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異世界エルフの魔法教室〜この世界に魔法を贈りたい〜  作者: おんせんみかん


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8話 新たな仲間とコラボ打診



 主に編集に使っているパソコンの部屋に、キーボードの音が響く。


 今回は別に編集作業に使っているわけではなく、前回の光魔法を発表した後の世の動向調査と、登録してあるSNSの更新とチェックである。


 大手のニュースサイトから、個人のネットニュースや考察等の掲示板サイト、ツブヤクンヤーやテックハックの動画投稿サイト。もちろん、ミーチューブもチェックを怠らない。


 そのモニター数は縦二枚、横四枚の計八枚にて半球形に組んでいる。そのすべてのモニターに別の媒体を同時に映し出し、それら全てをチェックするのは、ゲーミングチェアに座る小さな人影、ミスティアである。


「……むーーー!」


 先日の放送はバズと呼んでいいのか、はたまた炎上と言っていいのか、ちょうど中間で賛否が分けられているような状態だ。光魔法の適性率の高さと視聴者数を少し見誤っていた部分がある。まほろば⭐︎レンというインフルエンサーを始め、芸能人や有名なエンスタグラマーまで、魔法の発現報告が相次いだのだ。そうなればもちろん、魔法の出どころであるミスティアたちに良くも悪くも注目が集まるのは当然のことなのだ。

 唯一の救いはサプライズプレゼントの映像の方は概ね好評であり、世評では泉美に対する信望が大きいくらいだ。それだけ悪役令嬢ムーブがハマったというべきか。


「ぅーーーー! ふぐぅーーー!」

「なーーーん! うなぁぁーーん!」


 ミスティアは大きなため息を吐くと、ゲーミングチェアをクルリと半回転させて後ろ──ちょうど部屋の出入り口へと向き直った。


「言いたいことがあるなら、きちんと言葉にしたらどうだい? 猫も君の真似をし始めたじゃないか」


「こうなったのは師匠のせいじゃないですかぁ……。師匠、今私が世間ではなんで言われてるか知ってますか?」


 泉美はちょうど猫が箱座りのような体制で、高めの椅子にあぐらを組んで座るミスティアを、恨めしげに見上げながらそう問いかけてきた。


「えっと、たしか、悪役令嬢イズミンだっけ? ああそうだ。イズミンお嬢とかいうのもみたっけ?」


 ミスティアは悪びれもせず、しれっと恨めしげな瞳が潤み始めた弟子を見つめて言い放つ。


「見てますね! それを分かってて、なぜあの動画を出しちゃったんですかぁー! おかげで、私はまるで世間では痛い子ちゃん扱いですよ!」


 泉美はぷりぷりと頬を膨らませ、不満を爆発させた。その頭上では、椅子と窓の間に置かれたキャットタワーの最上段から、一匹の白猫が「うにゃん」と可愛らしい鳴き声を上げている。


「そんなこと言ったって、世間的にはあの高飛車なお嬢様が、魔法使いの弟子で、とんでもない力を秘めてるっていうギャップに萌えてる層もいるんだよ。それに、君には知名度が必要だ。名前が売れることに損はない」


 ミスティアはすっとモニターの一つに目を戻すと、その画面に表示されたコメント群を指さした。


「ほら。『悪役令嬢イズミン様、キレッキレで最高ですわ!』とか、『イズミンの光魔法、まるで妖精みたいでカッコイイ』とか、好意的な意見だってちゃんとある」


「ぐっ……、まあ、それはそうなんですけど……」


 悔しそうに唸る泉美の視線が、ふとミスティアのチェックしていたSNSの一つ、ツブヤクンヤーのDM画面に引き付けられた。ミスティアは泉美に話をしながら、片手でキーボードを操作し、そのDMをすでに開いている。


