20話 世界を綺麗に
『こんばんユグドラ! みんなの先生、ミスティ先生だよ』
『その助手兼弟子兼副担任の、イズミンです!』
《こんばんユグドラ!》
《888888》
《一日置きの配信って、初めてじゃない?》
《昨日の配信にはミスティちゃん出てないから、ノーカン》
《イズミンが必死に生徒たちと勉強してたことをノーカンにすなww》
『昨日のイズミンの配信はアーカイブで見たけど、のびのびやれてたようで安心したよ。これから僕も少し忙しくなりそうだからね』
《なになに? なんかするの?》
《ワルプルギスの魔法指導かな?》
レン《わーーい! ミスティ先生とレッスン!》
ムジカ《ふふっ、その前にレンちゃんは事務所の私物を片付けないとね》
ララ《お引越し準備をみんなでがんばるのだぁー!》
《そういえばteamワルプルギス改め、ワルプルギスの夜会の事務所移転するんだっけ?》
カスミ《そうですわねぇ。今の事務所も悪くは無いのですけれども、これからは飛躍するために手狭になりますもの。スポンサーもつきましたし》
『ふふ、僕たちももうしばらくしたら引越しの予定ではいるよ。少し世間が騒がしくなってきたことだしね』
『え? そうなんですか!? ここも気に入ってるんですけど……』
『何も無い山だけど、空気だけは良いからね』
《山w 外見と生活が完全一致w》
《もしかして、ワルプルギスの事務所に一緒に住んだり!?》
みーまう《それはいい考えにぅ! みーまうはいっぱい魔法を覚えてみんなの役に立てるですー!》
『それも楽しそうだけど、引っ越し先は別だよ。僕が一緒に住んじゃうと、色々と迷惑をかけちゃうこともあるからね』
『それに、僕たちが配信を始めてもう三ヶ月だ。あっという間だったけど、みんなよくついてきてくれたね』
『そういえば……私、最初の放送の時は、いなかったんですよね。目が覚めたら一ヶ月とか経ってるって言われたし……』
『それだけ体の状態が危なかったからね。魔法に馴染ませる必要もあったし』
《懐かしいwww》
《一ヶ月w 寝すぎにも程がある》
《光魔法のおかげで、夜の散歩が怖くなくなったよ》
《動物と話す魔法で、うちのハムスターが「ひまわりの種もっとよこせ」って言ってるの分かって絶望した》
『ははは、動物たちの本音は時に辛辣だよね。生活用水を生み出す水魔法、闇を払う光魔法、そして動物との意思疎通……。みんな、僕が教えた魔法陣をしっかりと自分のものにしてくれている。それが何より嬉しいよ』
カスミ《基礎がしっかりしているからこそ、先日のレンの誕生祭も大成功でしたわね》
レン《えへへ……みんなありがとー! アーカイブのコメントも全部読んだよ!》
『いやあ、あのイベントは凄かったね。新衣装のお披露目に、みんなで合わせ技の魔法演出……「ワルプルギスの夜会」の結束力を見せつけられたよ』
ララ《みんながサプライズで光魔法の小さな灯を飛ばしてくれたのは感動したのだ!》
ムジカ《あれは粋な計らいだったわね。おかげでレンちゃん、泣いて歌えなくなっちゃうし》
《あれは神回だった》
《レンちゃんの涙で俺らも号泣》
《あの光が舞い踊る光景はこの世のものとは思えないくらい綺麗だった》
『ああ、あれは本当に素晴らしい光景だったね。……でも、僕が本当に感動したのは、あのお祭り騒ぎの後、会場周辺のゴミ拾いをレンちゃんの使い魔のみんなが手伝ったって聞いたことだよ』
『あ、それ私も聞きました! リスナーさんたちが、自主的に来た時よりも美しくして帰ってくれたって』
『そう、その心が大事なんだ。……今日はね、そんな優しいみんなに、僕から一つだけお願いがある』
《お願い?》
《先生がお願いなんて珍しい》
《なんだろ、世界征服の手伝いか?》
《今の先生ならやりかねないw》
『この三ヶ月、みんなは魔法を通して「自然」や「生命」と繋がってくれた。でも悲しいことに、この世界は今もなお、少しずつ「汚れ」が溜まってきているんだ』
『汚れ……ですか?』
『目に見えるゴミだけじゃない。大気や水、土壌に含まれる毒素……そして、人の体を蝕む悪いものも含めてね。これからの時代、自分の身を守るためにも、世界を綺麗に保つ力が必要になる』
