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 「魔剣じゃ、ない?」

「どういう事だ?」


カイルとゲイリーは驚きと戸惑いを見せた。

剣を睨みつけたまま、エルマーは続ける。


「よく似せて造られた模造品(レプリカ)だ。しかもつい最近の作品。

あと俺は一度だけ本物の魔剣を見たことがあるけど、魔剣は剣自体が魔力を帯びているんだ。

魔術も施されているから本来は剣身に術式が組み込まれているはずだ。

しかし見たところこの剣にはそれがどちらもない。」


エルマーは剣から目を離し、カイルの方へと向き直った。


「手に取ってみても?」

「どうぞ」


許可も得たのでエルマーはポケットから白手袋を取り出し両手にはめた。

そしてガラスケースの蓋を開け、剣を手に取った。

真剣な面持ちでじっと観察している。


「この部屋は普段施錠されているんだよね?この部屋の鍵を持っているのは?」

「ああ、父と家令だけだ。部屋の掃除なんかは家令がしているんだ」

「他にこの部屋に入る可能性のある人は?」

「父と家令の他は…父に招かれて来た客か、僕と弟かな。

弟は士官学校に通っていて休暇にしか帰ってこないから、しばらくこの部屋には入っていないと思う」

「なるほどね…。ちなみにその家令の名前はダリル・スペンサー?」

「ああ、そうだが…何故そんな事を?」


「この魔剣モドキはミスター・スペンサーの依頼で作られたからだよ」





 エルマーはポケットからペンと手のひらサイズのノートを取り出した。

そこにさらさらと書き付けると破り取って二人に見せた。


「鑑定結果だ。」


そこにはこう記されていた。


__________________


魔剣『ニンバス』(模造品)


ニンバスと銘を持つ魔剣を模した剣。

名匠オリバー・ノールズにより製作。

魔剣ではないが剣としては非常に素晴らしい出来。

剣身にはブラックアダマンタイトを使用。

鍔と柄頭には火の魔石が嵌っている。

魔術は施されていない。

一年前にダルトン家の家令ダリル・スペンサーの依頼で作られた。

評価額一〇〇万リブラ。

なお本物のニンバスは破損している。

__________________


「これは…」

「ミスター・スペンサーに話を聞く必要があるな」


カイルが呼び鈴を鳴らすと、程なくしてダリルが部屋に駆けつけた。

部屋に入るとカイルに向かって一礼し伺いを立てた。


「お呼びでございますか」


ダリルはきちんとなでつけられた白髪混じりのブルネットに、上級使用人用の燕尾服をビシッと着こなした初老の紳士だ。

長くダルトン家に仕えており、伯爵の信頼も厚いという。


「ダリルに聞きたい事がある。この魔剣の事だ」


カイルの言葉にダリルの顔色が変わった。

が、それも一瞬の事ですぐに元の表情に戻った。


「その件につきましては旦那様から口止めをされておりまして…」

「僕は次期伯爵だ。いずれこのコレクションルームの品々も受け継ぐ。

ならば僕には聞く権利があるんじゃないのか?」


ダリルは唸るように押し黙った。

幾ばくか逡巡した後、苦渋の決断といった面持ちで静かに口を開いた。


「この事はくれぐれも、くれぐれも他言無用にして下さいませ。

…あれは一年程前の事でございました。

旦那様はいつものようにコレクションを眺めながら晩酌をなさっておりました。

しかしその日は興が乗ったのかこの魔剣を手に取りまして、振り回し始めたのです。

それ自体はままある事なのですが…旦那様が酔いに任せて力を入れすぎたのか真っ二つに折れてしまい…。

慌てて剣職人の工房に修理を依頼したのですが、魔剣を扱う事は出来ないと断られ。

やむなく模造品を作製してもらい、その間に魔剣を打てる職人を探しているのです」


ダリルは沈痛な面持ちで深い溜息を吐いた。心中は察して余りある。

泥棒でなかったのは幸いだが、まさかの伯爵のうっかりによるものだったとはさすがに三人も予想していなかった。


(しかし魔剣を折るなんて、伯爵はどんだけ怪力なのか…。さすが軍神と言うべきか)


伯爵の腕力にエルマーは内心慄いた。

ちなみにブラックアダマンタイトはこの世界で最も硬い鉱物の一つとされている。


「もしかして、前に半年位部屋に入れなかったのは…」

「はい、代わりの品が用意出来るまで誰も部屋に入れるなと仰せつかっておりましたので」


伯爵はどうやら秘密裏に解決してなかった事にしたかったらしい。

エルマーが来た事でそれが露見してしまったのだが。


「今どき剣を作れる職人は少なくなってきてますからね。

ミスター・ノールズはその中で群を抜いて腕の良い職人だ」

「よくご存知で。ダルトン家では昔から良い職人への伝手がありましてな」

「まぁ、鑑定スキルだけじゃなく知識もないと鑑定士はやっていけないんで」


エルマーは肩を竦めてそう答えた。

実際この国では正式に鑑定士として働くためには、幅広い知識や審美眼を問う試験を受け、国に登録する必要がある。


「あ、そういえば魔剣職人なら知ってますよ。国内では恐らく唯一だと思います。

事を暴いてしまったお詫びと言ってはなんですが、話をつけましょうか?」

「!本当ですか!」

「ええ。前にちょっとご縁がありましてね。

ただ、何と言うかすごく気難しい人なので…依頼の際は伯爵ご本人が直接行って正直に話した方が良いとは思います」

「成程承知しました。旦那様にもそうお伝えします」


ダリルはエルマーに深々と礼をした。

何とかなった、とホッとしているエルマーの肩をゲイリーが抱き寄せる。


「おっ、これで一件落着、かな?」

「本物の魔剣はまだどうにもなってないけどな」

「まぁなんとかなるでしょ。話も済んだし、これからパブにでも行くか」

「おお、いいな」


三人は一仕事終えたような開放感を感じつつ、早速ゲイリー馴染みのパブへと向かったのだった。



あっさり口を割る家令も如何なものか…と思わないでもないですが、話の流れ的におしゃべりしてもらいました。

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