「ねえ、師匠。それ、もしかして……」


泉美が画面を覗き込むと、そこには著名なミーチューバーのアカウント名が躍っていた。


【teamワルプルギス@まほろば⭐︎レン】


「うむ。ちょうど今、確認したところだ」


ミスティアは小さく頷いた。


『ミスティアさん、こんにちは! まほろば⭐︎レンと申します。先日の配信での光魔法、水生成の魔法に続き、拝見しておりました! 本当にすごいです! 実は、ぜひ一度、配信のコラボで動画をご一緒させていただきたく、ご連絡いたしました。ぜひ、前向きにご検討いただけると嬉しいです! 追伸、別にコラボ動画じゃなくても、一度でいいから直接にでも会いたいです! 是非ともお会いして、素敵な魔法を広めてくれたお礼がいたしたく思います。これはあくまで私のわがままですので、拒否されても致し方がないと存じておりますので、何卒、ご一考の程、よろしくお願いだします』


「ま、まほろば⭐︎レン!? あの!?」

泉美は驚きで目を丸くし、椅子から身を乗り出した。


「ああ、その通り。彼女も水魔法、光魔法に高い適性を示した一人だ。まあ、何かしらアクションがあるとは思っていたけどね」


 ミスティアはそう言って、キャットタワーの最上段で座っていた白猫を抱き上げ、静かに撫で始めた。


「で、師匠。返信はどうするんですか? これは乗るべきですよね!」


 泉美は逸る気持ちを抑えられない様子だ。


「そうだね。コラボは受ける方向で調整しよう。ただ、その前に一つ、君に頼みたいことがある」


 ミスティアは白猫のふさふさとした毛並みを撫でながら、泉美に優しい瞳を向けた。


「この子の名前を、そろそろ付けようか?」


「え?」


泉美は面食らったが、すぐに抱き上げられている白猫に目を向けた。ミスティアと泉美は名前をつけず「猫」と呼んでいた。


 それはミスティアが時期ではないから、まだ名前をつけてはいけないと、泉美に言い含めていたからだ。


「今日にも月が満ちるからね。この子の名前を正式につけて、みんなに紹介する良い機会になるだろう」


「そもそも、どうして今まで名前をつけちゃダメだったんですか?」


 ミスティアが白猫を持ち上げると、器用に肩に上り、そのまま頭の上に鎮座する。


「この子は前にも言ったけど、ただの猫じゃない。妖精のケット・シー。日本の伝承では猫又と呼ばれる存在なんだよ。名前をつけるというのは、即ち名で縛るということになる。この子が成体であったなら、いつでも契約で縛ることはできたんだけども、この子はおそらくこの山で最近生まれた子だろう? 契約とは魔力がそれなりにないと、縛られた瞬間に存在が消えてしまう」


 頭の上で寛いで毛繕いをしていた小さい白猫の首筋を摘むと、その手を泉美へと差し出して渡した。


「だから、今まで名前をつけなかったんですか。でも、それじゃあ、なぜ今になって?」


 泉美は両手で白猫を受け取り、その小さな体を胸に抱き寄せた。猫は居心地が良さそうに「にゃあ」と小さく鳴いた。


「妖精ってのはね、生まれて間もないが、魔力を吸収する能力が非常に高い。魔法使いと同じく、この山から溢れる魔力を日々吸収し、成長を続けている。そして、満月の夜は、魔力の流れが最も安定し、この子の魔力が一定の段階に達する時期なんだ」


 ミスティアは再びモニター群に向き直り、八枚の画面の一つ、丁度月齢カレンダーが表示されていた。


「つまり、今なら名前による縛りに耐えられ、契約の礎となり得る、ということだ。名前は、我々の仲間であることを世間に示す証にもなる。名は体を表すというからね。君がこの子の名付け親になりなさい」


