青い惑星
青い惑星、全宇宙にバカンスにもってこいの星として知られている。
来星する方たちの乗って来た宇宙船は全て青い惑星の衛星に着陸。
衛星から青い惑星を眺めた後、青い惑星の地下にある各ステーションまでテレポーテーションで移動する。
それは青い惑星の景観を損なわない為だった。
雪が積もり真っ白な山々をスキーやスノーボードで滑り降りるのも良いし、真っ白な山々の眼下に広がる広い湖でスケートを楽しむのも良し。
逆に青い海が広がる海岸でマリーンスポーツを楽しむの良い。
それらの観光地は地下を走るリニアモーターカーで繋がっている。
山や海の観光地の地上にあるのは、宿泊施設とレストランぐらいしか無い。
それらも景観を損なわないように建てられている。
レストランの前ではレストランで働くアンドロイドたちが呼び込みを行っていた。
「いらっしゃいませ、いらっしゃいませ、名物のカレーライス、カレーウドン、カレー焼きそば、カレーラーメン、いかがですかぁー!」
騒がしい観光地から遠く離れたプライベートビーチ。
私は大きなビーチパラソルの下でビーチチェアに寝そべるリタンお嬢様に、トロピカルドリンクを差し出した。
「お嬢様、トロピカルドリンクです」
「ありがとう」
リタンお嬢様の正式名称は、リタン • リタン • リタン • リタン • リタン。
文字で書くとリタンが5つ並んでるだけだが、発音した場合は強弱や微妙な言いまわしの違いに気がつく筈だ。
最初のリタンはリタン星のリタン族を表している。
もっとも現在のリタン星の住民はリタン族だけなので、リタン星の住民を表していると思って頂ければ良い。
次のリタンはリタン族の聖地のリタンを表している。
だからリタンお嬢様はリタン族の中でも上位の地位を持つ。
3つ目のリタンは母親の出身部族名で4つ目が父親の出身部族名、リタン族は母系社会なので母親の出身部族名が先に表示されるのだ。
それで最後のリタンがリタンお嬢様自身を表す名前。
リタンお嬢様は、今私たちがいる青い惑星の所有者。
だから全宇宙にバカンスにもってこいの星として知られる青い惑星を運営しているのは、お嬢様なのだ。
お嬢様が此の星の事を知ったのは、お嬢様の曽祖母のリタン様の手記を読んだから。
数千年前、リタン様が宇宙旅行を楽しんでいた時に立ち寄った、地球という青い惑星の日本という地名の場所で食べたカレーライスが美味しかったと、書かれていたのだ。
食いしん坊のお嬢様はカレーライスというものを無性に食べたくなり地球にやって来たのだが、青い惑星は何処にも存在しなかった。
星図に書かれていた場所にあった惑星は青い惑星では無く、大気は二酸化炭素の量が凄まじく多く数百度の気流か循環し、空は厚い雲に覆われ海は煮えたぎっていて大地は不毛の大地が広がっている、不毛の惑星。
大地には動植物の姿は皆無。
辛うじて海の奥底に高温に耐えられる少数の生物が細々と生きているだけ。
それなのに青い惑星を此のような不毛の惑星にした元凶の人間は、大地の奥底に逃げ込み生存していた。
生存していたと言っても、絶滅一歩手前って状態だったけど。
お嬢様は生き残っていた人間たちの頭の中をスキャンして、カレーの作り方を知っている者を探す。
そして数百人程の生き残りがいたシェルターの中に、カレーの作り方知っている者たちを見つける。
お嬢様はそいつらと取引して、カレーを作り提供すれば生きていけるだけの食料や酸素にエネルギーの提供を申し出た。
此れからも生存出来るならとそのシェルターの者たちは承諾する。
お嬢様は人間との取引がなると、凄まじい数のアンドロイドを投入して惑星を改造し、僅か1週間で不毛の惑星を数千年前のような青い惑星に変えた。
それで今そのシェルターの者たちは、此の青い惑星で提供されているカレーを地下深くで作り続けているのだ。
「お嬢様、昼食のハンバーグカレーが届きました、お食べになりますか?」
「当然でしょ」
お嬢様は嬉々とした声で返事をされた。
ハンバーグカレーを一口召し上がって呟く。
「ウン、美味しい。
ホント、彼奴等の取り柄は此れだけね」
因みに、カレーを作り続けているシェルター以外で生きていた取引対象外の人間たちは、お嬢様の援助を受けられず絶滅していた。