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 明くる日の午后。中央街の老舗コーヒーハウスで二人は件の人物を待っていた。


「ところで、今日会うのってどんな奴なんだ?」


エルマーはコーヒーをひと口飲み、顔を顰めて角砂糖をボトボトとカップに落とした。

彼は大の甘党である。


「やっぱりホットチョコレートにすればよかった」

「カッコつけてコーヒーなんか頼むから。

そうだな…名はカイル・ダルトンといって、カレッジで俺とは専攻が違うがたまたま知り合って意気投合したんだ。

本人は事務官をしてるけど、お父上は陸軍少将をなさっている」

「あの”軍神”て呼ばれているハイドラント伯爵?」


ダルトン家といえば古くから騎士の家系で、騎士団長を多く輩出していたという由緒ある家柄だ。

現在では軍の要職に多く就いている。

その嫡男は名目的爵位(カーテシー・タイトル)のハリス子爵を名乗っていた。


「そう。カイルは軍人には向いてないからそっちには進まなかったけどね。

あとは…良くも悪くも”貴族らしくない奴”、かな」

「ふうん」


貴族らしくない貴族であるゲイリーが言うのだから相当だろう。

そしてそのカイルは現在待ち合わせに遅刻中である。

しばらく二人がしょうもない雑談に興じていると、身なりの良い男が急いで近寄ってくるのが見えた。


「すまない、思ったより道が混んでいて遅れてしまった」


背が高くすらりと細身で、切れ長の青い目が涼し気な顔立ちの美人だ。

貴族というのは顔が良い奴が多い、エルマーはそう思っている。


「やあ、待ってたよカイル。こちらが俺の親友エルマーだよ」


ゲイリーが軽く右手を上げて立ち上がったのでエルマーも続いて席を立った。


「はじめまして、カイル・ダルトンだ。君が噂の名鑑定士殿だね」

「はじめまして、マイ・ロード。エルマー・クレイトンと申します。

レイニー・ストリートの店で鑑定士をしております」


エルマーがエチケット通りの礼をすると、カイルは苦笑いでそれを制した。


「ああ、堅苦しいのはなしにしてくれ。そういうのはあまり好きじゃないんだ。

学生時代からの友人の友人に、プライベートでハリス卿だなんて呼ばれたくないからね。

僕の事は気軽にカイルと呼んでくれ」

「では、よろしくカイル」


エルマーは人好きのする笑みを浮かべて手を差し出した。

カイルは今度はにっこりと笑いその手を取って握手をした。

どうやら貴族らしくない、というのは本当らしい。






 カイルはコーヒーを注文すると、早速本題に入った。


「君に見てもらいたいものというのは、魔剣なんだ」

「ほう、魔剣」


この世界で魔剣というのは魔術が施された剣全般をいい、剣によって様々な効果が付与されている。

素材や製造に特殊な技術が要るため、非常に珍しく高価な物だ。


「何代か前の当主が何かの褒賞として賜ったらしいんだがね。

今度ゲイリーの紳士クラブの鑑賞会で披露しようと思っていたんだが…」

「鑑賞会?」

「ああ、持ち回りで美術品なんかを用意して皆で眺める会だよ」

「はあーさすが貴族。ゲイリーは相変わらず好事家(ディレッタント)だなー」


ゲイリーは芸術家のパトロンも多くしていたりと趣味人としても有名で、その関係で爵位問わず交友がある。

そして陽キャでコミュ力お化けなので非常に友人が多い。


「それで、今回は僕が当番なんだ。それで久しぶりに見てみたら魔剣が何だか変な感じがして…。

一度鑑定を頼んだ方がいいかと思ってゲイリーに相談したんだよ」

「事情は分かったけど何で俺に?ダルトン家くらいになればお抱えの鑑定士だっているんじゃないのか?」

「一応祖父の代から懇意にしている鑑定士は居るんだが…何分高齢でね。

そろそろ次代の鑑定士を探そうかと思っていたところにゲイリーから君の話を聞いたんだ」


話を区切ったタイミングで注文したコーヒーが来た。

カイルは一息つくようにコーヒーを口にした。


「話は分かった。俺で良ければ鑑定に伺おう」

「ありがとう助かるよ。では、明後日の一四時にダルトン家の屋敷に来てくれ」






 「ゲイリー、俺は本当にこの格好で大丈夫か?」


今日のエルマーは、かろうじて持っていたダークグレーのツイードのラウンジ・スーツを着込んでいる。

これは彼にとって一張羅である。あとは姉の結婚式に着たモーニングしかない。

ふわふわとまとまりのない栗色の癖毛を真剣に撫でつけていた。


「大丈夫大丈夫!正式な訪問て訳じゃないし。

ちょっと同級生の家に遊びに来ただけ。ね?」


ゲイリーは今日はシルクの黒とグレーのストライプのラウンジ・スーツだった。

洒落者のゲイリーらしく、今年流行のデザインだ。

おろしたてのシルクハットもよく似合っていた。

 門で守衛に取り次ぎを頼み、魔導車に乗ったまま敷地内を進んでいく。

伝統ある伯爵家だけあって広大である。もはやちょっとした城と言っていい大邸宅にエルマーは慄いた。

フットマンに案内されるままに応接室へと向かい、落ち着かないまま出された紅茶を飲んでいると、カイルが部屋に現れた。


「やあ、二人とも今日は来てくれてありがとう」


カイルは向かい側のソファに腰掛け、一息つくと話を切り出した。


「魔剣はコレクションルームにあるんだ。普段は施錠してるんだけど、今日は鍵を家令(ハウス・スチュワード)から借りてきた」


そう言ってカイルは取り出した鍵をクルクルと指で回す。

三人は早速コレクションルームへ向かうことにした。





 カイルに連れられて入ったコレクションルームには古今東西の武具が納められており、まさに圧巻であった。


「すごい…英雄パーシファルの戦槍に、これなんて精霊剣じゃないか…!

うわあ、精霊剣なんて初めて見た…やば」


代々の当主により収集された武具は逸品揃いでエルマーは目を輝かせた。

興奮のあまり鼻息が少々荒くなっている。


「こらエルマー、鑑定に来たんだろう」

「そうだった」


ゲイリーに窘められ、エルマーは我に返った。

照れ隠しのようにわざとらしく咳払いをする。


「このケースにあるのが例の魔剣だ」


示された先には、ガラスケースに納められた剣が置かれていた。

剣身は黒く鈍い光を放ち、鍔と柄頭には魔石があしらわれている。

『ニンバス』という銘が付いているようだ。

と、エルマーは顔を顰めた。


「これは、魔剣じゃない」


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