 ミスティアは改めてモニターから目を離し、泉美に向き合った。その目は、彼女の成長を試すような、あるいは期待するような、複雑な光を宿していた。


「私が? え、でも、師匠の方が詳しいし、ケット・シーにふさわしい名前があるんじゃ……」


 泉美は戸惑った。彼女にとってこの白猫は、ただの可愛らしいペットではなく、ミスティアに匹敵するただの猫じゃない存在なのだ。


「いいや。この子に最も長く触れ、共に生活し、魔力を分かち合っているのは君だ。名は、その存在の根源と、名付け親の想いを結びつける。君の魔力と想いが、この子の将来を形作る。さあ、遠慮はいらない。君が心から呼びたい、と思う名前を付けてあげなさい」


 ミスティアは柔らかな笑みを浮かべた。

 泉美は改めて胸の中の白猫を見つめた。雪のような白い毛並み、青く澄んだ瞳。時折、光が当たると毛先がきらめいて見えた。


「――そう、だなぁ……」


 泉美の脳裏に、猫と出会った時の夜を思い出す。不安に押しつぶされそうな暗闇の中で、木々の合間から差し込む月明かりと、猫の温もり、それだけで歩みを進めることができた、あの夜のことを。



「決めた。この子の名前は……『ルーナ』。月を意味するラテン語から取って」


泉美は力強く言った。


「私がどれだけ辛くてもきっとこの子が灯りとなって立ち上がる勇気をくれるから、この子は闇夜を照らす、静かで神秘的な光……ルーナ。そして、満月ルナ・プレナの夜に、この子の存在が確かなものになるから……」


 ミスティアは目を細め、静かに頷いた。


「『ルーナ』……。素晴らしい名だ。魔法使いの弟子が名付けるにふさわしい、神秘的な響きだ」


 ミスティアは満足そうに微笑んだ。


「さあ、ルーナ。お前は今日から私たちの仲間、ケット・シーの『ルーナ』だ。泉美がつけてくれたこの名前を胸に、立派な妖精になるんだよ」


ルーナと呼ばれた白猫は、「にゃあ!」と、先ほどよりも少し響きのある声で鳴き、泉美の胸元に頭を擦り付けた。名前を与えられたことで、その存在が一つ階層を登ったかのように、泉美の手に抱かれた猫の体から、微かな魔力の脈動が感じられた。


「よし、ルーナも気に入ってくれたようだし、一件落着だ」


 ミスティアは再びモニターに向き直り、キーボードに指を置いた。

 再び作業に戻ろうとする姿を見て、泉美は名前をつけたばかりの相棒を連れて上機嫌で自身の部屋へと戻っていった。

 その気配を感じながら、ミスティアはようやく落ち着いて作業ができると安堵のため息を吐いた。


「まほろば⭐︎レン君への返信だが、コラボは受けよう。企画内容は……そうだなぁ。ああ、中々にセンセーショナルな動画にしようか! きっと、魔法少女に憧れる彼女も喜んでくれるだろう」


 嬉々としてまほろば⭐︎レンに返信をしているその顔はまさに悪巧みをする子供のようで無邪気な中にいたずら心を隠したような複雑な笑みを浮かべていた。


 その返信文を打っている最中にも、DMがいくつか飛んできていたのだが、それらを見ずにゴミ箱へと放り込む。


 宛先の大半はUSAや中華人民共和国、ロシア連邦などと宛先に書いてあった。その中には日本国家公安警察という物もあったが、それらを全て無視をする。


「しつこいなぁ。まだその時じゃないっていうのに……大人しく待っていればいいものを……」


 また新たに飛んできたDMを、忌々しげに削除ホルダーへと放り込むと、流れる動作でブロック設定もする。

 そこにはローマバチカン市国の名前があったのだが。



 teamワルプルギス@まほろば⭐︎レン


 緊急告知! 来月、大魔法使いのミスティ様とその弟子であるイズミン様。さらには特別ゲストとコラボ配信が決定しました。

 内容は当日まで内緒です!マジカルな日常をあなたのそばに

マホロバ⭐︎マジカル⭐︎ルルリラルー⭐︎

 あなたの魔法少女、まほろば⭐︎レンからのお知らせでした!




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