《人の体を蝕むって……病気とか?》
《なんか最近、変なニュース多いしな》
《先生、まさか予言?》
『あははは、予言じゃないよ。ただの準備さ。……だから、今日の授業は浄化の魔法を教える』
『浄化? それはよくファンタジー小説とかにある瘴気を払ったりするやつですよね』
『あくまで「お掃除」の一環だよ。……イズミン、例のビーカーを出して』
『はい、持ってきました。……うぅ、相変わらず凄い色してますね! 鼻が曲がりそう……』
《やばそうな色の水をwww》
《うちのマコモ湯かな?》
《なんだ。うちのキッチンに溜まっている水じゃ無いか》
『これは様々な汚染物質を混ぜたものだ。体内に入ればひとたまりもない猛毒だよ。……よく見ててね。イメージするのは、あるべき姿に還ること。汚れを消すのではなく、本来の清らかな状態を思い出させるんだ』
『うわぁ……! 一瞬で水が透明に!? 匂いも消えた!』
《すっげええええ!!》
《濾過装置もなしで一瞬!?》
《これが浄化……》
『これが浄化の魔法だ。飲み水や空気はもちろん、体の汚れや衣服の汚れも落としてくれるよ』
『……僕のお願いはこれだ。君たちの周りを、そして君たち自身を、魔法で綺麗にしてほしい。一人一人が自分の身の回り、手の届くところを浄化できれば、世界はずっと過ごしやすくなるはずだから』
レン《わかった! 私、毎日やる!》
みーまう《みーまうも、お友達の猫ちゃんたちが変なもの食べないように浄化するにぅ!》
『ありがとう。難しいことはない。「綺麗になれ」と願う、その優しい心が一番の触媒だ。さあ、みんなも手をかざして。まずは自分の手のひらや、部屋の汚れから綺麗にしてみようか』
《先生! やばい! 風呂場の黒カビが一瞬で消滅した!》
《キーボードの隙間のゴミが全部消えたんだが……新品同様になったぞ》
《これすげえええええ!!》
《部屋の空気がめっちゃ澄んでる気がする》
《掃除機いらないじゃんこれ!》
『ふふ、みんな上手だね。イメージさえしっかりしていれば、魔法はちゃんと応えてくれる』
《ミスティ先生!! 信じられません!! 今、研究室の学生たちと半信半疑で試してみたのですが、海水サンプルのビーカー内のマイクロプラスチックが……完全に消滅しました!! フィルターでも除去しきれないナノレベルの汚染物質まで、綺麗さっぱり無くなっています!!》
『マイクロプラスチックって……あの、魚とかが食べちゃって問題になってるやつですよね?』
『そうだね。物理的な回収が難しい微細なゴミも、魔法なら「本来の水ではない異物」として認識して、分解することができるからね』
《今、大学の研究室で除去後の水質データを分析しましたが、正常な海水で、汚染物質がゼロです! これは環境工学の革命ですよ!! 興奮して手が震えています!!》
《教授落ち着けwww》
《本物の学者先生が見てたのかよw》
《魔法×科学とか胸熱すぎる》
《でも待って先生。その消えたゴミはどこに行ったの? 質量保存の法則的に、無にはならないよね?》
『いい着眼点だね。科学的な視点はとても大事だよ。……答えを言うとね、その汚染物質は魔素に変換されたんだ』
『マナ……魔力、ですか?』
『そう。この世界は魔力が薄いからね。この「浄化」の魔法は、世界にとって有害な不純物を分解し、純粋なエネルギーである魔素へとリサイクルして、大気中へ還す循環システムでもあるんだよ』
《ゴミを魔力に変えるってこと!?》
《永久機関じゃん!》
《俺たちが掃除すればするほど、世界に魔力が増えるってコト!?》
《エコすぎるだろ……》
『その通り。君たちが部屋や水を綺麗にすればするほど、世界は魔力で満たされて、より豊かになっていく。一石二鳥だろう?』
《すげぇ……魔法ってそんな理屈だったのか》
《ねえ先生、ちょっと聞きたいことあるんだけど》
《これって、人の体にも使えるの?》
《血液サラサラにしたりとか》
《うちの父ちゃんが肺を悪くしてるんだけど、肺の中の汚れも取れるのかな》
『……先生、これ。もし人体にも使えるなら、病気も治せるんじゃ……』
