表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

傷ついた睡蓮

作者: 桂螢

仏頂面な俺が、笑顔を絶やさない女性と婚約したことがある。今振り返ると、不器用な俺には彼女は高嶺の花だった。


俺は造園家で、彼女は客だった。彼女の家の庭に小さな池を造設するよう任されたのが、たまたま俺だった。彼女のたっての希望で、彼女が好きだという睡蓮を、泥まみれになってその庭池に植えたのも俺だ。睡蓮が仲人となり、瞬く間に親しくなり、自然な成り行きで一緒になった。


彼女は誰からも愛されるし、誰にでもいい顔をする人だった。隣で同じ時を過ごしていると、俺の純粋だった愛情は、日に日に少しずつゆがんでいった。優等生な彼女は、劣等生な俺にはまぶしすぎた。立派な彼女のそばにいると、何かにつけ負けているような、いらいらするコンプレックスに包まれた。


新居に向けて準備を始めるために、彼女と会う約束をした当日。俺は一方的に煮詰まった挙げ句、冷たくわがままで大馬鹿な言動をやらかした。あんなに好きで仲睦まじかった彼女を一方的に拒絶し、婚約破棄してしまった。彼女はわけが分からず取り乱していた。人づてに、泣きじゃくっていたと聞いて、俺は激しく落ち込んだ。冷静になって省みると、自業自得である。


彼女と会わなくなって三年。歳月が過ぎたお陰で、彼女を思い出す頻度が途切れ途切れに少なくなっていったある日。仕事で新婚夫婦の顧客を相手にした。奥さんが偶然にも彼女と同じく睡蓮が好きだと笑顔で話してきた。トラウマが蘇った。おそらく俺の顔は引きつり、様子が若干妙に見えたと思う。


その日の夜、一人で手作りしたチャーハンをゆっくり頬張りながら、今更ながら悟った。結局俺は、百八十センチの上背が嘘みたいに、精神年齢が幼くて、誰に対してもひがむ情けない社会人なのだと。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