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「へー、そんなに使役している神獣たちがいるんですねー」
「そうですね」
神蛇の頭に乗りプネウマ王国に向かう道中、俺に積極的に話しかけてくる女性がいた。
長い茶髪を後ろに束ねた大人しそうな女性、エイミーさんだ。この人は俺が腫れていた足を治して全身を治した女性だ。
「晴明様の故郷はどちらですか?」
エイミーさんはかなり積極的に俺のことを聞いてくる。それに様付けは初めてだから少しだけむずがゆさを感じてしまう。
「故郷は言えません」
「ご、ごめんなさい! 気分を害してしまったでしょうか……?」
俺は普通に答えたつもりだったがなぜかひどく怯えた感じで俺の顔を窺ってくるエイミーさん。
「そんなことで気分を害さないですし怒らないですよ。ただ本当に言えないだけです。俺の故郷はそういうところですから」
この世界での天日晴明の情報を深掘りしていけば俺の故郷はある力を恐れられ滅ぼされた。だからその出自を知られてしまえばどこから狙われるか分からないくらいにヤバい。
「ほ、本当ですか……?」
「本当ですよ。だから気にしないでください。それよりも今度はエイミーさんのことも教えてほしいです」
「は、はい! 記憶の限りお伝えします!」
記憶の限りが物心ついた頃からだとは思わず長編映画が始まるかと覚悟した時、アナスタシアさんが声をかけてきた。
「話はそれくらいにしなさい。これからやることを言うわ」
ただここから入るだけじゃないのか。
「まず、私とあなたで知られずに王国の中に入る必要があるわ」
「どうしてですか?」
公爵家ならそのまま入ればいいだろうにって聞くのは野暮か。これを言うには間違いなく何かあって、俺はそれに突っ込んでいる。
「本当に何も知らないのね。いいわ、無知で可哀想なあなたに教えてあげる」
「どうぞこの無知な私目にお教えください」
さてさて、どんな事情に突っ込んでいるんだか。
「プネウマ王国の国事情は分かっている?」
「いやなにも。この国に着て一日も経っていないですから何も分かっていないです」
「それならこの私が簡単に説明するわ。プネウマ王国の魔法のレベルが他の国よりも高く、魔法の技術は世界最大と言われていることは分かるわよね?」
「それはもちろん」
「そうなっているのはプネウマ王国の魔法使いたちが魔法に対してかなりの興味を持って、なおかつ魔法の素質が高いということが主な要因ね」
「当然の帰結ですね。人は興味があることにしかモチベーションが上がりませんからね」
「ただプネウマ王国の魔法使いはその度を遥かに超えていた。プネウマ王国は遥か昔、一度滅びかけているのよ。興味が故に愚かな魔法使いが魔神を召喚したがためにね」
魔神! そうか、プネウマ王国は一度魔神が召喚されているのか。
「魔神ですか」
「そうよ。あなたも名前だけは知っているでしょう? この世界に存在してはならない外界の存在であり、人間が太刀打ちできないほどに強い上位の存在」
この体はよく知っているとも。この体はそういう死すらもない存在に死を与える役割を持った一族だったのだから。
「名前だけは知っていますね。でも魔神が召喚されたのに滅びかけただけで終わったんですね」
「その時は幸運にも召喚が不十分だったから助かったのよ。そのことがあってプネウマ王国は魔法の発展を監視することを決めた。それがマギア機関よ」
マギア機関! こんなにも早くクリアの条件が目の前に来るとは思っていなかった!
