09:公爵家令嬢
「それはそれは厳しくはありませんか? 私目はただのしがない冒険者。大目に見ていただければ幸いです」
「大目に見て及第点に決まっているじゃない」
「辛辣やー」
でも俺は気にしない。ただ俺はロールミッションをしに来ただけだからな。
「早くここから出しなさい」
「かしこまりました、お嬢様」
鉄格子越しの会話だったがその鉄格子にかけられたカギを炎で溶かして開けた。
「他の牢も開けなさい」
「そのつもりですよ」
ここに来たのだからお嬢様だけを助けるわけがない。
牢屋をすべて破壊して動ける女性は出てくる。だが動けない女性がいた。
「あ、あの、手を貸してもらえませんか……?」
女性は足を手でおさえており、近づいて見ればひどく腫れていた。
ついでに言えば女性は俺が近づいたら少し怯えた感じがしていたからどんなことをされていたのかは少し想像がついた。
まあここにいる女性たちはみんな同じように受けていたんだろうけど。
「治します」
「えっ」
神龍の炎を出して女性の足に当てる。
「きゃあああああああああ!」
村全体に響いたんじゃないかってくらいの声を女性があげる。
「お前何をしているんだ!」
「何って――」
俺の返答を聞く前に男勝りな女性が俺の顔面に蹴りを入れてきた。
「話くらい聞いてくれません? これは俺を仕留めに来てる威力ですよ」
まあそんなもの、俺には全く効かないからいいんだけど。
そんなことをされても炎を止めずに治療を続けていたからすぐに女性の足の腫れは治った。
「これで立てますか?」
「えっ……」
叫び声を上げてから頭を抱えていた女性が自身の足を見て治っているのを確認した。
「な、治ってる……!」
立ち上がって足が無事に治っていることが分かったから良し。
「怪我をしている人がいればこの炎で治せますよ。今なら何と肩こり腰痛頭痛まで治しますよー」
「それならこの傷も……!?」
目の前にいる女性が袖をめくれば火傷の跡と化膿した傷があった。
「できますよ。ついでに全身綺麗にしておきますね」
今度は女性の全身に炎を纏わせる。
「だ、大丈夫なのか!? 燃えているぞ!?」
「うん……熱くない。それに、心地いい……」
気持ちよさそうな顔をして炎を受け入れる女性の傷をすべて治し、炎を消す。炎が消えた時に名残惜しそうな顔をしていたから本当に心地よかったのだろう。
「ほ、本当に大丈夫なのか……?」
「うん! 全部治してくれた!」
服をめくって色々なところを見せる女性の体はすでに綺麗な体だ。だからついつい目をやってしまうのは悪くない。
「って、何見てんだよ!?」
「仕方ないじゃないですかー。こんなところでされたら視線が行っちゃいますよ。それよりも他に傷を治したい人はいますかー?」
「いえ、それは後回しよ。動けないのは彼女だけだからすぐにこの村から出るわよ」
スィオピ公爵家の一人娘がそう言ってきたから女性たちの治療は後になった。
そして俺は唯一気絶させている男に近づいた。
「暴れないように縛りなさい」
「無理ですよ。しがない冒険者にそんなことできません」
「はぁ? あの炎は治癒魔法だったじゃない。治癒ができて縛ることができないわけ?」
「まあそういうことになりますね」
「ハァ、魔力をよこしなさい。私がやるわ」
「どうぞどうぞ」
俺が手のひらを差し出せばお嬢様は手を乗せれば俺から魔力を吸い取っているのが分かる。
「……こんなに吸っても平気なの?」
「遠慮してるんですか? 俺はまだまだ余裕ですよ」
「とんでもないわね……いえ、もういいわ」
魔法の縄を作り出したお嬢様はそれを俺に渡してきたから俺が縛る。
男を引きづりながら俺たちは階段を上がる。他の女性たちはまだ外の様子が分かってなくて外に出ることを躊躇していたから俺と一緒に出る。
「ウキ?」
「ぎゃあああああああああ!」
そりゃ建物を出てデカいサルがいたらビビるよな。
「おい神猿、遠くに行ってろ」
「ウキ!」
「は? お前さっきやっただろ」
片っ端から武器を拾ってきた神猿はそれらを抱えておりすべて神具にしろと言ってきている。
「ウキキ、ウキ」
「いい根性してやがる……!」
しかもやらないと離れないと言っている。
戻してやろうかと思ったがまあすぐにできるから聞いてやることにした。
「いいか、これで最後だぞ」
「ウキ!」
神猿が抱えている汚い武器に手を当てればすべてが神具になり満足した神猿は離れていった。
「また要求してくるだろうな……」
それらを使えばいいがコレクションだから使わない気がするな。しかも千具じゃなくなってるし。
「あの神性を帯びた獣はあなたの仲間かしら?」
俺の次に出てきたお嬢様がそう聞いてきた。
「いえ。式神って言い方で分かりますか?」
「あぁ、使い魔のことね。その言い方は珍しいわ」
まあこっちでも日本に似た文化があるのかもしれないが知名度がないのかもしれない。
「それよりも神性の獣を使い魔にしていることの方が珍しいわね」
「神性だからですか?」
「そもそも見つけられないってことよ。それに強くなければ使役することができない」
なるほど、そういう認識になるのか。前回の世界でこの十二神獣の説明を受けた時は俺の術式であり俺の分身とも言える存在だ。
だから使役とか見つけられないとかの次元で話せないが、まあそんなことはどうでもいいか。
「出てきていいわよ。もうこの村に私たち以外に生きている人間はいないわ」
後ろの女性たちは神猿がいたから家の中で身構えていたがお嬢様の言葉でゾロゾロと家から出てくる。