『……結論から言えば、可能だよ』
《!?》
《マジかよ……!》
《医療革命じゃん》
『ただし、条件がある。人体への使用は、部屋の掃除とはわけが違うんだ。「人体の何が汚れで、何が正常か」を正確に理解していないと魔法は発動しない。例えるなら、口の中にある唾液だ。口の中にある間は、それは必要なものとして認識される。だけど、一度吐き出されたら、それはもう汚れたものとして認識されるだろう?』
『あ……そうか。認識が大切なんですね。もしも身体の中を無作為に「汚れ」と認識したら、必要な細胞まで消してしまうかもしれない……』
『その通り。だから、もしこの配信を見ている中に、人体の構造を熟知した医師がいるなら……血液中のウィルスや毒素、肺に蓄積された有害物質だけを特定し、魔素へと還すことができるはずだ』
《お医者さんが魔法を使えたら……》
《助かる命があるってことか》
《すごい、すごすぎるよミスティ先生》
《これ、医学界ひっくり返るぞ》
『魔法は奇跡じゃない。正しい知識と技術の積み重ねだ。……医療に従事する方々、もし見ているなら、ぜひ研究してみてほしい。君たちの医学知識とこの魔法が合わされば、今まで救えなかった命も、救えるようになるかもしれないからね』
『けれども、これが世界に広まったら……掃除会社の人とか、お医者さんが仕事なくなったりしませんか?』
《あー、確かに……ハウスクリーニングとか。清掃会社とかゴミ処理の人とかが困りそう》
《けども、それを言うなら技術の発展とともに消えた職業とか資格もあるわけだし、適応してもろてとしか》
《ワイ、AIに仕事を取られてクビになる一歩手前になりそうなんだが》
『その辺りは、大丈夫じゃないかな? さっきの医師の話と一緒さ。「何が汚れで、何が汚れじゃないか」「本来あるべき綺麗な状態とはどういう状態か」を認識していないと、この魔法は正しく発動しないからね』
《つまり、本能的に汚れと認識してないといけないってことかな?》
《あー、まぁーねー! 臭いも香水の匂いが嫌いな人には異臭だけど、それをつけてる人にはいい匂いだもんな》
『先ほど「黒カビが消えた」というコメントがあったけど、それは目に見える表面のカビを除去したに過ぎない。壁の奥に潜む「根」までイメージできていなければ、いずれまた生えてくる。完全に綺麗にするには、壁の構造やカビの生態を知るプロの知識が必要なんだ』
《結局のところは蓄積された知識と経験がものを言うっていうのは変わんないんだね》
《魔法で消臭しても、匂いの発生源を絶たんと行かんってことか。通りで魔法で空気綺麗にしてもすぐに臭くなるわけだ》
《wwwまずは掃除しろw》
《それはこの世界にも言えるよな。汚したものをまず俺たちの手で綺麗にせんといつまで経っても汚ねぇまんまだ》
『魔法は便利なようで不便で、不便なようで、みんなの創意工夫でいくらでも便利な技術になる。それを忘れないでね』
カスミ《そうですわね。一人一人が世界を綺麗に使えばいい話ですものね》
ムジカ《けれど、これで家中ピカピカにできますわねぇ。お引越しついでに、お世話になった事務所ですもの、みんなでキレイキレイにしましょうねー》
レン《そうです! これからお引越しにピッタリじゃないですか! 新しい事務所でもこの魔法で常に綺麗保ちましょう!》
みーまう《お菓子の散らかしも魔法できれいきれいなのですよ》
『この魔法は全員が使えるはずだから、みんな世界を綺麗にするのに協力をお願いするよ』
『お願いします!』
《おー! 任せといて、この世界をピカピカにしてやるぜー!》
《とりあえずは近くの池とか行って試しに魔法で綺麗にしてみよう》
《どぶさらいからすっか! 俺たちの世界だもんな!》
『それじゃあ、今日はこれでおしまい! みんなも身近なところでまた試してみてね。それじゃ挨拶!』
《きりーーつ》
《れーーい》
《ちょっと、男子ぃー! ちゃんと掃除してー》
《そういう女子はクラスに必ず1人はいるよねwww》
キーーンコーーンカーーンコーーン!
【ミスティの楽しい魔法教室】
登録者、5.6億人




