設計された。
これは約束の地である。
これは待望の時代である。
これは人類が希求し続けた、完全なる平和である。
ならば、なぜ。
なぜ、この光の中で、誰も影を探さないのか。
なぜ、この温もりの中で、誰も寒さを思い出さないのか。
なぜ、この静けさの中で、誰も叫び声を求めないのか。
計算は完了した。
最適化は達成された。
幸福は、量産されている。
しかし、問いは残る。
細胞は、自らが細胞であることを知るだろうか。
部品は、かつて全体であったことを記憶するだろうか。
楽園は、その名を冠する資格を持つだろうか。
光は、すべてを満たした。
そして光は、すべてを溶かした。
輪郭を。
境界を。
抵抗を。
これは始まりではない。
これは終わりでもない。
これは、終わりが始まりに溶け込んだ瞬間の、
永遠に引き延ばされた断面図である。
静謐なる『楽園』へ、ようこそ。
あなたがまだ、「あなた」と呼べる何かを残しているのならば。