だが外は俺たちが惨殺した死体がゴロゴロとあっていい景色ではない。
圧縮されて血溜まりの死体、切られて体がバラバラになっている死体、殴られてぐちゃぐちゃになっている死体。この三パターンとなっている。
気持ち悪そうに吐きそうにしている女性が少しいるが、それ以外の女性たちは原型が残っている男の死体に近づいて蹴り始める。
「ざまぁみろ!」
「こんな死に晒していい気味!」
「この! このぉ!」
鬱憤が溜まっていたんだろう。どれほどのことをされていたのかが垣間見える。
だが俺にしてみればつまらないことだと言わざるを得ない。
「そんなことをして楽しいですか?」
「はぁ!? お前にはあたしたちが受けた苦しみが分からないからそんなことが言えるんだよ! 死んでも愚弄されるべきやつらだ!」
「いや、死んだらただのものですよ。そこに何の感情もない、ただのそこら辺の石と変わりません。生きている人間がいるじゃないですか」
ただの八つ当たりと変わらない。それをしたところで何も鬱憤は晴らせない。
「ちゃんと生かしなさいよ」
「もちろんですよ」
ちゃんとお嬢様は俺の意図を分かってくれてさすがだ。俺は引きづっていた男を彼女たちの前に出す。
「ほら、ここにいますよ」
「で、でもこいつ生かさないといけないんだろ……?」
「俺の能力は見たはずですよ。たとえ虫の息でもすぐに生き返らせることができます」
「こ、こいつが起きて襲ってくるかも……」
「何を怯えているんですか? 俺は一人で、この村の奴らを殺したんですよ? そんな俺がいてたった一人の男が何ができるんですか? ほら、俺がそばにいますから」
俺がそう言った瞬間に女性は男を思いっきり蹴った。
「この! この! 死ね! お前が死ね!」
何度も何度も男を蹴る女性。
「わ、私もやる!」
「あたしも!」
「私にもやらせて!」
女性たちが集まって男をボコボコにしていく。そろそろで死にそうだなってところで女性たちを止めて男を元通りにさせれば男は目覚める。
「な、なんだてめぇら!」
男が目覚めて女性たちは一気に引いて行く。
「おめでとう、どこの誰かも分からない卑劣な男よ」
「てめぇ!」
男は俺に食って掛かろうと動こうとするが男の腹に足をめり込ませて黙らせる。
「今日からお前は八つ当たりマシーンとなった。対価は生存。思う存分に生を実感するといい」
「ふざけんじゃ……!」
俺は女性たちに視線を向ければ女性たちはすぐさま男に近づいて袋叩きにし始めた。
「王子様は酷いことをさせるのね」
一歩引いた俺のところにお嬢様が近くに来て俺をとがめるわけでもなくそう言ってきた。
「人間の根本にあるのは闘争ですよ。それを折られていては生きてはいけない。だからここで自分たちは戦えると教えないと」
「だから酷いことをさせていると言っているのよ。今の彼女たちにそれを呼び起こせばこれからの人生闘争でしか生きられない」
「いいじゃないですか、狩られる側よりも」
「……そうね」
女性たちが一通り満足するまで待ってから俺たちはプネウマ王国に向かうことになった。
だが問題はここから少し距離があるということだ。
「この神馬でも乗せれる上限があるわ」
神馬は神猿と違ってみんなから綺麗だし触り心地が良く誰でも受け入れてくれるからという理由ですぐに受け入れられた。
「歩く以外でいい案を出しなさい」
まるで出さなければ許さないと言った圧を出してくるお嬢様だが俺の十二神獣たちはそれをできるポテンシャルを持っている。
「かしこまり。もう移動してもよろしいですか?」
「いいわよ。ここにいる全員を移動させなさい」
「じゃあ出発いたしまーす」
俺は地面の下にちょうどいい大きさで神蛇を顕現させる。さらに神蛇には神鳥の力で姿を消す。
だからその状態で神蛇が地面から出て来れば俺たちが立っている地面が浮き上がっていることになっている。
「うぉ! すげぇ!」
「すごい! これは魔法!?」
女性たちは地面が浮いていることに驚いているが下に何がいるのか分かっているお嬢様は違った。
「とんでもないものが下にいるわね……!」
「俺の式神の一体ですよ。このまま王国まで向かいます」
神蛇は一気に王国まで進む。この勢いならすぐに王国までたどり着けそうだ。
ちなみに神蛇が通った後は道みたいになっているのを分かっているのは俺とお嬢様だけだ。
「そう言えばまだ王子様の名前を聞いていなかったわね」
「そうですね。てかなんで王子様?」
「そんなことはいいのよ。早く言いなさい」
「姓が天日、名が晴明。放浪の旅をしている冒険者です」
俺の自己紹介は周りにいる女性たちもしっかりと聞いていた。
「……天日晴明。聞いたことがないわね」
「まあまだBランク冒険者ですし」
「神獣を使役しているのならすぐに名が通ると思っていたけれど、訳ありみたいね」
まあ訳ありだし十二神獣は前から引継いできたものだから絶対に神獣使いとして名前は通らない。
「こちらは名乗ったのでお嬢様もお名前よろしいですか?」
とりあえず名前は知りたい。一応ロールミッションはクリアになっているがこの中でスィオピ公爵家の一人娘が他にいるかもしれない。
「知らずに助けたの?」
「そうですね。目撃者がいて助けに来ただけなので」
「ふーん……そう」
な、なんだこの怪しむ目は。何かおかしなことを言ったのだろうか。
「まあいいわ。私の名前をその脳髄に刻み込みなさい。私はスィオピ公爵家の一人娘、アナスタシア・スィオピ。あなたがこれまで、これから出会う中で一番美しい女よ」