でももう少しだけ手ごたえがないと面白みに欠けるなぁと思ってしまう。
「マギア機関?」
とりあえず聞いたことがないような反応をする。
「マギア機関はさっきも言った通り悪いことに魔法が使われないようにするために監視する機関よ。スィオピ家はマギア機関を国家とは別に管理することを言い渡されていたわ」
「今は違うんですか」
「魔神が召喚されてからかなりの時が経った今、魔法は管理されるものではなく自由にあるべきものだという主張が大多数を占めているのよ。だからマギア機関は解体、そしてこれまで魔法の自由を束縛されていたとしてスィオピ家はかなりの財を魔法の貢献のために徴収されたわ」
「えっ、バカしかいないじゃん」
「そうよ、バカしかいないのよ」
現在が過去より魔法が優れていたとしても、魔法の失敗はなくならない。それを分からない時点でバカとしか言いようがない。
「スィオピ家は嫌われているわけですね」
「別に私は有象無象に嫌われても気にしないわ。ただ度が過ぎればやり返す。でもスィオピ家が何かをすればあることないことを脚色されて罰せられるのよ」
「そういうことですか。だからバレずに中に入りたいわけですね」
「そうよ、分かったかしら?」
「十分すぎるほどに。それで俺は何をすればいいんですか?」
「私と晴明でスィオピ家に向かうわ。そこでお父様とお母様と妹、それから数人の使用人を連れ出すわ」
「連れ出す……王国から出るんですか」
「えぇ。もう王国に安全なところはないわ。スィオピ家が所有する少し離れた土地に向かうつもりよ」
「安全? 誰かに狙われているんですか?」
「――狙われているわ、魔神の復活を企んでいるやつらにね」
そんなのがいるのかー。あー、公爵家のお嬢様が助けも来ずあんなところにいたのはそういうことかー。
「でもその話は後よ。今はとにかく私が大丈夫だということを家族に知らせ、家族を連れ出す。できるわよね?」
「もちろん。行きましょう」
神蛇の上にいれば女性たちは安全だとは思うが念のために神馬を顕現させておく。
「ほら、この私を抱き上げることを許すわ。光栄でしょう?」
「ありがたき幸せ」
両手を俺の方に出しているから俺が一歩アナスタシアさんに近づけばアナスタシアさんは俺の首に腕を回した。
初めての経験だが俺は何とかアナスタシアさんをお姫様抱っこに成功して神蛇から飛び降りる。
「神鳥」
大きく顕現させた神鳥の背に乗り姿を消しながら上空から王国の中に入る。
「この鳥の背には乗らないくらいにはいるわよ」
「大丈夫です。到着すれば何とかできます」
「分かったわ。あっちよ」
行きはどうしても座標が分からないからどうしようもない。
アナスタシアさんの言う場所に飛んで行けば大きく目立つ建物が見えた。目立っているのは大きくてボロボロだから悪目立ちしているからだが。
「いますね、周りに」
スィオピ家の周りに悪意を持った人間たちがいることにすぐ気が付いた。
「そうでしょうね。バレずに行って」
俺でなければこれまでの指示は中々できるものではないだろうにと思いつつ神鳥に少し高度を下げるように指示を出す。
「殴り飛ばせたら良かったんですけどね」
「そんなことをすればタダじゃ済まないわよ」
「言ってみただけです」
コソコソとしている奴らの背後から殴り飛ばせばどんな顔をするのか興味はあるが今はやめておく。
神鳥から降りても姿は消えたままだ。
「ここにいる人たち全員連れて行くんですか?」
「いいえ。ここにも裏切り者がいるわ。程よく殴って屈服させるか、洗脳しなさい」
「洗脳の方が早いでしょうね」
俺としては戦いたいけど時間がなさそうだし後者だ。
「どういう感じで洗脳すればいいですか?」
「ここに私たちがいるように行動させるのよ」
「またそれはアバウトな。でも分かりました」
俺じゃなければこんなことできないぞ。でも面白いからいいけどねー。
ホント神鳥様様になってしまう。神鳥は夢幻を司る神獣であり、その夢幻を現実に持ってくることができるしリアルを架空にすることだってできる秩序が崩壊する能力を持っている。
だから洗脳というよりかはその光景をずっと見せていると言った方がいいか。それを当たり前のように見ているだけだからな、そいつらは。




